人材開発支援助成金の要点:新規事業のスキル習得に使えるリスキリング支援コース
新規事業の立ち上げに伴って社員に新しい分野の知識・技能を習得させる訓練には、厚生労働省の人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」が使えます。訓練経費の75%(大企業は60%)と訓練時間中の賃金の一部が助成され、大企業も対象です。ただしこのコースは令和4年度から令和8年度(2027年3月31日まで)の期間限定で創設されたもので、2026年9月時点で令和9年度以降の扱いは公式資料で確認できませんでした。訓練開始の1か月前までに計画届を出す必要があるため、検討するなら早めに動く必要があります。
人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金は、事業主が雇用する労働者に、職務に関連した専門的な知識・技能を習得させるための職業訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。厚生労働省のページでは、次の7コースが示されています。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
新規事業の人材育成と特に関係が深いのが、事業展開等リスキリング支援コースです。デジタル人材の育成訓練や定額制(サブスクリプション型)の研修サービスを使う場合は、人への投資促進コースも候補になります。
事業展開等リスキリング支援コースの助成額
助成率
| 企業規模 | 経費助成 | 賃金助成(1人1時間あたり) | 設備投資加算 |
|---|---|---|---|
| 中小企業 | 75% | 1,000円 | 導入費用の50% |
| 大企業 | 60% | 500円 | なし |
eラーニング、通信制、定額制サービスによる訓練は経費助成のみで、賃金助成は対象外です。
経費助成の限度額(1人1訓練あたり)
| 企業規模 | 10時間以上100時間未満 | 100時間以上200時間未満 | 200時間以上 |
|---|---|---|---|
| 中小企業 | 30万円 | 40万円 | 50万円 |
| 大企業 | 20万円 | 25万円 | 30万円 |
- eラーニング・通信制による訓練は、中小企業15万円、大企業10万円が限度です
- 定額制サービスによる訓練は、1人1か月あたり2万円が限度です
- 賃金助成は1人1訓練あたり1,200時間が限度です
- 1事業所が1年度に受給できる助成額は1億円までです
設備投資加算(中小企業のみ)
2026年4月8日に新設されました。中小企業が、賃金を5%以上引き上げるなどの要件を満たし、訓練の実技で使う機器・設備と同種の「事業展開促進機器等」を新たに導入した場合に、通常分とは別に導入費用の50%が加算されます。限度は支給対象労働者1人につき15万円、10人以上の場合は150万円です。訓練は通学制または同時双方向型の通信訓練で、機器・設備を実際に使う実技を含むものが対象です。
中小企業の範囲
雇用関係助成金での「中小企業事業主」は、資本金・出資の総額か常時雇用する労働者の数のいずれかが次に当てはまる事業主です。
| 業種 | 資本金・出資の総額 | 常時雇用する労働者の数 |
|---|---|---|
| 小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
大企業の新規事業部門は「大企業」の助成率・限度額になります。新規事業を子会社として切り出している場合は、その子会社が上の範囲に当てはまるかを確認します。
対象となる事業主・労働者・訓練
事業主と労働者
- 事業主:雇用保険適用事業所の事業主
- 労働者:申請事業主の雇用保険被保険者
訓練の要件
- OFF-JT(通常の業務と区別して行う訓練)であること
- 実訓練時間数が10時間以上であること
- 次のいずれかに当てはまること
- 事業展開を行うにあたり、新たな分野で必要となる専門的な知識・技能を習得させる訓練
- 企業内のデジタル・DX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるにあたり、関連業務に必要な専門的な知識・技能を習得させる訓練
- 企業内の人事・人材育成に関する計画に基づき、今後従事する予定の職務に必要な専門的な知識・技能を習得させる訓練
1の「事業展開」は、新たな製品の製造や新たな商品・サービスの提供などにより新たな分野に進出することを指し、事業や業種の転換、既存事業の中での製造方法・提供方法の変更も含まれます。訓練開始日から3年以内に実施する予定か、6か月以内に実施したものである必要があります。3の場合は、人事・人材育成に関する計画について、あらかじめ認定経営革新等支援機関の確認を受ける必要があります。
申請の際は、事業展開などの内容を記載した「事業展開等実施計画」を職業訓練実施計画届と一緒に提出します。新規事業の構想が具体的に書けるかどうかが、申請の前提になります。
対象にならない訓練の例
パンフレットでは、次のような訓練は対象外とされています。
- 単にデジタル機器で文章・数値の入力や書式の変更をする程度の初歩的な操作の訓練
- 既存のアプリやシステムを購入してその操作方法を習得するだけの訓練、コンサルタントによる指導
- 通常の事業活動として行うもの(経営改善の指導、自社製品の説明、販売戦略会議など)
- 意識改革研修など、職務の知識・技能の習得を目的としないもの
- 3の訓練の場合、管理職研修・マネジメント研修・リーダーシップ研修など役職として求められる知識の習得を目的とするもの
2026年8月3日からの変更点
2026年8月3日以降に提出する計画届から、次の変更が適用されています(経過措置あり)。
- DX・GX化の訓練でも、汎用的な内容は対象外:職務に間接的に必要な知識・技能の訓練や、職業人として共通に必要な訓練は、DX・GX化に関する訓練でも対象外になりました。厚生労働省の資料では、生成AIで商品提案書を作る方法を営業担当者が学ぶ訓練は対象、汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練は対象外、という例が示されています
- 受講回数の上限:同じ労働者について1年度に3回まで、このうちeラーニングによる訓練は1回までです
新規事業で「全社員向けのAI研修」のような広い研修を想定している場合は、新規事業の業務に直結する内容と対象者に絞り込む必要があります。
手続きの流れ
- 事前準備:職業能力開発推進者を選任し、事業内職業能力開発計画を作って社員に周知します
- 計画届の提出:訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に、職業訓練実施計画届、事業展開等実施計画、対象労働者一覧、カリキュラムなどを管轄の労働局に提出します。雇用関係助成金ポータルでの電子申請もできます
- 訓練の実施:計画に沿って訓練を行い、支給申請までに訓練経費の全額を支払います
- 支給申請:訓練終了日の翌日から2か月以内に、支給申請書と必要書類を提出します
- 審査・支給決定:令和7年度以降、審査は支給申請後に一括して行う形になりました。計画届を出したことで助成金が確実に支給されるわけではありません
2026年5月14日の支給要領改正で、「受講料等の価格設定に関する疎明書(様式第28号)」の提出が必要になっています。
大企業の新規事業部門で使うときの注意点
- 期間限定であることを前提に計画する:コースは令和8年度までの期間限定として創設されています。これから訓練を計画する場合は、計画届の提出時期と訓練期間が対象になるかを、管轄の労働局に確認します
- 研修会社の勧誘をうのみにしない:厚生労働省は、助成金の申請や受給額の無料査定をうたう勧誘に注意を呼びかけています。訓練実施者が不正に関与した場合は、事業主だけでなく訓練実施者も返還の連帯債務や公表の対象になります
- 複数事業所の一括申請:本社で支社分をまとめて申請することもできますが、受講する訓練コースが同一で同時期に実施する場合に限られます
- 不正受給の影響は全社に及ぶ:不正受給と判断されると、返還に加えて延滞金と違約金が請求され、5年間すべての雇用関係助成金を受給できなくなります
新規事業のチームづくり全体は新規事業の最初のチームの作り方、社内の人材の動かし方は社内公募・社内起業制度の作り方も参考にしてください。
本記事は2026年9月時点の厚生労働省の公式ページとパンフレット(令和8年8月3日版)に基づいています。制度は改定されます。申請の前に公式情報と専門家(社会保険労務士など)に確認し、不明な点は管轄の労働局に問い合わせてください。
参考資料
- 人材開発支援助成金(厚生労働省)
- 令和8年度版 事業展開等リスキリング支援コースのご案内(詳細版・令和8年8月3日版)(厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク)
- 令和8年度版 事業展開等リスキリング支援コースのご案内(令和8年4月8日版)(厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク)
- 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正:令和8年8月3日からの変更点について(厚生労働省)
- 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正:設備投資加算を新設しました(厚生労働省)
- 令和8年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)(厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク)
- 雇用関係助成金の不正受給について(厚生労働省)
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