アイデア検証

ペルソナとジョブ(JTBD)の使い分け

ペルソナは「誰のために作るのか」をチームでそろえるための人物像で、ジョブ(JTBD)は「顧客がどんな状況で、何を片付けたくて製品を使うのか」を捉える考え方です。新規事業の初期は、ジョブで需要と実質的な競合を見極め、ペルソナで設計や訴求の判断をそろえる、という使い分けが実務的です。

用語の簡単な定義は新規事業の用語集にもまとめています。この記事では、2つの道具をどう作り、どの場面でどちらを使うかを説明します。

ペルソナとは

定義

ペルソナは、製品やサービスの典型的な利用者を、一人の具体的な人物として描いたものです。内閣官房IT総合戦略室が2018年に公表した「サービスデザイン実践ガイドブック(β版)」では、ペルソナを、現状を調査した結果から典型的な利用者の目的、意識、行動などのパターンを構造化し、利用対象者を仮想の人物として定義するもの、と説明しています。

作り方

同ガイドブックでは、ペルソナの作成を次の4段階で示しています。

  1. ターゲットとなる利用者に関する情報を収集する
  2. 収集した情報を分析し、グルーピングする
  3. グルーピングした情報から利用者像を具体化し、ペルソナシートを作成する
  4. 作成したペルソナシートの内容を見直す

また、サービスを提供する側に都合のよい利用者像を作り上げてはならない、という注意も書かれています。ペルソナは想像で描くものではなく、ヒアリングや観察で集めた事実から組み立てるものです。

ペルソナシートに書く項目の例

  • 立場(職種、役職、担当業務、所属組織の規模)
  • 目的(仕事や生活で達成したいこと)
  • 行動(一日の流れ、情報の集め方、使っている道具)
  • 困りごと(どこで手間やストレスを感じているか)
  • 判断基準(何を重視して製品を選ぶか、誰の承認が必要か)

年齢や趣味、家族構成などは、製品の判断に影響するときだけ書きます。細かく書くほどリアルに見えますが、根拠のない細部は判断を誤らせる原因になります。

ジョブ(JTBD)とは

定義

JTBD(Jobs to Be Done)は、クレイトン・クリステンセン氏らが広めた考え方です。同氏らがハーバード・ビジネス・レビュー誌2016年9月号に寄せた記事では、人は製品を買うとき、本質的にはある用事(ジョブ)を片付けるためにその製品を「雇う」のだと説明されています。同記事では、ジョブは機能面だけでなく、社会的・感情的な側面を持つとも述べられています。

クリステンセン研究所のウェブサイトでは、JTBDを、人や組織を意思決定へ向かわせたり遠ざけたりする状況や力を明らかにする見方として説明し、ジョブを「特定の状況の中で、目標に向かって進もうとする進歩」と位置づけています。

よく知られた例

同研究所のサイトでは、あるファストフード店のミルクシェイクの例が紹介されています。朝に買う客は、空腹を満たし、通勤の時間を退屈させないためにミルクシェイクを買っており、午後に買う客は子どもへのごほうびとして買っていました。そして、朝のミルクシェイクの本当の競合は他社のミルクシェイクではなく、バナナやベーグルだった、というものです。

この例が示すように、ジョブの視点では、同じ製品でも状況によって「雇われる理由」が違い、競合は同じ種類の製品に限られません。

ジョブの書き方

ジョブは、製品名や機能を入れずに、状況と達成したいことで書きます。

(状況)月末に取引先から請求書がまとめて届いたとき、(片付けたいこと)支払いの漏れや二重払いを出さずに、短時間で処理を終えたい。(感情・社会面)経理の締めで上司に迷惑をかけたくない。

「請求書管理ソフトを使いたい」はジョブではありません。ソフトは、このジョブを片付けるために雇われる手段の一つです。

2つの違い

観点 ペルソナ ジョブ(JTBD)
中心にあるもの 人物(誰か) 状況と目的(何をしたいか)
主な問い この人は何を重視し、どう行動するか この状況で何を片付けたいか、今は何を雇っているか
得意なこと 画面や文言、営業資料の判断をそろえる 需要の理由と、実質的な競合を見つける
弱いところ 属性で括るため、同じ人の状況による違いが見えにくい 使い手の具体像が薄く、設計の細部を決めにくい
作る材料 ヒアリング、観察、アンケート 購入や乗り換えのきっかけを聞くヒアリング

使い分けの目安

ジョブが向く場面

  • 需要があるかを確かめたいとき:顧客がすでに何かを「雇って」片付けているジョブは、需要が実在している証拠です。
  • 競合を洗い出したいとき:同じジョブを片付けている手段は、業種が違っても競合です。表計算ソフト、外注、人手で我慢する、といった選択肢も含まれます。
  • 既存製品の新しい用途を探したいとき:大企業の既存技術や製品が、別の状況でどんなジョブに雇われうるかを考える手がかりになります。

ペルソナが向く場面

  • 設計の判断をそろえたいとき:画面の分かりやすさ、専門用語の使い方、必要な機能の優先順位などを議論するとき、「この人ならどう感じるか」を共通の基準にできます。
  • 訴求の言葉や販路を決めたいとき:どの媒体で情報を集め、どんな言葉に反応するかは、人物像で考えるほうが具体的になります。
  • 法人向けで関係者が複数いるとき:利用者、決裁者、情報システム部門など、立場ごとにペルソナを作ると、誰に何を説明すべきかが整理できます。

併用のしかた

新規事業の初期は、次の順で使うと混乱が少なくなります。

  1. ヒアリングで「最近その用事を片付けたとき、何をきっかけに、何を使ったか」を聞き、ジョブを書き出す
  2. 最も強く、頻繁に起きているジョブを一つ選ぶ
  3. そのジョブを抱えている人の共通点から、ペルソナを作る
  4. ペルソナを使って、製品や訴求の細部を決める

ペルソナから先に作ると、「30代・会社員・都市部在住」のような属性の組み合わせになり、なぜその人が買うのかが抜け落ちがちです。ジョブを先に置き、「そのジョブを持つ人は誰か」と考えるほうが、需要の根拠と人物像がつながります。

ジョブを聞き出す質問の例

ジョブは、購入や乗り換えの「きっかけ」を過去の出来事として聞くと見えてきます。

  • 今の方法(製品、サービス、やり方)を使い始めたのはいつですか。何がきっかけでしたか
  • そのとき、ほかにどんな選択肢を検討しましたか
  • 前に使っていた方法をやめた理由は何でしたか
  • 使い始める前、何が一番心配でしたか
  • 使い始めて、周りの人(上司、家族、取引先)の反応はどうでしたか

最後の2つは、感情面・社会面のジョブを捉えるための質問です。ヒアリング全体の進め方は顧客ヒアリングの質問項目と聞き方を参照してください。

よくある失敗

  • ペルソナを会議室で作る:調査をせずに作ったペルソナは、作り手の願望を映しがちです。前述のガイドブックの注意のとおり、提供側に都合のよい人物像になっていないかを見直します。
  • ペルソナを作ったまま更新しない:検証が進んで顧客像が変わっても、古いペルソナが資料に残り続けることがあります。検証の節目ごとに見直します。
  • ジョブに製品名や機能を入れる:「AIで自動化したい」はジョブではなく解決策です。解決策を外して書き直すと、別の手段の可能性が見えてきます。
  • ジョブを抽象的にしすぎる:「業務を効率化したい」では、状況が分からず検証も設計もできません。いつ、どんな場面での用事かを具体的に書きます。

大企業と起業家での使い方

  • 大企業の場合:既存事業のマーケティング部門が作ったペルソナが社内にあることがあります。流用すると早い反面、既存事業の顧客像に引きずられる危険があります。新規事業では、まずジョブから考え直し、既存ペルソナとの違いを確認します。
  • 起業家の場合:チームが小さいうちは、ペルソナを細かく作り込むより、ジョブを一文で書いて全員で共有するほうが役立つことが多いです。投資家への説明でも、「この状況で、この用事を、今はこう片付けている」と語れると、需要の根拠が伝わりやすくなります。

まとめ

ペルソナは「誰のために作るか」をそろえる道具、ジョブは「どんな状況で何を片付けたいか」から需要と競合を捉える道具です。新規事業の初期は、ヒアリングでジョブを書き出し、最も強いジョブを持つ人の共通点からペルソナを作り、設計と訴求の判断に使う、という順で併用します。どちらも調査した事実から作り、検証の節目ごとに見直します。

参考資料

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