新規事業の市場調査:公的統計と公開情報で調べる方法
新規事業の市場調査の多くは、費用をかけなくても、政府の統計や公開情報で下調べできます。最初に「何を判断するための調査か」を決め、公的統計で市場の輪郭をつかみ、企業の開示資料や特許情報で競合と技術の動向を確かめる順に進めると効率的です。
デスクリサーチでわかること、わからないこと
デスクリサーチ(机上調査)は、すでに公開されている情報を集めて分析する調査です。短期間で広い範囲を確かめられる反面、わかることには限りがあります。
わかること
- 対象となる業種の事業所数、従業者数、売上規模など市場の輪郭
- 世帯や個人がどんな品目にどのくらいお金を使っているか
- 地域ごとの人口や産業の構成
- 上場している競合企業の事業内容や業績
- 技術分野ごとの特許出願の動向
わからないこと
- 顧客が実際に何に困っているか、なぜ今の方法を選んでいるか
- 新しい製品にお金を払うかどうか
- 統計の分類に当てはまらない、新しい市場の規模
後者は顧客ヒアリングや試験提供で確かめる必要があります。デスクリサーチは、ヒアリングの相手や質問を決めるための準備として位置づけると役立ちます。ヒアリングの進め方は顧客ヒアリングの質問項目と聞き方を参照してください。
調べる前に問いを決める
調査を始める前に、判断したいことを問いの形で書き出します。
- この市場は、目指す事業規模に届くだけの大きさがあるか
- 想定する顧客は、全国に何社(何人)くらいいるか
- 市場は伸びているか、縮んでいるか
- 主な競合はどこで、どのくらいの規模か
- 関連する技術で、どの企業が特許を出しているか
問いがないまま統計を眺めると、時間ばかりかかって判断に使える材料が残りません。
目的別の主な情報源
政府統計をまとめて探す:e-Stat
「政府統計の総合窓口(e-Stat)」は、各府省が公表する統計データをまとめて探せるポータルサイトです。分野別や作成機関別に統計を探せるほか、統計ダッシュボードでのグラフ表示、地図上で統計を見られるjSTAT MAP、プログラムからデータを取得できるAPIなども用意されています。どの統計を使えばよいか分からないときは、まずここでキーワード検索するとよいでしょう。
業種ごとの事業所数・売上:経済センサス、経済構造実態調査
法人向けの事業を考える場合、対象となる業種に事業所や企業がどれだけあるか、どのくらいの売上規模かを知ることが出発点になります。
- 経済センサス:総務省統計局によると、事業所と企業の経済活動の状態を明らかにし、包括的な産業構造を明らかにすることを目的とした調査で、事業所・企業の基本的構造を把握する「基礎調査」と、経済活動の状況を調べる「活動調査」で構成されます。活動調査は5年ごとに行われ、2021年(令和3年)6月1日を調査期日とした調査では、全産業の企業・事業所を対象に売上高などが調べられました。2026年は活動調査の実施年にあたります。
- 経済構造実態調査:経済センサス‐活動調査を行わない年に毎年実施される調査で、全産業の付加価値などの構造を明らかにすることを目的としています。2022年からは、それまでの工業統計調査を統合して実施されています。
最新の年の傾向を見たいときは経済構造実態調査、細かい業種や地域の内訳を見たいときは経済センサスというように、目的に応じて使い分けます。
消費者の支出:家計調査
消費者向けの事業では、世帯がどんな品目にいくら使っているかが手がかりになります。総務省統計局の家計調査は、全国約9千世帯を対象に、家計の収入・支出、貯蓄・負債などを毎月調べている調査です。品目別の支出額と世帯数を組み合わせると、市場規模のおおまかな見積もりに使えます。
地域ごとの人口・産業:RESAS
地域を絞った事業では、地域経済分析システム(RESAS)が便利です。地域未来戦略本部事務局が運営し、産業構造、人口動態、消費などのデータを地図やグラフで見られます。出店先の比較や、地域の主要産業の把握に使えます。
競合企業の事業と業績:EDINET
上場企業などの競合を調べるには、金融庁の電子開示システムEDINETで有価証券報告書を読むのが確実です。有価証券報告書には事業の内容や業績などが記載されており、競合がどの事業に力を入れているかを読み取る手がかりになります。
企業の実在と基本情報:法人番号公表サイト
国税庁の法人番号公表サイトでは、法人の商号又は名称、本店又は主たる事務所の所在地、法人番号の3情報を検索できます。競合や提携候補の正式名称と所在地を確かめるときに使えます。
技術動向と競合の研究開発:J-PlatPat
技術を強みとする事業では、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で特許・実用新案、意匠、商標の公報を無料で検索できます。独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が運営しています。どの企業がどの技術分野に出願しているかを見ると、競合の研究開発の方向や、参入の障壁になりうる権利の有無を確かめられます。権利の侵害にあたるかどうかの判断は専門的なため、必要に応じて弁理士に相談してください。
そのほかの情報源
各府省が毎年まとめる白書、業界団体が公表する統計、上場企業の決算説明資料なども有用です。民間の調査会社のレポートは有料のものが多いですが、概要だけ無料で公開されていることもあります。
数字を扱うときの注意点
出典と時点を必ず記録する
統計の数字は、調査年と公表時期にずれがあります。どの統計の、何年の調査の、どの表から取った数字かを必ず記録します。事業計画書や稟議資料に使うときにも、出典を示せることが信頼につながります。
定義を確かめる
「事業所」と「企業」、「売上高」と「出荷額」など、統計ごとに用語の定義が異なります。複数の統計を組み合わせるときは、定義がそろっているかを確認します。
分類に当てはまらない市場に注意する
新しいサービスは、既存の産業分類にぴったり当てはまらないことがよくあります。その場合は、近い業種の数字や、顧客数×単価などの積み上げで推計し、推計の前提を明記します。推計の組み立て方は市場規模(TAM・SAM・SOM)の出し方で解説しています。
二次情報は原典にさかのぼる
ニュース記事やブログに載っている数字は、元の統計や調査にさかのぼって確かめます。孫引きの過程で数字や定義がずれていることがあります。
大企業と起業家での使い方の違い
- 大企業の場合:社内の調査部門や、契約している有料データベースを使える場合があります。まず社内で過去の調査がないかを確認すると、重複を避けられます。社内資料に使う数字は、公的統計など第三者が確かめられる出典を示すと、審査の場で説明しやすくなります。
- 起業家の場合:無料で使える公的統計と公開情報だけでも、市場の輪郭と競合の概要はつかめます。金融機関や投資家に説明するときは、数字の出典と推計の前提を資料に添えておくと、質問に答えやすくなります。
まとめ
デスクリサーチは、判断したい問いを決めてから、e-Statや経済センサス、家計調査で市場の輪郭を、RESASで地域の特徴を、EDINETや法人番号公表サイトで競合の実態を、J-PlatPatで技術動向を確かめる流れで進めます。数字は出典と時点、定義を記録し、統計ではわからない顧客の本音はヒアリングで補ってください。
参考資料
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