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スタートアップとの協業・事業提携の進め方:公的指針とモデル契約書の使い方

スタートアップとの協業は、目的と「何ができたら次に進むか」を最初に共有し、NDA、PoC、共同研究開発、ライセンスという段階ごとに対価と権利の扱いを契約で決めながら進めるのが基本です。公正取引委員会と経済産業省の「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」と、特許庁・経済産業省が公開している「OIモデル契約書」は、その具体的な手がかりになります。

協業で参照できる公的資料

スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針

公正取引委員会と経済産業省の資料です。当初は「スタートアップとの事業連携に関する指針」でしたが、成長戦略実行計画(令和3年6月18日閣議決定)を受けた改正で出資に関する内容が加わり、現在の名称になりました。現行版は令和4年(2022年)3月31日策定、令和8年(2026年)2月19日改正と表示されています。

指針は、事業連携の段階(NDA、PoC、共同研究、ライセンス)ごとに、スタートアップが実際に経験した問題事例を挙げ、公正取引委員会が独占禁止法上の考え方を、経済産業省が問題の背景と解決の方向性を示す構成になっています。大企業側から見ると「どのような振る舞いが問題になり得るか」と「どう契約すれば双方にとって良いか」が一度に確認できます。

OIモデル契約書とマナーブック

特許庁のオープンイノベーションポータルサイトでは、事業会社とスタートアップの連携を想定した「OIモデル契約書」が公開されています。2026年9月時点で掲載されている現行版はver2.2(2025年4月改訂)で、事業会社・スタートアップ向けには「新素材編」(秘密保持、PoC、共同研究開発、ライセンス)と「AI編」(秘密保持、PoC、共同研究開発、利用契約)があります。大学・大学発ベンチャー向けの契約書もあります。

同じサイトには、事業会社とスタートアップが意識すべき点を「マナー」としてまとめた「マナーブック」(事業会社・スタートアップ編は2023年5月)も掲載されています。

協業を始める前に社内で決めること

協業がうまくいかない原因の多くは、契約以前の準備不足にあります。マナーブックでは、事業会社に向けて、自社の譲れないビジョンと協業の目的を社内で共有してから相手とすり合わせること、法務・知財部門を早い段階から巻き込んで意思決定を速くすること、自社の利益だけでなく双方の事業価値の総和を最大化することを判断の軸にすることなどを挙げています。

具体的には、次の点を社内で決めてから声をかけます。

  • 協業で何を実現したいか(自社の事業課題、狙う市場、期待する成果)
  • 相手に求めるもの(技術、プロダクト、人材、スピード、顧客基盤)と、自社が提供できるもの(顧客、販路、データ、設備、資金、信用)
  • 予算の出どころと上限、支払いまでの社内手続きにかかる期間
  • 窓口となる担当者と、判断する責任者
  • 協業が成果につながった場合の出口(本格導入、共同事業、出資、買収など)の想定

予算の確保については新規事業の稟議で経営陣が見る点と資料の構成も参考にしてください。

段階ごとの進め方と注意点

NDA(秘密保持契約)

指針では、NDAを結ばないまま営業秘密の開示を求められた、一方だけが秘密保持義務を負う契約を押しつけられた、といった事例が挙げられています。取引上優越した立場にある事業者が、正当な理由なく営業秘密の無償開示を求めたり、一方的な内容のNDAを押しつけたりすると、優越的地位の濫用として問題になるおそれがあるとされています。

解決の方向性として、指針は次のような点を示しています。

  • 開示する情報を「NDAなしで開示できる情報」「NDA締結後に開示できる情報」「開示しない情報」に分けて事前に整理する
  • 秘密情報の使用目的と対象を具体的に限定する
  • 双方が秘密保持義務を負う双務型の契約にする
  • 情報の性質に見合った契約期間と、契約終了後の秘密保持期間を定める

事業会社側も、初回の打ち合わせから相手のコア技術の詳細を聞き出そうとせず、必要な情報の範囲と順序を相手と合意しながら進めます。

PoC(技術検証)

指針では、見積もりを超える追加作業を求められて対価が払われなかった、PoCのはずが本番システムの開発まで無償でさせられた、やり直しが繰り返された、といった事例が挙げられています。優越した立場にある事業者が、無償でのPoCを求めたり、著しく低い対価を設定したり、正当な理由なく減額ややり直しを求めたりすると、優越的地位の濫用となるおそれがあるとされています。

解決の方向性として示されているのは、次の3点です。

  • 何を検証し、何が報告されれば完了とするかを明確にする(AI分野では性能の保証を求めない点に留意する)
  • 対価を明確にし、スタートアップの資金繰りに配慮した支払方法を検討する
  • 共同研究開発に移行するかどうかの判断期限や、移行しない場合の扱いを決めておく

PoCの契約の詳細はPoCの契約:モデル契約書で押さえる点で扱っています。

共同研究開発

指針で多くの事例が挙げられているのが、成果物の知的財産権の扱いです。双方が貢献したのに成果が一方に帰属させられた、実態はスタートアップがほとんどを担ったのに権利が事業会社に帰属した、自社で開発したサービスなのに他社への販売を禁止された、などです。

解決の方向性として、指針は次のような点を示しています。

  • 契約前から各社が持っていた情報(バックグラウンド情報)と、共同研究で新たに生まれた情報を区別できるよう、リストの作成などで整理しておく
  • 成果の権利をスタートアップに帰属させ、事業会社には事業領域や期間を限った独占的な実施権を設定するなど、双方の事業にとって合理的な形を検討する
  • 誰が何を担うかを事前に決めておく
  • 費用の負担は人員投入への対価であって、それだけで権利の帰属を正当化するものではないと理解し、権利の取得には別途の対価を検討する

大企業の側から見ると、権利を自社に集めることが常に得とは限りません。スタートアップが成果を他の分野で活用して成長すれば、協業相手としての価値も上がります。自社が本当に守りたい範囲(事業領域、期間、競合への提供の制限など)に絞って権利を設計することが、指針とマナーブックに共通する考え方です。

ライセンス

指針では、ライセンス料を無償にされた、独自に開発した技術の特許出願を禁じられた、といった事例が挙げられています。解決の方向性としては、許諾の対象・期間・地域・独占か非独占かを限定的に定めること、一時金とランニングロイヤルティの組み合わせをスタートアップのキャッシュフローも踏まえて検討すること、独占期間中でも実施されない場合は非独占に切り替えられるようにすることなどが示されています。

出資を伴う協業

指針の第3では、スタートアップと出資者との契約について、出資契約をきっかけとした営業秘密の開示要求、無償作業の要求、不要な商品・役務の購入の要求、著しく高額な買取請求権の設定、研究開発活動や取引先の制限などが問題事例として挙げられています。

事業会社がCVCなどを通じて出資する場合、出資と事業上の取引は分けて考え、出資を理由に取引条件で相手に不利益を強いることのないよう、社内の出資担当と事業担当の間でルールを共有しておきます。

進めるうえでの実務上のポイント

  • 最初の打ち合わせで、社内の意思決定の流れと、それぞれにかかる期間を正直に伝える(スタートアップにとっては資金繰りに直結する)
  • モデル契約書を「ひな形」として使い、双方の事情に合わせて条項を調整する
  • 担当者が交代しても合意内容が引き継がれるよう、打ち合わせでの合意事項を文書で残す
  • 協業の成果を社内に説明する指標を、スタートアップ側とも共有する

チェック項目

  • 協業の目的、相手に求めるもの、自社が提供できるものを社内で合意しているか
  • 予算の出どころと支払いまでの期間を把握しているか
  • 開示する情報を区分し、双務型のNDAを結んでいるか
  • PoCの検証内容、完了条件、対価、次の段階への移行条件を書面で決めているか
  • 共同研究の役割分担とバックグラウンド情報を整理しているか
  • 成果の権利の帰属と実施の範囲を、双方の事業にとって合理的な形で設計しているか
  • 出資を伴う場合、出資と取引条件を切り離して運用するルールがあるか

制度や指針は改定されます。契約の前に公式情報と専門家(弁護士・弁理士など)に確認してください。

参考資料

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