アンケート調査の設計と注意点
新規事業のアンケートは、課題を見つけるための道具ではなく、ヒアリングで見つけた仮説が「どのくらいの人に当てはまるか」を数で確かめる道具です。先にヒアリングで仮説を固め、対象者と質問をその仮説に合わせて設計し、結果は誤差と偏りを踏まえて読むことが基本です。
アンケートが向く場面、向かない場面
向く場面
- ヒアリングで見えた課題や行動が、対象の顧客層の中でどの程度広がっているかを知りたい
- 顧客層ごと(業種、規模、年代など)の違いを比べたい
- 複数の課題や訴求案のうち、どれが強く支持されるかを比べたい
- 製品を使っている顧客の満足度や継続意向を定期的に測りたい
向かない場面
- まだ課題が分からず、何を聞けばよいか決まっていない段階
- 「なぜそうするのか」という理由や背景を深く知りたいとき
- 「この製品を買いますか」と購入意向を聞いて、需要の有無を判断したいとき
最初の2つは顧客ヒアリングの役割です(顧客ヒアリングの質問項目と聞き方)。3つ目の購入意向は、アンケートで「買う」と答えた人が実際に買うとは限らないため、需要の判断には、事前登録や予約など実際の行動を見る方法を組み合わせます(ランディングページで需要を確かめるスモークテストの進め方)。
設計の手順
1. 何を判断するための調査かを書く
「顧客のことを知りたい」では設計できません。「調査の結果、何がどうなっていれば、次に何をするか」を書きます。
例:対象層のうち、過去1年に〇〇の問題を経験した人の割合を知りたい。一定以上なら、その層を最初の顧客として検証を進める。
調査の目的から逆算して、必要な質問だけに絞ります。「ついでに聞いておこう」という質問が増えるほど回答者の負担が増え、回答の質が下がります。
2. 対象者を決める
誰に聞くかは、結果を大きく左右します。
- 条件を明確にする:業種、職種、役職、利用経験など、仮説の顧客像に合う条件を決めます。
- 最初に条件確認の質問を置く:対象外の人の回答が混ざらないよう、冒頭で条件を確認し、当てはまらない人はそこで終了にします。
- 集め方の偏りを意識する:自社のメールマガジン読者、SNSのフォロワー、知人の紹介で集めた回答は、もともと関心が高い人に偏ります。ネット調査会社のモニターを使う場合も、モニターに登録している人という偏りがあります。どの集め方でも偏りはゼロにならないため、「誰に聞いた結果か」を結果と一緒に記録します。
3. 質問を作る
質問文の作り方で、回答は大きく変わります。次の点に注意します。
- 一つの質問で一つのことを聞く:「価格と機能に満足していますか」は、価格と機能のどちらの評価か分かりません。2つに分けます。
- 誘導しない:「〇〇は大変ですよね」「多くの人が〇〇を使っていますが」といった前置きは、回答を一方向に寄せます。
- あいまいな言葉を避ける:「よく」「最近」「たまに」は人によって意味が違います。「過去1か月に」「週に1回以上」のように期間や頻度を具体的にします。
- 事実を聞く質問を中心にする:「使いたいか」より「過去に何を使ったか」「いくら払ったか」のほうが、実態に近い答えが得られます。
- 専門用語を使わない:業界内の言葉が、回答者に通じるとは限りません。
4. 選択肢を作る
- 重なりと漏れをなくす:「1〜5万円」「5〜10万円」のように境界が重なる選択肢は避けます。当てはまるものがない人のために「その他」や「わからない」を用意します。
- 評価の段階をそろえる:「満足」から「不満」までの段階を使う場合、良い側と悪い側の段階数をそろえます。
- 並び順の影響に注意する:選択肢が多いと、上の方の選択肢が選ばれやすくなることがあります。可能であれば並び順を回答者ごとに入れ替えます。
5. 事前に試す
本番の前に、対象に近い数人に回答してもらい、質問の意味が通じるか、答えにくい質問はないか、回答にどのくらい時間がかかるかを確かめます。回答中に考え込んだ箇所や、質問の意図と違う答え方をした箇所は、書き直しの候補です。
回答数と誤差の考え方
標本誤差
アンケートは、対象となる人全員ではなく一部に聞く標本調査であることがほとんどです。内閣府は世論調査の結果を読む際の注意として、全数調査ではなく標本調査を行ったことで生じる差を標本誤差と説明し、回答者数が少なく、回答の比率が50%に近いほど標本誤差が大きくなると述べています。
総務省統計局の地方公共団体向けデータ利活用支援サイト「Data StaRt(データ・スタート)」では、比率の標本誤差の計算式とともに、次のような計算例を示しています。母集団20万人の都市で1,000人を単純無作為抽出で選び、回収率を100%、比率を0.5と仮定し、係数を2(正規分布の95%信頼区間の幅をおおむねの目安とした値)とすると、標本誤差はプラスマイナス3.2パーセンテージポイントくらいを見込む必要があります。同じ条件で標本誤差を0.02以内に収めるには、2,470人以上を抽出する必要があるとされています。同サイトは、これが単純無作為抽出と回収率100%を仮定した数字である点に注意を促し、回収率が低いと見込まれる場合は、さらに多くの人を対象に選ぶ必要があると説明しています。
新規事業のアンケートで気をつけること
これらの計算は、無作為に選んだ標本を前提にしています。新規事業で行うアンケートの多くは、自社の接点やネットのモニターから集めた回答であり、無作為抽出ではありません。その場合、回答数を増やしても、集め方による偏りは小さくなりません。
実務では、次のように扱うのが現実的です。
- 数字は「対象全体の正確な割合」ではなく、「この集め方で聞いた人たちの傾向」として読む
- 顧客層ごとに分けて比べたい場合は、層ごとに一定の回答数が集まるよう、集める段階で設計する
- 選択肢の間の小さな差(数ポイント程度)で結論を出さない
結果の読み方
- 回答者の条件と集め方を必ず添える:「誰に、どうやって聞いた、何人の結果か」が分からない数字は、判断に使えません。
- 意見と行動を分けて読む:「関心がある」という回答と、「すでにお金を払っている」という回答は、需要の根拠としての重みが違います。
- 自由記述を読む:選択式の集計だけでは分からない理由や言葉が見つかります。顧客が使う言葉は、そのまま訴求の文言の候補になります。
- 想定外の結果を追いかける:仮説と違う結果が出たら、ヒアリングでその理由を確かめます。
謝礼と個人情報の注意点
謝礼が景品にあたる場合
回答者に謝礼を出す場合、景品表示法との関係に注意します。消費者庁の「景品に関するQ&A」では、仕事の報酬等と認められる金品の提供は景品類の提供に当たらないとしつつ、仕事に相応する報酬とは認められない過大な金品は景品類に該当する可能性があると説明しています。同Q&Aでは、店舗で商品を購入した人のうち、誰でも簡単に答えられるアンケートに回答した全員に景品を渡す例について、総付景品の規制の対象になると回答しています。購入者に限定したアンケートで謝礼を出す場合は、事前に確認してください。
個人情報の扱い
氏名、連絡先、勤務先などを集める場合は、個人情報の取扱いが必要になります。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)では、利用目的をできる限り特定すること、本人から直接書面等で取得する場合はあらかじめ利用目的を明示することなどが説明されています。調査票の冒頭で、回答の使い道、連絡先を後日の案内に使うかどうか、管理の方法を示しておきます。連絡先が不要な調査なら、そもそも集めないのが最も安全です。
大企業と起業家での使い方
- 大企業の場合:社内の調査部門や契約しているネット調査会社を使えることがあります。既存事業の顧客名簿を使う場合は、その名簿を取得したときの利用目的の範囲内かを、社内の個人情報の担当部署に確認します。
- 起業家の場合:少ない予算で行うなら、ヒアリングで仮説を十分に固めてから、質問数を絞った短いアンケートにします。回答数が少ない結果を、投資家向けの資料で市場全体の割合のように見せるのは避け、調査の条件を明記します。
まとめ
新規事業のアンケートは、ヒアリングで見つけた仮説の広がりを確かめる道具です。判断したいことを先に書き、対象者の条件と集め方を決め、誘導やあいまいさのない質問と選択肢を作り、事前に試してから本番に進みます。結果は、誰にどう聞いたかを添え、誤差と集め方の偏りを踏まえて読みます。謝礼を出す場合の景品表示法、連絡先を集める場合の個人情報の扱いにも注意し、判断に迷う場合は社内の担当部署や弁護士に確認してください。
制度は改定されます。調査の実施前に、公式情報と専門家(弁護士など)に確認してください。
参考資料
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