顧客ヒアリングの質問項目と聞き方
顧客ヒアリングで聞くべきなのは「このサービスがあったら使いますか」ではなく、「最近その問題が起きたとき、実際に何をしましたか」です。未来の意向ではなく過去の行動を具体的に聞くことで、課題が本当に存在するかを判断できます。
ヒアリングの目的を一つに絞る
ヒアリングは、検証したい仮説によって聞く内容が変わります。1回のヒアリングで確かめることは、次のどれか一つに絞ると質問がぶれません。
- 課題の確認:想定した相手が、想定した課題を本当に抱えているか
- 解決策の確認:用意した解決策の案が、課題の解決に役立つと感じてもらえるか
- 購買の確認:誰が、どんな手順で、いくらまでなら導入を決められるか
新規事業の初期は、ほとんどの場合「課題の確認」から始めます。解決策を見せるのは、課題が確認できてからです。検証全体の順番は新規事業のアイデア検証でやることと進め方で解説しています。
聞き方の基本
過去の具体的な出来事を聞く
「普段どうしていますか」と聞くと、相手は理想や一般論で答えがちです。「最後にその作業をしたのはいつですか。そのときの手順を教えてください」と、特定の出来事を思い出してもらうと、実際の行動と手間が見えてきます。
意見ではなく事実を聞く
「便利だと思いますか」「使ってみたいですか」は相手の意見を聞く質問です。多くの人は話し手に気を遣って肯定的に答えるため、判断材料になりません。代わりに「そのためにいくら使っていますか」「何時間かかっていますか」「ほかの方法を探したことはありますか」と、確かめられる事実を聞きます。
話す割合は相手を多くする
ヒアリングは説明の場ではありません。自分のアイデアを説明し始めると、相手は評価する側に回り、自分の状況を話さなくなります。聞き手の発言は質問と相づち、確認に限り、相手が話す時間を多くします。
「なぜ」を重ねるときは言い方に注意する
背景を深掘りするのは大切ですが、「なぜですか」を繰り返すと詰問のように聞こえます。「そうなった経緯を教えてもらえますか」「そのとき一番困ったのはどの部分でしたか」など、言い方を変えて掘り下げます。
質問項目の例(課題の確認)
以下は、課題の確認を目的とした1回30〜45分程度のヒアリングを想定した質問の流れです。すべてを順に聞く必要はなく、相手の話に合わせて取捨選択します。
1. 相手の状況
- 担当している業務と、その中での役割を教えてください
- その業務には、ほかに誰が関わっていますか
2. 課題が起きた場面
- 最近、〇〇(想定する課題)で困ったのはいつですか
- そのとき、具体的に何が起きましたか
- それによって、どんな影響がありましたか(時間、費用、取引先との関係など)
3. 現在の対処法
- そのとき、どうやって対処しましたか
- 今使っている道具や方法、サービスは何ですか
- それにいくら、あるいはどのくらいの時間をかけていますか
- 今の方法の、どこに不満がありますか
4. 解決への取り組み
- これまで、ほかの方法を探したり試したりしたことはありますか
- 試してやめたものがあれば、やめた理由を教えてください
- 社内でこの問題を解決するための予算や計画はありますか
5. 締めくくり
- 今日の話の中で、ほかに付け加えたいことはありますか
- 同じような悩みを持っていそうな方をご紹介いただけますか
最後の紹介依頼は、次のヒアリング相手を見つける手段としても、課題の広がりを確かめる手段としても役立ちます。紹介先がすぐに思い浮かぶ課題は、同じ立場の人に共通している可能性があります。
避けるべき質問
| 避けたい質問 | 問題点 | 言い換えの例 |
|---|---|---|
| このサービスがあったら使いますか | 未来の仮定には誰でも「使う」と答えやすい | 最後にこの問題が起きたとき、どうしましたか |
| 〇〇に困っていますよね | 答えを誘導している | 〇〇の業務で、手間がかかっている部分はありますか |
| いくらなら払いますか | 実際の支払い行動と一致しない | 今この問題に、いくら使っていますか |
| この機能は必要ですか | 機能の要否は相手にも判断しにくい | その作業で一番時間がかかるのはどこですか |
ヒアリング相手の探し方
相手は、仮説で定めた顧客像に当てはまる人から選びます。話を聞きやすい人だけに偏ると、結果もゆがみます。
- 大企業の場合:既存事業の取引先は依頼しやすい相手ですが、営業担当との調整が必要になることが多く、取引関係への配慮から本音が出にくいこともあります。取引のない企業の担当者にも、業界団体や展示会、紹介などを通じて会うようにします。
- 起業家の場合:知人、前職の同僚、SNSでのつながりが出発点になります。ただし好意的な答えが返りやすいため、紹介の紹介など、関係の遠い相手にも広げます。
何人に聞けば十分かに決まった答えはありませんが、新しい相手から聞く話が以前と似たものばかりになってきたら、その仮説についてはおおむね傾向がつかめたと考えられます。
記録と整理
記録のしかた
聞き手とは別に記録係を置けると、聞き手が相手の話に集中できます。録音する場合は、事前に相手の了承を得てください。記録には、相手の発言をできるだけそのまま残し、自分たちの解釈とは分けて書きます。
個人情報の扱い
ヒアリングで得た氏名や連絡先、発言内容は個人情報にあたることがあります。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)では、事業者は個人情報の利用目的を特定し、取得の際には利用目的を本人に通知するか公表すること、本人から直接書面等で取得する場合はあらかじめ利用目的を明示することなどが説明されています。ヒアリングの冒頭で、記録の使い道と管理の方法を伝えておくと安心です。具体的な対応は、社内の担当部署や専門家(弁護士など)に確認してください。
整理のしかた
複数のヒアリングが終わったら、発言を次のような観点で並べて比べます。
- 課題が起きる頻度と、そのときの損失
- 現在の対処法と、それにかけている費用や時間
- 不満の内容と強さ
- すでに解決のために行動しているか
一人の熱心な発言に引きずられず、何人に共通しているかを見ることが大切です。
まとめ
顧客ヒアリングは、アイデアの評価を聞く場ではなく、相手の過去の行動と現在の対処法から課題の実在を確かめる場です。目的を一つに絞り、事実を聞き、誘導を避け、発言と解釈を分けて記録すれば、少ない人数でも判断に使える材料が集まります。ヒアリングで得た結果は、新規事業の事業計画書に書くことで整理する顧客や課題の根拠にもなります。
参考資料
進め方に迷ったら、相談してください
起業家ポータル のメンバーが話を伺います。初回の相談は無料です。
同じ工程の記事
課題仮説の立て方と検証の順番
課題仮説は「誰が、どんな場面で、何に困り、今どう対処しているか」を一文で書き、外れたら事業が成り立たない前提から確かめます。仮説の書き方、分解と優先順位づけ、検証の順番と判断基準の置き方を解説します。
ペルソナとジョブ(JTBD)の使い分け
ペルソナは「誰のために作るか」をそろえる道具、ジョブ(JTBD)は「どんな状況で何を片付けたいか」から需要と競合を捉える道具です。それぞれの作り方と向く場面、併用のしかた、よくある失敗を解説します。
新規事業の競合調査のやり方
新規事業の競合調査は、同じ種類の製品だけでなく、顧客が今その課題に使っている手段すべてを競合として洗い出すことから始めます。競合の範囲の決め方、調べる項目と方法、比較表の作り方、法令上の注意点を解説します。
アンケート調査の設計と注意点
新規事業のアンケートは、ヒアリングで見つけた仮説の広がりを数で確かめる道具です。使うべき場面、対象者の選び方、質問文と選択肢の作り方、回答数と誤差の考え方、謝礼と個人情報の注意点を解説します。