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社内公募・社内起業制度の作り方

社内公募・社内起業制度は、募集要項と審査会を作るだけでは機能しません。制度を始める前に「何のための制度か」を一つに絞り、応募者が検討に使える時間、段階ごとの予算と判断基準、事業化したときの受け皿、うまくいかなかった人の処遇までを決めておくことが、形だけの制度にしないための条件です。

この記事では、社内公募・社内起業制度を新しく作る、あるいは作り直す担当者に向けて、設計で決める項目を順に説明します。

最初に目的を一つに絞る

社内起業制度の目的としてよく挙げられるのは、次のようなものです。

  • 新しい事業を生み出す
  • 新規事業を担える人材を育てる
  • 挑戦を後押しする組織文化をつくる
  • 社員の意欲を引き出し、優秀な人材の流出を防ぐ

どれも大切ですが、目的によって制度の形が変わります。事業の創出が目的なら、審査は市場性と自社が取り組む理由を厳しく見て、通過件数は少なくてかまいません。人材育成が目的なら、多くの人が参加して検証の経験を積めることを重視し、事業化に至らなくても学びを評価します。

複数の目的を同時に掲げると、「事業化件数が少ない」「参加者が少ない」と、どの指標でも失敗に見えてしまいます。主目的を一つ決め、経営陣と合意して、何をもって制度の成果とするかを先に定めておきます。

制度の基本設計

応募資格と応募単位

誰が応募できるか(正社員のみか、グループ会社や契約社員も含むか、年次や役職の制限を設けるか)、個人でもチームでもよいかを決めます。最初から完成したチームを求めると応募が減るため、個人で応募し、途中でメンバーを募れる形にする会社もあります。

テーマの範囲

完全に自由なテーマか、自社の事業領域や経営方針に関連するテーマに限るかを決めます。自由にすると多様な案が集まりますが、事業化段階で「なぜ当社がやるのか」を説明できず止まることがあります。テーマを限る場合は、自社の技術や顧客基盤などの資産を生かせるかどうかを判断軸にします。

応募者の時間をどう確保するか

制度が形骸化する最大の原因は、本業を抱えたまま、業務時間外に検討を求めることです。顧客へのヒアリングや試作は平日の日中にしかできないことも多くあります。

  • 審査の段階ごとに、業務時間の一定割合を検討に使ってよいと明記する
  • 上司の承認を不要にするか、上司が拒否できない仕組みにする
  • 一定の段階を通過したら、専任として異動できるようにする

特に上司との関係は重要です。自部署の人手が減るのを嫌う上司が応募を妨げることがないよう、人事部門と経営陣が制度を後押ししていることを明確に示します。

審査と予算は段階に分ける

一度の審査で事業化まで決めるのではなく、段階を区切って少額の予算から始め、検証の結果に応じて次の段階に進める設計が一般的です。

  1. 応募・書類審査:解きたい課題と、対象となる顧客の仮説を見る
  2. 検証段階:少額の予算と時間を与え、顧客ヒアリングや簡単な試作で課題の存在を確かめる
  3. 事業化検討段階:試作品やPoCで、顧客が実際に使うか、お金を払うかを確かめる
  4. 事業化判断:事業計画をもとに、本格的な投資と体制を決める

各段階で「何が確認できたら次に進むか」を審査前に示しておくと、審査員の好みで結果が左右されにくくなります。段階的な判断の仕組みは新規事業のステージゲートの設計で詳しく説明しています。

審査員の選び方

審査員は、既存事業の判断基準(短期の利益、既存顧客との整合性)だけで評価しない人を含めます。社外の起業家や投資家、事業開発の経験者を加える方法もあります。一方で、事業化の段階で予算と人を出すのは経営陣なので、経営陣が早い段階から関わり、どの基準で見ているかを応募者に伝えることも欠かせません。

伴走者を置く

初めて事業開発をする社員は、ヒアリングの進め方や仮説の立て方で迷います。事務局や外部の専門家が相談に乗る体制、過去の応募者との交流の場があると、途中で止まる案件が減ります。

事業化したときの受け皿

審査を通過した後に「どこで、誰が、どの予算で続けるのか」が決まっていないと、せっかくの案が止まります。制度を作る時点で、次のような選択肢を決めておきます。

  • 新規事業部門の中で続ける:本体の予算と人事制度のまま進める。調整は少ないが、既存事業と同じ意思決定の速さや基準に縛られやすい
  • 既存事業部門に移管する:既存の顧客基盤や販売網を使えるが、既存事業の優先順位に負けやすい
  • 子会社や別会社として切り出す:意思決定を速くし、独自の人事・報酬制度を持てる。提案者の籍や処遇をどうするかを決める必要がある

別会社にする場合、提案者を本体に籍を残したまま送り出すなら在籍型出向の仕組みを使うことが考えられます(新規事業で在籍型出向を使うときの基本)。本体を退職して独立する形を認めるかどうか、その場合に本体が出資するか、知的財産や顧客をどう引き継ぐかも、個別に判断するのではなく制度として方針を決めておくと、応募者が安心して挑戦できます。

挑戦した人の処遇と評価

報酬とインセンティブ

社内起業の提案者は、成功しても給与が大きく変わらないことが多く、起業家と比べて報われにくいという指摘があります。一方で、失敗しても職を失わない安心感があります。事業化した場合の報奨、別会社にした場合の株式やストックオプションの付与などを検討する際は、既存の人事制度との整合性と、法務・税務上の扱いを人事部門と専門家で確認します。

失敗したときの扱い

事業化に至らなかった人が、元の部署に戻れること、評価で不利にならないことを制度として保証します。撤退した案件の担当者が冷遇されるのを社員が見れば、次の応募者はいなくなります。撤退の判断は事業の判断であり、挑戦した人の評価とは分けて考えます。撤退の基準の置き方は新規事業のKPIの置き方と撤退基準で扱っています。

検証の過程で得た顧客の声や、撤退の理由を記録して社内に共有する仕組みも用意しておくと、失敗が組織の知見として残ります。

運用で気をつけること

  • 毎年同じ時期に開催する:単発で終わると社員は本気にしません。継続して開催し、前年度の結果を社内に公開します。
  • 通過案件を無理に作らない:件数の目標があると、基準に満たない案件を通してしまい、後で撤退の判断が難しくなります。
  • 制度そのものを見直す:応募数、各段階の通過率、途中で止まった理由を毎回振り返り、時間の確保や予算の出し方を改善します。
  • 経営陣が関与し続ける:担当役員が交代して制度が止まることは珍しくありません。制度の位置づけを経営計画の中に書き込んでおきます。

まとめ

  • 制度の主目的を一つに絞り、成果の測り方を経営陣と合意する
  • 応募者が業務時間を検討に使えるようにし、上司が妨げられない仕組みにする
  • 審査と予算は段階に分け、各段階の通過条件を事前に示す
  • 事業化したときの受け皿と提案者の処遇を、制度を作る時点で決めておく
  • 事業化しなかった人が不利にならないことを保証する

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