解約率(チャーン)の見方と改善:新規事業で押さえる測り方と打ち手
解約率(チャーン)は、「顧客数で見るか、金額で見るか」「何を分母にし、どの期間で測るか」を決めずに比べると、改善したのか悪化したのかさえ判断を誤ります。新規事業では、まず定義をそろえ、解約を理由と時期で分けて見たうえで、最も多い理由に対して手を打つのが基本です。解約を思いとどまらせるために手続きを分かりにくくするような運用は、顧客の信頼を損なうだけでなく、消費者向けの取引では法令上の問題にもなり得ます。
継続率を使ったPMFの判断はPMF(プロダクトマーケットフィット)の判断の仕方で扱いました。この記事では、事業が動き出した後に、解約をどう測り、どう減らしていくかに絞ります。なお、業種やビジネスモデルによって解約率の水準は大きく異なるため、ここでは目安となる数字は示しません。比べるべきは他社の数字ではなく、自社の過去の数字と、事業計画で置いた前提です。
解約率の主な測り方
顧客数で測るか、金額で測るか
| 指標 | 計算の考え方 | 分かること |
|---|---|---|
| 顧客数ベースの解約率 | 期間中に解約した顧客数 ÷ 期首の顧客数 | どれだけの顧客が離れているか |
| 金額ベースの解約率 | 期間中に解約や減額で失った継続売上 ÷ 期首の継続売上 | 売上の面でどれだけ失っているか |
| 売上継続率(純額) | (期首の継続売上 − 解約・減額 + 既存顧客の増額)÷ 期首の継続売上 | 既存顧客だけで売上が増えているか、減っているか |
顧客の規模に差がある法人向けの事業では、顧客数ベースと金額ベースで見え方が大きく変わります。小口の顧客が多く解約していても大口の顧客が残っていれば、金額ベースでは悪く見えません。逆に、大口の顧客1社の解約が金額ベースの数字を大きく動かすこともあります。両方を並べて見ることが大切です。
売上継続率(純額)は、既存顧客の増額(利用人数の拡大、上位プランへの移行、追加の購入)も含めて見る指標です。この値が100%を超えていれば、新規顧客を獲得しなくても既存顧客からの売上が増えていることを意味します。
定義で決めておくこと
解約率を社内で共有する前に、次の点を決めて文書にしておきます。
- 何を「解約」とするか:契約の終了か、利用の停止か。無料プランへの移行や、一時休止は含めるか
- いつ数えるか:解約の申し出の日か、契約が終了する日か
- 分母:期首の顧客数か、期中の平均か。期中に新たに獲得した顧客を含めるか
- 期間:月次か、年次か。年契約が中心の事業で月次の解約率を見ても、更新月以外はほとんど動かない
- 対象:無料試用の顧客や、試験導入中の顧客を含めるか
特に、期中に獲得した顧客を分母に入れるかどうかで、顧客が急増している時期の数字は大きく変わります。事業の拡大期に「解約率が下がった」ように見えても、実際には分母が増えただけ、ということがあります。
月次と年次は単純に換算しない
月次の解約率を12倍しても、年間の解約率にはなりません。残った顧客の中から毎月一定の割合が解約していくと考えると、年間で残る割合は「1 − 月次の解約率」を12回掛け合わせたものになります。事業計画や投資家への説明で数字を示すときは、どの期間の、どの定義の数字かを明記します。解約率は顧客1社あたりの生涯売上の見積もりにも使われるため、事業計画で使っている前提ともそろえておきます。
解約を分けて見る
解約率の全体の数字だけを見ていても、打ち手は決まりません。解約を分けて見ることで、原因が見えてきます。
時期で分ける
- 導入初期の解約:契約して間もなく離れる。使い始められなかった、期待と違った、という理由が多い
- 一定期間使った後の解約:使っていたが、成果が見えない、担当者が変わった、予算が削られた、などの理由が多い
- 更新時の解約:年契約などの更新のタイミングで見直される
利用開始の時期ごとに顧客をまとめ、その後の経過を並べて見ると、どの時期に解約が集中しているかが分かります。導入初期の解約が多ければ導入支援の問題、一定期間後の解約が多ければ継続的な価値の提供の問題、というように打ち手が変わります。
理由で分ける
解約の申し出があったときに理由を聞き、次のように分類して記録します。
- 使いこなせなかった:設定や操作が難しい、社内に広まらなかった
- 成果が出なかった:期待した効果が得られなかった
- 必要がなくなった:業務の変化、事業の縮小、課題の解消
- 他の手段に移った:競合製品、自社開発、別の方法
- 価格:費用に見合わない、予算が削られた
- 担当者の変化:推進していた担当者の異動や退職
- 本人の意思によらない解約:クレジットカードの期限切れなどによる支払いの失敗
最後の「本人の意思によらない解約」は見落とされがちです。支払いの失敗を放置すると、使い続けたい顧客まで失うことになります。
「価格」という理由も、額面どおりに受け取らないようにします。成果が出ていない顧客は、価格を理由に挙げることがよくあります。可能であれば、解約した顧客に短い面談をお願いし、背景を聞きます。
顧客の属性で分ける
業種、規模、契約したプラン、獲得した経路などで解約率を比べると、解約しやすい顧客層が見えてきます。特定の経路(例えば、大幅な値引きのキャンペーン)で獲得した顧客の解約が多い場合、それは営業や広告の問題であり、獲得の仕方を見直す必要があります。
時期と理由に応じた打ち手
導入初期の解約を減らす
- 最初の成果が出るまでの手順を型にし、つまずく箇所を減らす
- 契約時に、顧客ごとの成功の定義と目標を決めておく
- 利用が始まっていない顧客に早めに連絡する
導入支援の設計はカスタマーサクセスの始め方で詳しく扱っています。
継続的な価値の提供で解約を減らす
- 契約時に決めた成果を定期的に振り返り、顧客が上司に報告できる形で示す
- 利用が減っている顧客を早めに見つけて連絡する
- 推進担当者以外にも接点を持ち、担当者の異動に備える
- 顧客の声を集め、多くの顧客に共通する不満から製品を改善する
契約と支払いの仕組みで解約を減らす
- 支払いの失敗への対応:支払いが失敗したときの通知と再試行、カード情報の更新の案内を整える
- プランの選択肢:解約しかないのではなく、下位プランへの変更や一時休止の選択肢を用意すると、関係を保てる場合がある
- 契約期間の選択肢:年契約など長めの契約期間を選べるようにする。ただし、成果が出ていない顧客を契約期間で縛っても、更新時にまとめて離れるだけなので、価値の提供と一緒に考える
解約した顧客から学ぶ
解約は、事業にとって最も率直な評価です。解約した顧客の声を記録し、定期的に集計して、製品、価格、狙う顧客の条件の見直しにつなげます。解約した顧客に、改善した点を後日知らせることで、再契約につながることもあります。
解約を妨げる運用は避ける
解約を減らしたいあまり、解約の手続きを分かりにくくしたり、解約の窓口を電話だけにして長時間つながらない状態にしたりする運用は、顧客の信頼を大きく損ないます。評判が広がれば、新規顧客の獲得にも影響します。
消費者向けのインターネット通販などでは、法令上の問題にもなり得ます。消費者庁の案内によると、2022年(令和4年)6月1日から、改正特定商取引法により、事業者は取引の基本的な事項を最終確認画面(注文を確定する直前の画面)で明確に表示する必要があり、誤認させる表示により申込みをした消費者は契約を取り消せる可能性があるとされています。
消費者庁の「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」では、最終確認画面などで表示すべき事項の一つとして、申込みの撤回や解除に関する事項(その条件、方法、効果など)を挙げています。定期購入契約で解約の申出に期限がある場合はその期限を、解約時に違約金などの不利益が生じる場合はその旨と内容を表示する必要があるとしています。さらに、解約方法を消費者が想定しないような手段に限定する場合や、解約の受付を特定の時間帯に限定する場合などは、リンク先に委ねるのではなく最終確認画面でも明確に表示することが必要としたうえで、そうした表示をしても制約が民事上有効になるわけではなく、不当に消費者の権利を制限する条項は消費者契約法などにより無効となることがあるとしています。また、解約の連絡先として示した電話番号にまったくつながらない場合などは、撤回や解除に関する事項について不実のことを表示する行為に該当するおそれがあるとしています。
定期購入やサブスクリプションの形で消費者に販売する場合は、解約の条件と方法を申込みの時点で分かりやすく示し、示したとおりに解約を受け付けられる体制を整えることが前提です。通信販売の表示についてはネット販売を始めるときの特定商取引法の表示も参照してください。
大企業の新規事業での注意点
- 既存事業の顧客の解約を分けて見る:既存事業との関係で契約している顧客は、既存取引の都合で継続していることがあります。新規事業の価値で継続している顧客と分けて解約率を見ます。
- 解約率の定義を社内でそろえる:既存事業で使っている解約率の定義が、新規事業の契約形態に合わないことがあります。経営陣への報告で使う定義を早めに決めておきます。
- 報告の数字を整えすぎない:解約率が悪い時期に定義を変えて数字を良く見せると、判断を誤ります。定義を変えるときは、変える理由と変更前後の数字を並べて示します。
起業家・スタートアップでの注意点
- 生の数字を持っておく:投資家に解約率を説明する際は、定義と計算に使った元のデータを示せるようにしておきます。利用開始時期別の推移を示すと、改善の傾向を説明しやすくなります。
- 獲得を急ぎすぎない:解約の多い状態で新規獲得に資金を投じると、獲得した顧客が次々に離れ、資金だけが減っていきます。解約の主な理由に手を打ってから、獲得を加速させます。
- 創業者が解約の理由を聞く:初期は、解約した顧客に創業者自身が話を聞くことで、事業の方向性を見直す手がかりが得られます。
まとめ
- 解約率は、顧客数と金額の両方で見る。既存顧客の増額を含めた売上継続率もあわせて見る
- 何を解約とするか、分母、期間、対象を決めて文書にする
- 月次の数字を単純に12倍して年間の数字にしない
- 解約を時期、理由、顧客の属性で分けて見て、最も多い原因から手を打つ
- 本人の意思によらない支払いの失敗による解約を見落とさない
- 解約を妨げる運用は信頼を損ない、消費者向けの取引では法令上の問題にもなり得る
制度は改定されます。消費者向けの契約や表示を決める前に、公式情報と弁護士などの専門家に確認してください。
参考資料
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