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カスタマーサクセスの始め方:新規事業で最初に作る仕組み

カスタマーサクセスは、契約した顧客が製品を使って期待した成果を得られるように、売り手の側から働きかける活動です。新規事業で始めるときは、専任の部署を作ることよりも先に、「この顧客にとっての成功とは何か」を契約の時点で決め、そこに届くまでの導入手順を型にすることから取りかかるのが近道です。

サポートとカスタマーサクセスの違い

似た言葉に「カスタマーサポート」があります。両者の違いは、働きかけの向きにあります。

カスタマーサポート カスタマーサクセス
きっかけ 顧客からの問い合わせ 売り手側の計画と、顧客の利用状況
目的 目の前の困りごとを解決する 顧客が期待した成果を得る
主な活動 問い合わせ対応、不具合の受付 導入支援、活用の提案、定期的な振り返り
見る指標 回答までの時間、解決率 利用状況、成果の達成、継続、追加契約

どちらも必要ですが、問い合わせを待っているだけでは、「問い合わせもせずに使わなくなる顧客」を拾えません。継続課金型の事業では、こうした静かに離れていく顧客が事業の成長を妨げます。カスタマーサクセスは、その手前で気づいて手を打つための活動です。

いつ始めるか

「顧客が増えてから専任者を置けばよい」と考えがちですが、仕組みづくりは最初の顧客から始めます。初期の顧客に対して創業者や立ち上げメンバーが行っている手厚い支援(最初の10社の顧客をどう取るかで触れた伴走)は、カスタマーサクセスの原型です。これを記録し、繰り返せる形にしておかないと、顧客が増えた時点で支援の質が落ちます。

専任の担当者を置くかどうかは、次のような兆しを目安に判断します。

  • 導入支援に営業担当や開発者の時間が大きく割かれ、本来の業務が進まない
  • 契約後に使われなくなる顧客が目立ち始めた
  • 追加契約や上位プランへの移行の機会を取りこぼしている
  • 顧客からの要望が整理されず、開発の優先順位が決められない

顧客ごとの「成功」を決める

カスタマーサクセスの出発点は、顧客にとっての成功を具体的に決めることです。「満足している」では測れません。

契約時に確認すること

商談の段階で聞いた内容をもとに、契約の時点で顧客と次の点を確認します。

  • 製品を導入して解決したい課題は何か
  • どんな状態になれば「導入してよかった」と言えるか(成果の指標と目標)
  • いつまでにその状態を目指すか
  • 顧客側で誰が推進し、誰が使うのか

成果の指標は、顧客の事業の言葉で表します。例えば「ツールにログインしている人数」ではなく、「月末の集計作業にかかる時間」「問い合わせへの回答までの日数」のように、顧客が上司に報告できる指標にします。

営業から引き継ぐ

商談で聞いた課題や期待は、営業担当の頭の中だけにあることが多く、そのままでは導入を支援する担当者に伝わりません。「導入の目的」「成果の指標と目標」「推進者と利用者」「商談で約束したこと」を引き継ぎの必須項目にします。商談で約束しすぎていないかを確認する場にもなります。商談の段階の設計はBtoB新規事業の営業プロセスで扱っています。

導入支援(オンボーディング)を型にする

契約から「最初の成果が出るまで」の期間は、顧客が離れやすい時期です。この期間の支援を型にします。

最初の成果までの道筋を書き出す

顧客が最初に「使ってよかった」と感じる瞬間を特定し、そこまでに必要な手順を並べます。例えば、アカウントの設定、既存データの取り込み、利用者への説明、最初の業務での利用、結果の確認、といった流れです。手順ごとに、顧客がやること、売り手がやること、目安の期間を決めます。

つまずく場所を記録する

実際の導入で顧客がどの手順で止まったかを記録します。同じ場所で止まる顧客が多ければ、それは顧客の問題ではなく、製品や手順の問題です。製品の改善、設定の代行、説明資料の追加など、止まらないようにする手立てを打ちます。

推進者を孤立させない

法人向けの製品では、顧客側の推進担当者が社内で孤立すると、利用が広がりません。利用者向けの説明会を開く、推進担当者が社内に報告するための資料を用意する、など推進担当者を支える支援も含めます。

顧客の状態を把握する

顧客が増えると、一社ずつ様子を見ることが難しくなります。顧客の状態を簡単に見分けられる目安を作ります。

見る情報の例

  • 利用状況:ログインや主要機能の利用の頻度、利用者数の増減
  • 成果:契約時に決めた成果の指標の達成状況
  • 関係:推進担当者との連絡の頻度、担当者の異動の有無
  • :問い合わせの内容と件数、アンケートや面談での評価
  • 契約:更新時期、支払いの状況

これらを組み合わせて、「順調」「注意」「危険」のように顧客を分類し、注意・危険の顧客から優先して連絡します。新規事業の初期は、どの情報が離脱の予兆になるかが分かっていないため、最初は多めに記録し、実際に離れた顧客と比べて効く指標を絞り込みます。離れた顧客の分析や解約率の見方は解約率(チャーン)の見方と改善で扱います。

担当者の異動は危険信号

法人顧客では、推進担当者の異動や退職をきっかけに利用が止まることがよくあります。推進担当者だけでなく、その上司や複数の利用者と接点を持っておくと、異動の影響を小さくできます。

顧客に応じて関わり方を変える

すべての顧客に同じ手厚さで対応すると、担当者の時間が足りなくなります。契約金額や成長の見込みに応じて、関わり方を分けます。

  • 個別に担当者がつく顧客:定期的な面談、個別の活用提案、成果の振り返り
  • 複数の顧客をまとめて支援する顧客:説明会や勉強会、利用状況に応じた案内のメール
  • 自分で使いこなしてもらう顧客:ヘルプページ、動画、製品内の案内

分け方は、1人の担当者が受け持てる顧客数と、顧客から得られる売上の関係から決めます。新規事業の初期は、どの顧客にも手厚く関わって学ぶ時期と割り切り、顧客が増えるにつれて分けていくのが現実的です。

顧客の声を製品に戻す

カスタマーサクセスの担当者は、顧客が実際にどう使い、どこで困っているかを最もよく知る立場にあります。新規事業では、この情報が製品の方向性を決める重要な材料になります。

  • 要望は「誰が、何のために、どれくらい困っているか」とともに記録する
  • 同じ要望の件数と、要望した顧客の契約規模を集計する
  • 開発チームと定期的に共有する場を設ける
  • 対応した要望は、要望した顧客に知らせる

個別の顧客の要望にすべて応えると、製品が特定の顧客向けの作りになってしまいます。狙う顧客層に共通する要望かどうかを見極めることが大切です。

継続と追加契約につなげる

成果が出ている顧客には、次の段階の提案ができます。利用する部署や人数の拡大、上位プランへの移行、関連する機能の追加などです。提案は、契約時に決めた成果の振り返りとセットで行うと、顧客にとっても判断しやすくなります。更新時期の直前に慌てて連絡するのではなく、更新の数か月前から振り返りの場を設けておきます。

大企業の新規事業での注意点

  • 既存事業のサポート部門に任せきりにしない:既存のサポート部門は、問い合わせ対応の品質は高くても、新しい製品の導入支援や活用提案の経験がないことがあります。少なくとも初期は、新規事業のチームが直接顧客と接点を持ちます。
  • 顧客との接点の持ち主を決める:既存事業の顧客に販売した場合、既存の営業担当とカスタマーサクセスの担当が別々に連絡して顧客を混乱させることがあります。窓口と役割分担を決めておきます。
  • 評価の指標を合わせる:カスタマーサクセスの担当者を、問い合わせ件数の処理などサポート部門の指標で評価すると、本来の活動が進みません。顧客の成果や継続を評価に含めます。

起業家・スタートアップでの注意点

  • 最初の担当者は顧客の業務を理解している人を:製品知識だけでなく、顧客の業務や業界の事情が分かる人のほうが、成果の出る使い方を提案できます。
  • 手作業を恐れない:初期は設定の代行やデータの移行など、手作業での支援も必要です。ただし、どの作業にどれだけ時間がかかったかを記録し、製品で自動化すべきものを見極めます。
  • 創業者も顧客と話し続ける:担当者を置いた後も、創業者が定期的に顧客と直接話すことで、事業の方向性の判断がずれにくくなります。

まとめ

  • カスタマーサクセスは、問い合わせを待つのではなく、顧客の成果に向けて売り手から働きかける活動
  • 契約時に顧客ごとの成功の定義(成果の指標と目標、期限)を決める
  • 最初の成果までの導入手順を型にし、つまずく場所を記録して改善する
  • 利用状況、成果、関係、声、契約の情報から顧客の状態を見分ける
  • 顧客に応じて関わり方を分け、顧客の声を製品開発に戻す

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