資本政策の基本:持株比率の設計と資本政策表の作り方
資本政策は、「誰に、いつ、どれだけの株式を、いくらで渡すか」を、将来の資金調達や上場・M&Aまで見通して決める計画です。一度発行した株式は取り戻すのが難しいため、最初の出資を受ける前に資本政策表を作り、ラウンドごとに創業者の持株比率と議決権がどう変わるかを確かめておくことが基本です。
経済産業省の「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」(2022年4月)も、ファイナンスは一旦資本構成が固まると後の変更が難しく後戻りできないため、あらかじめ全体像を把握し、各段階で想定される課題を踏まえて戦略を検討する必要があるとしています。
資本政策で決めること
資本政策では、主に次のことを決めます。
- 株主構成:創業者、共同創業者、役員・従業員、エンジェル投資家、VC、事業会社などに、どの順番でどれだけの株式を持ってもらうか
- 株価と調達額:各ラウンドで1株いくらで、いくら調達するか
- 株式の種類:普通株式か、優先株式などの種類株式か。新株予約権(ストックオプションやJ-KISS型新株予約権)をどう使うか
- 潜在株式の枠:将来のストックオプションなど、まだ株式になっていないが将来株式になりうるものをどれだけ見込むか
- ゴール:上場を目指すのか、M&Aを想定するのか。その時点での株主構成をどう想定するか
持株比率が意味すること
持株比率(議決権比率)は、株主総会で何を決められるかに直結します。会社法の主な決議要件は次のとおりです。
| 決議の種類 | 要件(定款で別段の定めがない場合) | 主な対象の例 |
|---|---|---|
| 普通決議 | 議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の過半数で決議(会社法309条1項) | 取締役の選任など |
| 特別決議 | 議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上で決議(同309条2項) | 非公開会社の募集株式の発行(同199条2項)、新株予約権の発行(同238条2項)、定款の変更など |
特別決議が出席株主の議決権の3分の2以上を必要とすることから、議決権の3分の1を超えて持つ株主がいると、その株主が反対した場合に特別決議は成立しにくくなります。スタートアップの資金調達では、株式の発行そのものが特別決議の対象になるため、創業者が単独で3分の2以上を持っているか、そうでなければ誰の賛成があれば調達を決議できるかを、資本政策表で確認しておきます。
このほか、議決権などの100分の3以上を持つ株主には、会計帳簿の閲覧・謄写を請求する権利がある(同433条)など、持株比率に応じた株主の権利があります。種類株式を発行すると、種類株主総会の決議が必要になる場面も出てきます。
ただし、実際の経営への関与は、株主間契約で定める事前承認事項や取締役の指名権によっても決まります。持株比率だけでなく、タームシートや契約の条項と合わせて考える必要があります。
資本政策表の作り方
資本政策表は、ラウンドごとの株主別の株式数と比率を一覧にした表です。表計算ソフトで次のように作ります。
- 列にラウンドを並べる:設立時、シード、シリーズA、上場時など。各ラウンドの時期、1株当たりの株価、発行株式数、調達額を書きます
- 行に株主を並べる:創業者、共同創業者、役員・従業員(ストックオプション)、エンジェル、各VCなど
- ラウンドごとの株式数と比率を計算する:発行済株式数ベースの比率と、新株予約権などの潜在株式を含めた比率(完全希薄化後の比率)の両方を出します
- 複数のシナリオを作る:調達額や株価が想定より低い場合、追加のラウンドが必要になった場合も試算します
経済産業省の「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」は、投資前の企業価値評価額(プレマネー・バリュエーション)の算出では新株予約権などの潜在株式を考慮することが一般的だとしています。ストックオプションやJ-KISS型新株予約権を発行している場合は、潜在株式を含めた比率を見ないと、次のラウンド後の創業者の実際の比率を見誤ります。
創業期に起きやすい失敗
創業メンバー間で均等に分ける
共同創業者どうしで株式を均等に分けると、意見が分かれたときに決められない、あるメンバーが早期に抜けても株式が残る、といった問題が起こりえます。役割と貢献の見込みにもとづいて比率を決め、途中で抜けた場合に会社や他の創業者が株式を買い取る条件を、創業時に株主間で取り決めておきます。共同創業者との取り決めについては共同創業者の探し方と最初に決めておくことで解説しています。
初期に外部へ多くの株式を渡しすぎる
ガイダンスは、経営者の持分比率を考慮せずに外部資本を多く受け入れた結果、経営の意思決定者の持分比率が低すぎて機動的な意思決定が難しくなった失敗例を挙げ、立ち上げ時から経営層の持分比率や議決権比率を考えることが重要だとしています。まだ株価が低いシード期に大きな比率を渡すと、その後の複数のラウンドで希薄化が重なり、上場やM&Aの時点で創業者の比率が大きく下がります。
株価の根拠を残さずに株式を渡す
ガイダンスは、根拠が曖昧な株価で従業員や関係者に株式を譲渡し、上場時の審査で譲渡価格の根拠を説明できず上場が遅れた失敗例も挙げています。株式を発行・譲渡するときは、その株価の算定根拠を記録に残しておきます。
株価を上げすぎる
同じガイダンスは、適正な価格より高い株価で調達すると次のラウンドの調達が難しくなる可能性があるとし、株価は高すぎても安すぎても会社のためにならないとしています。持株比率を守るために株価を上げることだけを目指すと、次のラウンドで前回を下回る株価(ダウンラウンド)になり、希釈化防止条項によって既存の優先株主の持分が調整されるなど、かえって創業者に不利になることがあります。
ストックオプションの枠を先に確保する
役員や従業員へのストックオプションは、将来の採用の手段になります。ガイダンスは、ストックオプションを付与しすぎると行使後の希薄化が懸念されるため、専門家に相談しつつ設計することを勧めています。
資本政策表には、将来付与する分も含めてストックオプションの枠(プール)をあらかじめ置いておきます。投資契約で、一定割合までのストックオプションの発行を事前承認や優先引受権の対象から外す定め方もあるため、調達の前に枠の大きさを決めておくと交渉しやすくなります。税制適格ストックオプションの要件は初期メンバーの報酬とストックオプションの基本を参照してください。
上場やM&Aを見据えた考え方
ガイダンスは、典型的な投資家になりうるVCは基本的に上場前から上場直後に株式を売却する投資戦略をとるため、一般に上場後の安定株主ではないとしています。上場時のVCの比率が高いと、大株主が大量に売却するのではないかという懸念(オーバーハング)から株価が下がった例や、上場時の売出しが少なく上場後の流動性が確保できなかった例が挙げられ、VCとの間で売出しの条件などを事前に取り決めておくことが重要とされています。
また、経営者の議決権を確保しながら出資を受け入れる方法として、米国では1株当たりの議決権が異なる種類株式を発行する例があり、日本でも単元株を使って同様の設計が可能であることが紹介されています。こうした設計には会社法上の手続きと上場時の審査の論点があるため、採用する場合は専門家と早い段階で検討します。
見直すタイミング
資本政策は一度作れば終わりではありません。次のようなときに資本政策表を更新します。
- 新しいラウンドの条件を検討するとき(タームシートを受け取ったとき)
- ストックオプションを付与するとき
- 共同創業者や役員が加わる、または退任するとき
- 事業計画や必要資金の見通しが大きく変わったとき
シード期の調達手段ごとの違いはシード期の資金調達手段の種類と違いで解説しています。
法令や税制は改定されます。株式の発行や契約の前に公式情報と専門家(弁護士・司法書士・税理士など)に確認してください。
参考資料
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