新規事業のプレスリリースの出し方:ネタの選び方・書き方・配信の手順
プレスリリースは、報道機関に「これは記事にする価値がある」と判断してもらうための文書です。新規事業では、製品の良さを並べるよりも、「何が新しいのか」「なぜ今それが社会や業界にとって意味があるのか」を最初の数行で具体的に示すことが、取り上げられるかどうかを分けます。
プレスリリースで得られるもの、得られないもの
プレスリリースを出すと、報道機関が記事にしてくれる可能性があります。第三者である報道機関の記事は、自社の広告よりも信頼されやすく、新規事業の認知や信用の獲得に役立ちます。記事にならなくても、配信サービスや自社サイトに掲載されたリリースは、事業の公式な記録として残ります。
一方で、記事にするかどうかを決めるのは報道機関で、出せば必ず載るものではありません。また、記事の内容を自社が決めることもできません。プレスリリースは、広告のように確実に届く手段ではなく、「記事にしたくなる材料を届ける」手段だと理解しておきます。
どんなときに出すか
新規事業で報道機関の関心を引きやすいのは、次のような場面です。
- 事業・製品の開始:新しいサービスの提供開始、正式版の公開
- 資金調達:出資の受け入れ、金額と引受先(公開の了承を得た範囲で)
- 提携・協業:他社との業務提携、共同での実証実験の開始
- 実績の節目:導入企業数や利用者数の節目(数字の根拠を示せる場合)
- 調査結果の公表:自社で行った調査の結果。業界の課題を数字で示すもの
- 社会的な課題との関わり:法改正や社会の変化に対応する取り組み
新規事業では、「開始」のリリースを出したあと、次に出せる話題がないという状態になりがちです。事業計画の段階で、半年から1年の間にどんな節目があり、どの時期にリリースを出せそうかを並べておくと、継続的に発信できます。
出す時期の考え方
製品の開始を発表する場合、発表の時点で実際に申込みや問い合わせを受けられる状態になっているかを確認します。記事を読んだ人が問い合わせても対応できなければ、機会を逃すだけでなく、印象も悪くします。また、提携や資金調達の発表は、相手方との発表内容と日時の合意が前提です。大企業とスタートアップの協業を発表する場合の進め方はスタートアップとの協業・事業提携の進め方も参考にしてください。
記者が見ている点
記者は日々多くのリリースを受け取っており、タイトルと冒頭の数行で読み進めるかを判断すると考えて書きます。記事にする理由として、次のような要素を意識します。
- 新しさ:初めての取り組みか、従来とどこが違うのか
- 社会性:多くの人や業界に関わる課題か。なぜ今なのか
- 具体性:誰が、何を、いつから、どのように。数字や固有名詞で示されているか
- 人の物語:誰がなぜこの事業を始めたのか。顧客にどんな変化があったのか
- 媒体との相性:その媒体の読者にとって意味があるか
特に新規事業では「新しさ」を主張したくなりますが、「業界初」「日本初」といった表現は、根拠を確認できない限り使わないようにします(後述)。
構成と書き方
基本の構成
プレスリリースは、重要なことから順に書くのが基本です。
- タイトル:何が起きたのかを一文で。社名、何を、どうした、が分かるように
- サブタイトル:タイトルを補う要点(対象、特徴、時期など)
- リード文:最初の段落で、いつ、誰が、何を、なぜ、どのように、を要約する。ここだけ読めば内容が分かるようにする
- 背景:なぜこの事業に取り組むのか。社会や業界の課題
- 内容の詳細:製品やサービスの特徴、価格、提供開始日、対象
- 関係者のコメント:代表者や提携先、顧客のコメント(本人の了承を得たもの)
- 今後の展開:今後の計画(確定していない内容は断定しない)
- 会社概要:社名、所在地、代表者、設立、事業内容、ウェブサイト
- 問い合わせ先:報道関係者からの問い合わせ先(担当者名、電話、メール)
書くときの注意点
- 専門用語を避ける:その分野に詳しくない記者でも理解できる言葉で書く。社内用語や略語は使わない
- 形容詞より事実:「画期的な」「革新的な」といった言葉ではなく、何がどう違うのかを事実で示す
- 数字には根拠を:市場規模や効果の数字は、出典や測定の条件を添える
- 画像を用意する:製品の画面、利用の様子、代表者の写真など、記事に使える画像を用意する
- 長さは適度に:詳しい資料は別途用意し、リリース本文は要点に絞る
使ってはいけない表現に注意する
「No.1」「日本初」「業界最安」などの表現は、消費者向けの商品やサービスについて使う場合、景品表示法の不当表示にあたるおそれがあります。消費者庁が2024年(令和6年)9月に公表した「No.1表示に関する実態調査報告書」では、No.1表示が合理的な根拠に基づくといえるためには、比較対象の商品・サービスが適切に選定されていること、調査対象者が適切に選定されていること、調査が公平な方法で実施されていること、表示内容と調査結果が適切に対応していることが必要とされています。リリースは自社サイトや配信サービスにそのまま掲載され、広告と同じように消費者の目に触れることも踏まえて、根拠を説明できない表現は使わないようにします。
配信の方法
主な配信の方法
- 配信サービスを使う:有料のプレスリリース配信サービスを使うと、多くの報道機関に一度に届けられ、提携するニュースサイトに掲載されることもあります。
- 記者に直接送る:取り上げてほしい媒体や記者が決まっている場合、直接送ります。その記者がこれまでに書いた記事を読み、関心のある分野に合ったリリースだけを、なぜその記者に送るのかを添えて送ります。
- 記者クラブに投げ込む:業界や地域の記者クラブにリリースを配布する方法です。記者クラブごとに受け付けのルールがあるため、事前に確認します。
- 自社サイトに掲載する:配信とあわせて、自社サイトのニュースやお知らせの欄にも掲載します。
新規事業では、配信サービスで広く届けるよりも、事業に関係の深い業界紙や専門媒体の記者に直接届けるほうが、記事になりやすいこともあります。
配信の後にやること
- 問い合わせに対応できる担当者を配信直後に確保しておく
- 取材の依頼があれば、事実関係を確認できる資料をそろえて対応する
- 掲載された記事を記録し、許可された範囲で自社サイトや営業資料で紹介する
- 反応を記録し、次のリリースのテーマや送り先の見直しに使う
記者との関係は一度の配信で終わりません。取材に丁寧に対応し、正確な情報を提供し続けることで、次の発表のときにも関心を持ってもらいやすくなります。
大企業の新規事業での注意点
広報部門との調整
大企業では、プレスリリースは広報部門の承認を経て出すのが一般的です。広報部門の確認、法務部門の確認、経営陣の承認などに時間がかかるため、発表日から逆算して準備を始めます。新規事業の発表では、会社全体の発表予定(決算発表など)と重ならないよう、広報部門と日程を調整します。
上場企業は適時開示との関係を確認する
上場企業の場合、新規事業の発表が金融商品取引所の適時開示の対象になることがあります。東京証券取引所の資料では、上場会社の業務執行を決定する機関が「新たな事業の開始(新商品の販売又は新たな役務の提供の企業化を含む)」を行うことを決定し、その内容が所定の基準に該当する場合(該当しないことが明らかでない場合を含む)は、直ちにその内容を開示することが義務づけられているとされています。適時開示が必要な内容を、開示より先に報道機関向けのリリースや取材で公表することのないよう、IR・法務部門と開示の要否と順序を確認します。
会社名と新規事業の見せ方
大企業の名前で発表すると、報道機関の関心を得やすい一方、既存事業の顧客や取引先の目にも触れます。既存事業との関係(競合しないか、既存顧客への説明は済んでいるか)を確認しておきます。
起業家・スタートアップでの注意点
最初のリリースは慎重に
創業直後は発表できる実績が少なく、リリースを出しても反応が得られないことがあります。製品の正式公開、資金調達、有名企業との提携など、記者が関心を持ちやすい節目を最初のリリースに選ぶと効果的です。
資金調達の発表は関係者と合意してから
資金調達のリリースでは、出資者の名前や金額を載せるかどうかを出資者と事前に合意します。契約で公表の方法が定められていることもあるため、契約内容を確認します。資金調達の手段ごとの違いはシード期の資金調達手段の種類と違いで扱っています。
代表者自身が語れるようにする
スタートアップの取材では、代表者に話を聞きたいという依頼が多くあります。事業を始めた理由、解決したい課題、今後の展望を、短く具体的に話せるように準備しておきます。
まとめ
- プレスリリースは記事になる材料を届ける手段で、掲載は約束されない
- 事業計画の段階で、半年から1年の間の発表の節目を並べておく
- タイトルとリード文で、新しさ・社会性・具体性を示す
- 「No.1」「日本初」などは根拠を確認できない限り使わない
- 配信サービスだけでなく、関係の深い記者に直接届けることも検討する
- 上場企業は、新規事業の発表が適時開示の対象になるかを事前に確認する
制度は改定されます。表示や開示の判断の前に、公式情報と弁護士などの専門家、上場企業の場合は取引所の規則を確認してください。
参考資料
進め方に迷ったら、相談してください
起業家ポータル のメンバーが話を伺います。初回の相談は無料です。
同じ工程の記事
新規事業のGo-to-Market戦略:誰に・どの経路で・どう売るかの決め方
Go-to-Market戦略は「最初に攻める顧客層」「届ける経路」「売り方」「支える体制」の4つを一枚にまとめ、順番に検証していく計画です。PMFの前後で変わる考え方、経路の選び方、大企業と起業家それぞれの注意点を解説します。
BtoB新規事業の営業プロセス:商談の段階設計と案件管理
BtoB新規事業の営業は、商談を段階に分け、各段階の「次に進む条件」を決めて案件を管理すると再現性が生まれます。段階の定義、買い手の社内承認の支援、役割分担、失注分析、営業メールの法令上の注意点を解説します。
カスタマーサクセスの始め方:新規事業で最初に作る仕組み
カスタマーサクセスは、顧客ごとに「成功」の定義を決め、そこに届くまでの導入手順を型にすることから始めます。サポートとの違い、始める時期、導入支援の設計、顧客の状態の見方、体制の作り方を新規事業向けに解説します。
新規事業のコンテンツマーケティング:テーマの選び方とステマ規制の注意点
新規事業のコンテンツマーケティングは、狙う顧客が検討の各段階で抱く疑問に答える記事や資料を、少数に絞って作り続けることが基本です。テーマの選び方、形式、体制、効果の測り方と、ステマ告示やNo.1表示の注意点を解説します。