アイデア検証

新規事業の競合調査のやり方

新規事業の競合調査は、「同じ種類の製品を出している会社」を探すことではなく、「顧客が今その課題を片付けるために使っている手段」をすべて洗い出すことから始めます。そのうえで、顧客が選ぶ理由と乗り換えない理由を比べると、自社が入り込める余地が見えてきます。

公的統計やEDINET、J-PlatPatなどを使った情報収集の方法は新規事業の市場調査:公的統計と公開情報で調べる方法で解説しています。この記事では、競合をどう定義し、何を比べ、調べた結果をどう判断に使うかに絞って説明します。

競合調査の目的

アイデア段階の競合調査には、主に3つの目的があります。

  • 需要の手がかりを得る:同じ課題に対して、すでにお金が払われている製品があれば、課題が実在する証拠の一つになります。
  • 差別化の余地を見つける:既存の手段で満たされていない顧客や場面を見つけます。
  • 参入の難しさを知る:顧客の乗り換えにかかる手間、既存企業の強み、権利や規制の壁を把握します。

「競合がいないから有望だ」と考えるのは危険です。競合が見つからない場合、課題が存在しないか、お金を払うほどではない可能性もあります。

競合の範囲を決める

3つの層で洗い出す

競合は、次の3つの層に分けて洗い出すと漏れが少なくなります。

  1. 直接競合:同じ顧客に、同じ種類の製品やサービスを提供している企業
  2. 間接競合:別の種類の製品やサービスで、同じ課題を解決している手段(例:業務管理ソフトに対する、業務代行サービス)
  3. 代替手段:製品として売られていない解決方法(表計算ソフトでの自作、紙、社内の人手、外部の知人に頼む、我慢して何もしない)

新規事業にとって最も手ごわいのは、3つ目の代替手段であることがよくあります。顧客にとって、慣れた方法をやめて新しいものに移るのは手間とリスクを伴うからです。

顧客の目線で範囲を決める

競合の範囲は、自分たちの製品分類ではなく、顧客の目線で決めます。顧客ヒアリングで「この問題が起きたとき、何を使いましたか」「ほかに検討したものはありますか」と聞くと、自分たちが想定していなかった競合が出てくることがあります。顧客が状況に応じて何を「雇って」いるかという視点は、ペルソナとジョブ(JTBD)の使い分けでも説明しています。

何を調べるか

競合ごとに、次の項目を調べます。すべてが分かるとは限らないため、分からない項目は「不明」と明記し、推測で埋めないようにします。

項目 見るポイント
対象顧客 誰に向けているか(業種、規模、個人・法人)
解決する課題 何を約束しているか(サイトの見出しや導入事例に表れる)
提供方法 ソフトウェア、代行サービス、機器など
価格と課金方法 公開価格、初期費用、課金単位、無料プランの有無
販売方法 自社の営業、代理店、ウェブでの申込み
強み 顧客が選ぶ理由
弱み・不満 顧客が不満を持つ点、使われない場面
事業の状況 開示資料やプレスリリースから分かる規模や方針

どうやって調べるか

公開情報

  • 競合のウェブサイト:見出し、導入事例、料金ページ、よくある質問、利用規約から、対象顧客と提供範囲が読み取れます。
  • プレスリリースや開示資料:上場企業であれば有価証券報告書や決算説明資料で、事業の位置づけや方針が分かります。
  • 求人情報:どんな職種を募集しているかから、力を入れている領域の手がかりが得られます。
  • 口コミ・レビュー:比較サイトやアプリストアのレビューには、利用者の不満が具体的に書かれていることがあります。ただし投稿者の偏りがあるため、傾向をつかむ程度に使います。

顧客から聞く

最も価値のある情報は、競合を使っている、または使うのをやめた顧客から得られます。

  • その製品を選んだ理由と、比較した他の選択肢
  • 使っていて不満な点、使っていない機能
  • やめた場合は、その理由と、次に何を使ったか

競合の弱みは、競合のサイトからは分かりません。顧客の声から探すのが基本です。

自分で使ってみる

無料で試せる製品は、実際に申し込み、使い始めるまでの流れを体験します。申込みの手間、最初に価値を感じるまでの時間、つまずきやすい箇所が分かります。利用にあたっては、その製品の利用規約を読み、規約に反する使い方をしないようにします。

比較表と位置づけ図の作り方

比較表

調べた結果は、競合を列、項目を行にした表にまとめます。自社の案も同じ表に入れて比べます。このとき、自社に有利な項目ばかりを並べないよう注意します。顧客が重視する項目を、ヒアリングの結果から選びます。

位置づけ図

2つの軸で競合を配置する図(ポジショニングマップ)は、空いている場所を見つけるのに便利です。ただし、軸の選び方次第で、どんな案でも「空白地帯にいる」ように見せられてしまいます。軸は顧客が製品を選ぶときに実際に重視している基準から選び、空白がある場合は「なぜ誰もいないのか」を確かめます。需要がないから空いている、ということも少なくありません。

調査結果を判断に使う

調査を終えたら、次の問いに答えられるかを確認します。

  • 顧客は今、何を使って課題を片付けているか
  • その手段の何に、どれくらい不満を持っているか
  • 自社の案は、その不満を解消できるか。それは顧客にとって乗り換えの手間を上回るか
  • 既存企業が同じことを始めたとき、自社に残る強みは何か

最後の問いに答えられない場合、今は答えがなくてもかまいませんが、事業計画の中で「何を強みとして積み上げるか」を考えておく必要があります。

法令上の注意点

競合の営業秘密を取得しない

経済産業省は、不正競争防止法で保護される営業秘密を、有用性、秘密管理性、非公知性の3つの要件を満たす情報として説明しています。競合の元社員を採用したり、元社員に話を聞いたりする場面で、前の勤務先の秘密情報を持ち込ませないよう注意します。聞いてよいのは公開情報や本人の一般的な経験の範囲にとどめ、判断に迷う場合は弁護士に相談してください。

競合と価格などの情報を交換しない

公正取引委員会の「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」では、事業者団体が価格など重要な競争手段の具体的な内容について情報を収集・提供したり、構成事業者間の情報交換を促したりすると、内容によっては独占禁止法上問題となり得ると説明されています。業界の会合などで競合と接する機会があっても、今後の価格や数量といった具体的な情報のやりとりは避けます。

比較を広告に使うときは根拠をそろえる

調査結果を使って「他社より安い」「他社より速い」といった比較広告を出す場合、消費者庁は、比較広告が不当表示とならないために、主張する内容が客観的に実証されていること、実証された数値や事実を正確かつ適正に引用すること、比較の方法が公正であること、の3つを挙げています。

大企業と起業家で異なる点

  • 大企業の場合:既存事業の競合と、新規事業の競合は違うことが多い点に注意します。また、競合として調べていたスタートアップが、実は協業の候補になることもあります。調査の段階から「競うのか、組むのか」の両面で見ておくと選択肢が広がります。協業の進め方はスタートアップとの協業・事業提携の進め方で扱っています。
  • 起業家の場合:大企業が同じ領域に参入してくる可能性を、投資家からよく問われます。大企業にとって取り組みにくい理由(市場が小さく見える、既存事業と衝突する、など)があるかを考えておくと、説明の材料になります。

まとめ

新規事業の競合調査は、直接競合、間接競合、代替手段の3層で、顧客の目線から競合を洗い出すことから始めます。公開情報に加えて、競合を使っている顧客の声と自分での利用体験から、顧客が選ぶ理由と不満を調べ、自社の案が乗り換えの手間を上回る価値を出せるかを判断します。営業秘密、競合との情報交換、比較広告に関する法令にも注意してください。個別の判断は、社内の法務部門や弁護士に確認してください。

制度は改定されます。調査結果の利用や広告の出稿の前に、公式情報と専門家(弁護士など)に確認してください。

参考資料

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