最初の10社の顧客をどう取るか
最初の10社の顧客は、広告や販売代理店に頼るのではなく、創業者自身が一社ずつ直接会って獲得するのが基本です。狙う顧客を狭く絞り、課題を強く感じている相手にだけ声をかけ、導入後は手厚く支援して成果を出し、その事例と紹介で次の顧客につなげます。この段階の目的は売上を立てることだけでなく、「誰が、なぜ買うのか」を自分の手で確かめることにあります。
この記事では、主に法人向け(BtoB)の事業を想定して、最初の顧客を取るまでの手順を説明します。
最初の10社で確かめたいこと
最初の顧客獲得は、営業活動であると同時に、事業の仮説を確かめる作業です。10社程度の顧客と深く付き合う中で、次のことを見極めます。
- どんな企業の、どの担当者が、どんな場面で困っているのか
- 導入を決めるのは誰で、どんな手続きが必要なのか
- いくらなら払うのか、何と比較して判断しているのか
- 導入後、実際に使われ、効果が出ているのか
ここで得た答えが、その後の営業の型、価格、プロダクトの優先順位を決める材料になります。だからこそ、最初の段階は外部に任せず、創業者が自分で売る意味があります。
狙う顧客を狭く絞る
「中小企業全般」「製造業」のような広い対象では、誰に声をかけるべきかが決まりません。次のような条件を重ねて、狙う顧客を絞ります。
- 業種・業態
- 企業の規模(従業員数、拠点数など)
- 課題を抱えている部署と担当者の役職
- 課題が起きている状況(特定の業務量が多い、特定の制度対応が必要、など)
- 現在の対処の方法(手作業、表計算ソフト、他社製品)
絞る基準は、「課題が深刻で、すでに何らかの手段で対処しようとしている」相手かどうかです。困っているのに何もしていない相手は、新しい製品を導入する優先順位も低いことが多いからです。課題の深さの確かめ方は顧客ヒアリングの質問項目と聞き方を参考にしてください。
候補のリストを作る
絞った条件に合う企業と担当者の候補を、具体的な名前で書き出します。
- 自分と共同創業者の人脈:前職の取引先や同僚、業界の知人。最初の数社はここから生まれることが多くあります。
- ヒアリングに協力してくれた人:アイデア検証の段階で話を聞いた相手は、課題を知っており、最初の顧客の最有力候補です。
- 紹介:知人や投資家、アドバイザーに、条件を具体的に伝えて紹介を頼みます。
- 業界の集まり:業界団体の会合、展示会、勉強会など、対象となる担当者が集まる場です。
- 公開情報からの洗い出し:企業のウェブサイトや求人情報、プレスリリースなどから、課題を抱えていそうな企業を探します。
リストは表にまとめ、接触した日、反応、次にやることを記録していきます。10社と契約するには、その何倍もの候補に声をかける必要があります。
声のかけ方
売り込む前に課題を聞く
最初の接触では、製品を売り込むよりも、相手の課題について話を聞かせてほしいと依頼するほうが、会ってもらいやすくなります。実際に話を聞き、課題が深いと分かった相手にだけ、解決策を提案します。
紹介してもらうときは文面を用意する
紹介を頼むときは、紹介者がそのまま転送できる短い文面を用意します。誰に、何の課題について、どれくらいの時間話を聞きたいのかを具体的に書きます。
冷たい連絡(面識のない相手への連絡)をするとき
問い合わせフォームやメール、SNSで面識のない相手に連絡する場合は、相手の会社や業務について調べた上で、なぜその相手に連絡したのかを最初の数行で伝えます。同じ文面を大量に送る方法は、この段階では効果が薄く、相手の印象も悪くします。
最初の契約をどう結ぶか
試験導入から始める
最初の顧客にとって、実績のない会社の製品を導入するのはリスクです。期間と範囲を区切った試験導入(トライアル)から始め、成果が出たら本格導入に移る形にすると、相手が決めやすくなります。
試験導入の前に成功の条件を決める
試験導入でよくある失敗は、期間が終わっても評価されず、そのまま立ち消えになることです。始める前に、何が確認できたら本格導入に進むのか、判断するのは誰かを、相手の担当者と合意しておきます。
無料にするかどうか
無料の試験導入は相手の決裁が不要で始めやすい反面、相手が本気で使わない、本格導入の段階で価格の議論が振り出しに戻る、といった問題が起きがちです。少額でも有料にする、本格導入時の価格をあらかじめ示しておく、などの工夫を検討します。価格の考え方は新規事業の価格の決め方で扱っています。
最初の顧客への条件
最初の顧客には、価格の優遇や、要望を優先的に開発に反映する約束を提示することがあります。その代わりに、定期的な意見交換への協力、導入事例としての公開の了承、ほかの企業への紹介などをお願いします。ただし、特定の顧客だけの個別仕様を作り込みすぎると、ほかの顧客に売れない製品になるため、どこまで応じるかの線引きを事前に決めておきます。
契約書は、試験導入であっても、秘密保持、データの扱い、期間と終了の条件を定めて結びます。
導入後にやること
成果が出るまで伴走する
最初の顧客には、導入して終わりではなく、実際に使われて効果が出るまで密に支援します。使われていない場合は、その理由が製品にあるのか、導入の進め方にあるのかを調べます。ここでの学びが、その後の導入支援の型になります。
事例として形にする
成果が出たら、顧客の了承を得て導入事例をまとめます。同じ業種・同じ課題を持つ企業にとって、似た会社の事例は何より強い判断材料になります。事例の公開が難しい場合でも、社名を伏せた形で話せる内容を相手と確認しておきます。
紹介をお願いする
満足している顧客に、同じ課題を持つ知り合いを紹介してもらえないか依頼します。業界の中でのつながりから次の顧客が生まれることは少なくありません。
10社を取った後に確認すること
10社程度と付き合うと、共通点と違いが見えてきます。
- 契約までの期間が短く、よく使っている顧客に共通する条件は何か
- 導入を決めた理由として、繰り返し出てくる言葉は何か
- 解約した、あるいは使わなくなった顧客に共通する条件は何か
この共通点をもとに、狙う顧客の条件を絞り直し、営業の手順を書き出して、創業者以外の人でも再現できる形にしていきます。ここから先の拡大に進めるかどうかの判断は、PMF(プロダクトマーケットフィット)の判断の仕方を参考にしてください。
まとめ
- 最初の10社は創業者が直接売り、誰がなぜ買うのかを確かめる
- 課題が深く、すでに対処しようとしている顧客に絞る
- 人脈、ヒアリング協力者、紹介から候補リストを作り、記録を残す
- 試験導入は、始める前に成功の条件と判断者を合意する
- 導入後は成果が出るまで伴走し、事例と紹介で次の顧客につなげる
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