新規事業のステージゲートの設計:段階・判断基準・運用のつくり方
新規事業のステージゲートは、「段階ごとに検証すべき問いを決め、その答えが出たら次の予算を出す」ための仕組みとして設計すると機能します。既存事業の投資審査のように売上計画の確度を問うのではなく、各段階で不確実性がどれだけ減ったかを判断基準にすることが、設計の要点です。
ステージゲートとは何か
ステージゲートは、開発の取り組みを時間順の「ステージ(段階)」に分け、その間に経営が判断する「ゲート(関門)」を置く進め方です。Stage-Gate International(Stage-Gateは同社の登録商標)の解説によれば、このモデルはロバート・G・クーパー博士が考案し、初めて文献に登場したのは1988年です。同社はこれを、アイデアから上市までを導く価値創出の仕組みであり、リスク管理のための統治の仕組みでもあると説明しています。
同社の説明では、各ゲートは次の3つの要素で構成されます。
- 提出物(Deliverables):前のステージで得た調査結果、技術的な検証結果、財務分析など
- 判断基準(Criteria):プロジェクトの準備状況と事業価値を評価する基準
- 結論(Outputs):Go(進む)、Kill(中止)、Hold(保留)、Recycle(やり直し)の判断と、次のステージの人員・予算・期間、次のゲートの日程
判断者(ゲートキーパー)は、プロジェクトが必要とする経営資源を持つ複数部門の上位管理職が務める、とされています。
もともとは製品開発のための手法ですが、「段階に分けて、判断のたびに投資額を決める」という考え方は、社内の新規事業にもそのまま応用できます。
新規事業向けに設計するときの考え方
既存事業の投資審査をそのまま使わない
既存事業の設備投資や新製品の審査は、市場や顧客がある程度わかっている前提で、売上計画や投資回収の確度を問います。新規事業の初期段階で同じ基準を当てはめると、根拠のある数字を出せないため、どの案件も通らないか、逆に楽観的な計画ばかりが通るかのどちらかになりがちです。
新規事業のゲートでは、「この段階で確かめるべき仮説は何で、それがどこまで確かめられたか」を問う形にします。
段階ごとに「減らすべき不確実性」を決める
段階の切り方は企業によって異なりますが、社内新規事業では次のような区切りがよく使われます。名称よりも、各段階で何を確かめるかを明確にすることが大切です。
| 段階 | 主に確かめること | ゲートでの主な提出物の例 |
|---|---|---|
| テーマ探索 | 取り組む課題と対象顧客が妥当か | 課題仮説、対象顧客像、既存事業との関係 |
| 課題検証 | 顧客が本当にその課題を抱え、解決を望んでいるか | 顧客ヒアリングの記録と分析、代替手段の調査 |
| 解決策検証 | 提案する解決策に顧客が価値を感じるか | プロトタイプへの反応、支払意思の確認結果 |
| 事業性検証 | 継続的に売れ、採算が合う見込みがあるか | MVPでの利用・購入データ、単位あたりの収支、事業計画 |
| 事業化・拡大 | 組織として投資を拡大する価値があるか | 実績に基づく事業計画、体制・投資計画 |
検証のための試作品の作り分けはPoC・プロトタイプ・MVPの違いと進め方で詳しく扱っています。
予算は段階ごとに小さく出す
ステージゲートの利点は、失敗したときの損失を段階ごとに限定できることです。初期の段階ほど予算と期間を小さくし、ゲートを通過するたびに次の段階の分だけを承認します。最初から数年分の予算を確保する設計にすると、途中で撤退の判断がしにくくなります。
ゲートの判断基準の作り方
定量と定性を組み合わせる
初期のゲートでは、売上や利益の数字はまだ出せません。代わりに、次のような観点を組み合わせます。
- 顧客の証拠:何人の対象顧客に会い、何人が課題を強く認識していたか。試作品に対してどんな反応や行動があったか
- 市場性:対象市場の規模の見立てと、その根拠
- 自社が取り組む理由:既存の技術、顧客基盤、ブランドなどを生かせるか
- 次の段階の計画:次のステージで何を確かめ、そのためにいくら、どれだけの期間が必要か
事業性検証以降のゲートでは、実際の利用データや収支に基づく定量的な基準の比重を高めていきます。
基準は事前に公開し、途中で変えない
判断基準をあらかじめ提案者に示しておくことで、チームは何を集めればよいかがわかり、ゲートの議論も噛み合います。審査の場で判断者が新たな観点を持ち出し続けると、チームは資料作りに追われ、検証そのものが遅れます。基準を見直す場合は、次の募集回や次の案件から適用するのが公平です。
撤退の条件も先に決めておく
各ゲートで「どうなれば中止するか」を事前に決めておくと、判断が属人的になるのを防げます。たとえば「一定期間内に一定数の顧客から支払意思を確認できなければ中止または方向転換を検討する」といった形です。撤退の基準については新規事業のKPIの置き方と撤退基準も参考にしてください。
誰が判断するか
判断者を固定し、少人数にする
ゲートの判断者は、次のステージに必要な経営資源の配分を決められる立場の人が務めるべきです。判断者が回ごとに変わると、前のゲートで合意した前提が覆されやすくなります。また、判断者が多すぎると、一人でも反対があれば通らない「全会一致型」になりやすく、新規事業の審査には向きません。
既存事業の利害から距離を置く
既存事業の責任者だけで判断すると、自部門の顧客や売上と競合する提案が通りにくくなる可能性があります。新規事業担当の役員、社外の有識者、事業開発の経験者などを判断者に加えることで、判断のバランスを取る方法があります。
ゲートとゲートの間は任せる
ステージの途中では、チームに進め方の裁量を持たせることが重要です。細かな進捗報告や承認を求めると、検証の速度が落ちます。Stage-Gate Internationalも、後の世代のモデルでは、頻繁な試作と検証の繰り返し、迅速な顧客検証、ステージ内での短期の反復(スプリント)を取り入れた、構造と適応性を併せ持つ進め方を示しています。
運用で気をつけること
ゲートを「予算を取るための儀式」にしない
提案者が通すための資料作りに時間を使い、判断者が形式的に承認するだけになると、ステージゲートは機能しません。ゲートでは「何がわかり、何がまだわかっていないか」を率直に報告できる雰囲気を作り、仮説が外れたことを報告したチームが不利にならない評価の仕組みを用意してください。
「保留」と「やり直し」を使い分ける
判断は通過か中止かの二択ではありません。検証が不十分な場合は追加の検証を条件にやり直し、外部環境や社内事情で進められない場合は保留とするなど、判断の種類を明確にしておくと、チームの次の行動がはっきりします。
予算制度・人事制度とつなげる
ゲート通過のたびに予算を出すには、年度予算の枠の中で機動的に配分できる仕組みが必要です。また、中止になったプロジェクトのメンバーの処遇や評価のルールがないと、担当者が撤退を言い出しにくくなります。稟議の資料構成は新規事業の稟議で経営陣が見る点と資料の構成も参考になります。
参考資料
進め方に迷ったら、相談してください
起業家ポータル のメンバーが話を伺います。初回の相談は無料です。
同じ工程の記事
CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の基本:形態の選び方と運営の論点
CVCには本体投資・CVCファンド・VCへのLP出資といった形態があります。目的に応じた選び方、経済産業省の手引きが挙げる運営上の課題、オープンイノベーション促進税制、公取委・経産省の出資指針を解説します。
VCからの資金調達の流れ:準備から払込・登記まで
ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達は、準備、VC探しと面談、デューデリジェンス、タームシート、契約、会社法の手続き、調達後の報告という順に進みます。各段階でやることと、つまずきやすい点を公的なガイドラインをもとに整理します。
タームシートの主な条項:優先株式・事前承認・買取請求権の読み方
VCから優先株式で資金調達するときのタームシートについて、発行条件、優先分配(参加型・非参加型)、取得請求権と希釈化防止、事前承認、株式買取請求権、みなし清算など主な条項の意味と交渉の考え方を、経済産業省のガイドラインをもとに解説します。
資本政策の基本:持株比率の設計と資本政策表の作り方
資本政策は、誰に、いつ、どれだけの株式を、いくらで渡すかの計画です。会社法の決議要件から見た持株比率の意味、資本政策表の作り方、創業期に起きやすい失敗、ストックオプションや上場を見据えた考え方を、公的な資料をもとに解説します。