人材確保 大企業向け

新規事業担当者の人事評価:既存事業の物差しを持ち込まない

新規事業の担当者は、売上や利益といった既存事業の物差しではなく、事業の段階に応じた「検証の前進」と「行動の量と質」で評価するのが基本です。そして、事業の成否と担当者の評価を切り離し、撤退した事業の担当者でも、検証を適切に進めていれば正当に評価される仕組みにしておく必要があります。

経済産業省とイノベーション100委員会の「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針」(2019年)も、価値創造活動の成果は既存事業の評価基準(売上、顧客数、ROI、市場シェアなど)ではすぐに見えにくいとし、挑戦に係る活動量や失敗からの学びと活かし方など、成功の予兆を見える化できる指標を設けて評価することを推奨しています。この記事では、人事評価の制度を新規事業に合わせるときの考え方を整理します。社内公募制度の中での処遇の考え方は社内公募・社内起業制度の作り方で扱っています。

既存事業の評価をそのまま使うと起きること

既存事業の評価制度は、あらかじめ決めた目標をどれだけ達成したかを測るように作られています。これを新規事業にそのまま当てはめると、次のようなことが起きます。

  • 目標が立てられない:初年度の売上目標を立てても、根拠がないため達成・未達成に意味がない
  • 無難な案に流れる:達成しやすい目標を立てるため、検証の価値が低い、確実な案を選ぶようになる
  • 撤退を言い出せない:事業をやめると「目標未達」になるため、見込みがなくても続けようとする
  • 挑戦する人がいなくなる:新規事業に行くと評価が下がると社内で認識されると、手を挙げる人が減る

行動指針でも、価値創造活動を奨励しておきながら失敗を許さない風土があることが「企業が陥りやすい課題」として挙げられています。

段階に応じた評価項目

新規事業の段階によって、評価すべきものは変わります。次は一つの例です。

段階 主な評価の対象
アイデア検証 顧客の課題の理解がどれだけ進んだか 聞き取りをした顧客候補の数と、そこから確かめた・否定した仮説
MVP・PoC 解決策が受け入れられるかの検証 試作品を使ってもらった顧客の反応、有料化の条件の明確化
事業化の初期 事業として成り立つかの検証 有料顧客の獲得、継続利用、顧客獲得にかかる費用の見通し
拡大 事業の成長 売上、利益、顧客数などの事業指標

最初の二つの段階では、売上ではなく「何がわかったか」を評価の中心に置きます。売上や利益で評価するのは、事業として成り立つ見通しが立ってからです。各段階で追う指標の置き方は新規事業のKPIの置き方と撤退基準を参照してください。

行動指針では、企業の取り組み例として、新規事業のメンバーをどのステージまで進めることができたかで主に評価する例、個別案件の進捗ではなく案件全体の活動量を評価し、「ステージゲート通過数」を指標の一つにしてゲートを戻ることも通過数として数える例、ビジネスパートナーとのネットワーク数や試作品への予約注文の数で評価する例が紹介されています。自社で採り入れる場合は、数を追うこと自体が目的にならないよう、何を確かめるための活動なのかとセットで評価します。

目標の立て方

「成果目標」より「検証目標」

新規事業の初期は、「売上○円」のような成果目標ではなく、「半年以内に、○○という仮説が正しいかどうかを判断できる材料をそろえる」のような検証目標を立てます。仮説が否定された場合も、それを期限内に明らかにしたことは成果として扱います。

行動の質を評価する観点を決める

活動の量だけで評価すると、質の低い聞き取りを数多くこなすことが目的になりかねません。例えば次のような観点を、評価者と担当者であらかじめ合意しておきます。

  • 仮説を明確にしてから検証しているか
  • 検証の結果を記録し、チームや関係者に共有しているか
  • 仮説が外れたとき、次の打ち手を速やかに決めているか
  • 社内外の協力者を巻き込めているか

行動や姿勢を評価する場合は、評価の対象となる具体的な行動と評価の方法を事前に示しておくと、評価への納得感が高まります。

評価期間中に目標を見直す

新規事業では、期の途中で方向転換することがあります。期初に立てた目標にこだわると、方向転換した担当者ほど評価が下がってしまいます。方向転換を決めたときは、その時点で目標を見直す手続きを設けておきます。

誰が評価するか

新規事業の担当者を、元の部署の上司が評価する仕組みになっている会社があります。この場合、元の上司は新規事業の中身をよく知らず、既存事業の物差しで評価してしまう恐れがあります。

評価者は、新規事業の責任者、またはその活動を日常的に見ている人にします。責任者本人の評価は、新規事業のスポンサー役員が担うのが自然です。責任者とスポンサーの役割は新規事業の責任者の選び方と、権限の渡し方で扱っています。

評価者自身が新規事業の評価に慣れていないことも多いため、評価の観点をそろえるための研修や、評価者どうしで評価結果をすり合わせる場を設けると、評価のばらつきを抑えられます。

兼務者の評価

既存業務と兼務で新規事業に関わる人は、既存業務の評価だけが残り、新規事業への貢献が評価されないことがよくあります。行動指針でも、業務時間外にボランタリーベースで活動しているため時間がないことが課題として挙げられ、本業に加えて価値創造活動に挑戦することを後押しする人事評価制度を整備することが示されています。

兼務者の評価では、次の点を決めておきます。

  • 新規事業に使う時間の割合(例:週に何日、業務時間の何割)を、元の部署の上司と合意する
  • 評価の比重を、その時間の割合に応じて配分する
  • 新規事業側の責任者が、新規事業への貢献について評価の意見を出す

撤退したときの評価

事業を撤退したことと、担当者の評価は分けて考えます。検証を適切に進め、見込みがないことを早く明らかにした担当者は、会社の資源の無駄遣いを防いだことになります。

撤退時の評価で確認するのは、次のような点です。

  • 撤退の判断に至るまでの検証が、適切な手順で行われたか
  • 検証の結果や得られた知見が記録され、社内で再利用できる形になっているか
  • 撤退の判断を、事前に決めた基準に沿って適切なタイミングで行ったか

撤退した担当者が冷遇されれば、次に新規事業に手を挙げる人はいなくなります。撤退後の配属先や、元の部署に戻る場合の扱いも、制度として決めておきます。

報酬への反映

新規事業の担当者の報酬を、既存事業の評価と同じ仕組みで決めるか、別の仕組みを設けるかは会社によって異なります。事業化した場合の報奨を設ける、別会社にした場合に株式などで報いるといった方法を検討する場合は、既存の人事制度との整合性や税務上の扱いを、人事部門と専門家で確認します。

まとめ

新規事業の担当者の評価では、段階に応じて評価の対象を変え、初期は売上ではなく検証の前進と行動の質を評価します。目標は検証目標として立て、方向転換したら見直します。評価者は活動を見ている人にし、兼務者の貢献も評価に反映させ、撤退した事業の担当者も検証の進め方で正当に評価します。評価の仕組みは、社員が新規事業に挑戦するかどうかを左右する、最も強いメッセージになります。

参考資料

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