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新規事業のGo-to-Market戦略:誰に・どの経路で・どう売るかの決め方

Go-to-Market(GTM)戦略とは、製品を「どの顧客層に、どの経路で、どんな売り方で届け、それを誰が支えるか」を決めた計画のことです。新規事業では、最初から全方位に売るのではなく、勝ちやすい顧客層を1つ決めてそこで売り方の型を作り、それから経路と顧客層を順に広げていく、という段取りを文書にしておくことが要になります。

この記事では、最初の顧客獲得(最初の10社の顧客をどう取るか)の次の段階、つまり「創業者や立ち上げメンバーの手売り」から「仕組みで売る」へ移るときに必要なGTMの組み立て方を扱います。

GTM戦略で決める4つの要素

GTM戦略は、次の4つの要素の組み合わせで表せます。どれか1つだけを決めても機能しません。

要素 決めること
攻める顧客層 最初に集中する業種・規模・部署・利用場面。後から広げる順番
届ける経路(チャネル) 直販、ウェブでの自己申込み、販売代理店、提携先の製品への組み込み、既存事業の営業網など
売り方 無料試用から始めるか、商談から始めるか。価格の見せ方、契約の単位、導入支援の有無
支える体制 見込み客を集める人、商談する人、導入後に定着させる人の役割分担と人数

4つは互いに制約し合います。例えば、1件あたりの契約金額が小さい製品を、訪問中心の直販で売ろうとすると、営業の人件費が売上を上回ります。逆に、導入に複雑な設定が必要な製品を、ウェブでの自己申込みだけで売ろうとすると、申込みはあっても使いこなせずに離れていきます。4つを一緒に決めるのはこのためです。

最初に攻める顧客層の決め方

新規事業のGTMで最も効くのは、「最初に攻める顧客層」を狭く決めることです。広く売ろうとすると、営業資料も事例も導入手順も顧客層ごとに作る必要があり、少人数では手が回りません。

候補の顧客層を並べ、次の観点で比べると選びやすくなります。

  • 課題の強さ:その顧客層は課題をどれだけ強く感じ、すでにお金や手間をかけているか
  • 届きやすさ:その顧客層に会う経路(人脈、業界団体、展示会、既存取引先)を持っているか
  • 意思決定の速さ:導入を決める人が明確で、社内手続きが短いか
  • 広がりやすさ:同じ顧客層の中で評判や事例が伝わりやすいか(業界の横のつながりが強いか)
  • 次への足場:その顧客層で得た事例が、隣の顧客層に売るときにも使えるか

どれも満点の顧客層はまずありません。「課題が強く、届きやすい」顧客層を最初に取り、「広がりやすさ」「次への足場」で2番目以降の順番を決めるのが実務的です。

届ける経路(チャネル)の選び方

主な経路と向き不向き

経路 向いている場面 注意点
直販(自社の営業が商談) 1件あたりの金額が大きい、導入に説明や調整が必要 営業1人あたりが抱えられる商談数に限りがある
ウェブでの自己申込み 1件あたりの金額が小さい、使い始めるのが簡単 申込み後に使われるまでの導線を作り込む必要がある
販売代理店・再販 代理店がすでに対象顧客と取引関係を持っている 代理店が売る動機づけと教育が必要。顧客の声が届きにくい
提携先の製品・サービスへの組み込み 提携先の顧客が自社の製品を必要としている 提携先の方針変更の影響を受けやすい
既存事業の営業網(大企業) 既存顧客と新規事業の顧客が重なる 既存の営業担当に売る動機がないと動かない

最初は1つの経路に絞る

複数の経路を同時に始めると、どの経路が効いているのか、なぜ売れないのかが分からなくなります。最初は1つの経路で「この顧客層には、この経路で、この売り方をすれば一定の確率で契約できる」という型を作ります。型ができてから、2つ目の経路を足します。

経路を足すときは、既存の経路と顧客を取り合わないかを確認します。例えば、直販と代理店で同じ顧客に別々に提案してしまうと、顧客の不信を招き、代理店との関係も悪くなります。担当する顧客層や地域、規模の線引きを先に決めておきます。

売り方の型を決める

同じ経路でも、売り方によって必要な体制が変わります。代表的な型は次の2つです。

商談から始める売り方

見込み客と面談し、課題を聞き、提案し、見積もりを出し、契約する流れです。法人向けで金額が大きい製品に多い売り方です。

製品を使ってもらうことから始める売り方

無料版や試用期間で製品を使ってもらい、価値を感じた顧客が有料に移る流れです。営業の人件費を抑えられる一方、「使い始めてから価値を感じるまで」の体験を製品そのものの中で作り込む必要があります。試用から有料への移行が進まない場合、原因は営業ではなく製品や導入の手順にあることが多いため、使われ方のデータを見る体制が欠かせません。

どちらか一方に決める必要はなく、「小さな顧客は試用から、大きな顧客は商談で」のように顧客の規模で分けることもできます。ただしその場合も、分ける基準を明文化しておきます。価格の見せ方や体系は新規事業の価格の決め方を参照してください。

支える体制と、測る指標

GTM戦略は、見込み客の獲得から契約、導入後の定着までを一続きの流れとして設計します。流れを段階に分け、段階ごとに次の2点を決めます。

  • その段階の担当者(誰がやるか)
  • 次の段階に進んだ割合と、進むまでの期間(何を測るか)

例えば「問い合わせ→初回面談→提案→契約→利用開始→継続」と分けると、どの段階で顧客が止まっているかが見えます。止まっている段階の改善が、その時点で最も効果の大きい打ち手です。GTMの各段階の数字は、成果を評価するためというより、どこで詰まっているかを見つけるための道具として使います。

契約後の定着を担う役割(カスタマーサクセス)を後回しにしがちですが、継続課金型の事業では、契約後に離れる顧客が多いとGTM全体が成り立ちません。契約後の支援を誰が担うかも、GTMの一部として最初から決めておきます。

PMFの前と後でGTMの考え方は変わる

PMFの前は、GTMは「売るための計画」というより「どの顧客層・経路・売り方なら成り立つかを確かめる計画」です。少人数で、狭い顧客層に、手作業も交えて売りながら、うまくいった条件を記録します。

PMFの兆候が見えてから、営業や広告への投資を増やし、経路を広げる段階に入ります。PMFに達したかどうかの判断はPMF(プロダクトマーケットフィット)の判断の仕方を参照してください。PMFの前に経路を広げると、定着しない顧客を高い費用で集めることになりやすいため、順番を守ることが大切です。

GTM戦略を1枚にまとめる

GTM戦略は、関係者が同じものを見て動けるように1枚にまとめます。次の項目を書き出すと、抜けや矛盾が見つかります。

  1. 最初に攻める顧客層と、その理由
  2. その顧客層が抱える課題と、自社製品で解決できること(一文で)
  3. 比較される相手(競合製品、代替手段)と、選ばれる理由
  4. 経路と売り方
  5. 価格と契約の単位
  6. 各段階の担当者と、測る数字
  7. 次に広げる顧客層・経路の順番と、広げる条件
  8. この計画を見直す時期

7と8が特に重要です。「どうなったら次の顧客層に進むか」「いつ計画自体を見直すか」を先に決めておかないと、成果の出ない経路に資源を使い続けることになります。

大企業の新規事業での注意点

既存事業の営業網は「使える前提」にしない

大企業の新規事業では、既存事業の営業網や顧客基盤を使えることが強みとして挙げられます。ただし、既存の営業担当者には既存製品の目標があり、売り慣れない新製品を提案する動機は弱いのが普通です。使う場合は次の点を事前に決めておきます。

  • 新規事業の売上を、既存営業の評価にどう反映するか
  • 商談に同行・支援するのは誰か(新規事業チームか、既存営業か)
  • 既存製品との組み合わせ提案にするか、単独で売るか
  • 既存顧客との関係を損ねた場合の責任と対応

既存事業の顧客層に引きずられない

既存の顧客層が、新規事業にとって最も課題の強い顧客層とは限りません。届きやすいからという理由だけで既存顧客を攻めると、関係性で導入されるだけで、本当の需要が見えにくくなります。

社内の承認手続きとGTMの時間軸を合わせる

予算や人員の追加が年度ごとの承認になっている場合、経路の追加や人員増のタイミングが承認の時期に縛られます。GTM戦略の「広げる条件」と、ステージゲートなど社内の判断時期をそろえておくと、条件を満たしたのに投資できないという状況を避けられます。

起業家・スタートアップでの注意点

創業者の手売りから抜け出す時期を決める

初期は創業者が売るのが基本ですが、いつまでも創業者しか売れない状態では事業が広がりません。商談の手順、よく聞かれる質問と答え、提案資料、失注の理由を記録し、最初の営業担当者が同じように売れるかどうかを試します。

資金の残り期間から逆算する

経路を広げるには、採用や広告に先行投資が必要です。手元資金で何か月活動できるかを踏まえ、次の資金調達までにどの顧客層・経路で成果を示すかを決めておきます。

経路を増やしすぎない

少人数のチームで直販、代理店、ウェブ申込み、提携を同時に進めると、どれも中途半端になります。1つの経路で型ができるまでは、ほかの経路からの問い合わせは受けても、積極的には広げない判断も必要です。

まとめ

  • GTM戦略は、攻める顧客層・経路・売り方・支える体制の4つを一緒に決める
  • 最初は課題が強く届きやすい顧客層1つと、経路1つに絞って型を作る
  • 流れを段階に分け、どこで顧客が止まっているかを測る
  • 経路を広げるのはPMFの兆候が見えてから。広げる条件と見直し時期を先に決める
  • 大企業は既存営業網を使う条件を、起業家は手売りから抜け出す手順を明確にする

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