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初期メンバーの報酬とストックオプションの基本

スタートアップの初期メンバーの報酬は、「生活できる水準の現金報酬」と「会社が成長したときに報われる株式報酬」の組み合わせで考えるのが基本です。株式報酬の中心は、税制上の優遇がある税制適格ストックオプションで、権利行使時には課税されず、株式を売却したときに譲渡所得として課税されます。ただし、付与対象者、権利行使期間、行使価額、年間の行使額の上限など、要件を一つでも外すと優遇は受けられません。

この記事では、初期メンバーの報酬の考え方と、ストックオプションの仕組み、税制適格の要件、設計時の論点を整理します。共同創業者との株式の分け方は共同創業者の探し方と最初に決めておくことで扱っています。

初期メンバーの報酬をどう組み立てるか

創業直後から数年は、資金が限られるため、大企業や成長企業と同じ水準の給与を払えないことが多くあります。そこで、次の要素を組み合わせて報酬を考えます。

  • 現金報酬(給与・役員報酬):本人が生活を続けられ、事業に集中できる水準。無理に低くすると、生活の不安から離職につながります。
  • 株式報酬(ストックオプションなど):会社の価値が上がったときに大きな対価を得られる仕組み。初期に入るリスクへの報いとして使われます。
  • 金銭以外の要素:裁量の大きさ、役割、学べること、働き方の柔軟さ。

注意したいのは、ストックオプションは「将来の期待」であり、会社が成長しなければ価値がないことです。採用時に「現金は少ないがストックオプションがあるから」と説明する場合も、行使できる条件や、行使して利益を得られる可能性がどんな場合に生じるのかを、誇張せずに伝えてください。

ストックオプションの仕組み

ストックオプションとは、将来、あらかじめ決めた価格(権利行使価額)で会社の株式を取得できる権利、つまり新株予約権を役員や従業員に付与するものです。会社の価値が上がり株価が権利行使価額を上回れば、その差額が本人の利益になります。

経済産業省のインセンティブ報酬ガイダンスでは、スタートアップが主に使うものとして、次の3つを比較しています。

種類 取得時の支払い 権利行使時(株式取得時) 株式譲渡時
無償ストックオプション(税制非適格) なし 給与などとして課税(最高約55%) 譲渡課税(約20%)
無償ストックオプション(税制適格) なし 課税なし(繰り延べ) 譲渡課税(約20%)
有償ストックオプション あり 課税なし 譲渡課税(約20%)

税制非適格の場合、国税庁のタックスアンサーによれば、権利行使時の株価と権利行使価格の差額が、雇用契約またはこれに類する関係に基づいて与えられた場合は給与所得として課税されます。株式をまだ売っておらず現金が手元にない段階で税金が発生するため、本人の負担が大きくなります。

税制適格ストックオプションでは、権利行使時の経済的利益への課税が繰り延べられ、株式を売却したときに、売却価格と権利行使価額との差額が譲渡所得として課税されます(租税特別措置法第29条の2)。

税制適格ストックオプションの主な要件

経済産業省のガイダンスに掲載されている主な要件は次のとおりです(2026年9月時点で経済産業省のストックオプション税制のページに掲載されている内容をもとにしています)。

項目 要件
付与対象者 会社およびその子会社の取締役、執行役、使用人、または一定の要件を満たす社外高度人材(大口株主とその特別関係者を除く)
権利行使期間 付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日まで。設立5年未満の非上場会社は、付与決議日後2年を経過した日から15年を経過する日まで(令和5年度改正)
権利行使価額 契約締結時の株式の価額相当額以上
年間の権利行使価額の限度額 年間の合計額が1,200万円を超えないこと(下記の引上げあり)
譲渡制限 譲渡禁止
発行形態 無償であること
株式の交付 会社法第238条第1項に定める事項に反しないこと
株式の管理 行使により取得する株式について、証券会社等の振替口座簿への記載・記録、保管の委託または管理等信託がされること。譲渡制限株式は発行会社による管理でもよい(令和6年度改正)

年間の権利行使価額の限度額の引上げ(令和6年度改正)

令和6年度税制改正(2024年4月1日施行)で、年間の権利行使価額の限度額が会社の設立年数などに応じて引き上げられました。

  • 付与決議日において設立5年未満の株式会社:実質 年2,400万円まで
  • 設立5年以上20年未満で、非上場会社または上場後5年未満の上場会社:実質 年3,600万円まで

正確には、前者は権利行使価額を2で、後者は3で割った金額が1,200万円を超えるかどうかで判定します。経済産業省のページでは、1回の権利行使ごとの合計額を2または3で割って1円未満の端数が出る場合は切り上げる扱いであること(国税庁確認済み)も示されています。

権利行使価額の算定

「権利行使価額が契約締結時の株式の価額相当額以上」という要件に関して、国税庁の法令解釈通達の改正(2023年7月7日)で「1株当たりの価額」の算定方法が明確化されました。取引相場のない株式について、一定の条件のもとで財産評価基本通達の例による算定(純資産価額方式など)を選べるようになっています。ただし、ガイダンスは、行使価額を低く設定できる一方で会計上の影響も考慮して、会社のフェーズに応じて適切に設定するよう注意を促しています。

付与の手続

新株予約権の発行には会社法上の手続が必要です。ガイダンスでは、産業競争力強化法の特例(2024年9月2日施行)により、一定の要件を満たすスタートアップは、株主総会の特別決議で「行使価額」「行使期間」の決定を取締役会に委任でき、その委任決議が会社設立後最大15年間有効になる制度が紹介されています。これにより、付与のたびに株主総会を開かなくても機動的に発行できるようになりました。利用には所定の手続が必要です。

税制適格の要件を満たす契約書の作成、株価の算定、会計処理などは専門的な作業です。税理士、弁護士、公認会計士、司法書士に相談しながら進めてください。

設計で考えること

いつ、どれだけ付与するか

ガイダンスのモデルケースでは、創業直後で共同創業者だけの段階ではストックオプションを導入せず創業メンバーに株式を持たせ、シードの資金調達の目処が立った段階で、共同創業者以外の数名の社員を対象に税制適格ストックオプションを導入する、という流れが例示されています。付与の総量は、今後の資金調達で株式が希薄化することや、将来採用する人のための枠(オプションプール)を残すことを考えて決めます。

ガイダンスは、創業初期に安易に設計した制度が後のひな形として使われ続け、成長段階で制度を柔軟に使う妨げになるリスクにも触れています。最初の設計こそ、専門家と一緒に丁寧に作る価値があります。

退職したらどうなるか

割当契約書で「取締役・従業員の地位を失ったら権利が消滅する」と定めるのが従来一般的でしたが、退職後も行使できる設計も増えているとガイダンスは説明しています。税制適格との関係では、付与時に取締役または従業員である必要はあるものの、行使時にその地位にあることは要求されていないため、退職後の行使でも税制適格を維持することは可能とされています。

一方で、事業転換(ピボット)の可能性が高いPMF前に付与した分まで退職後に残ると、ピボット前に辞めた人が大量のストックオプションを持ち続ける不健全な状態になりうる、という指摘もあります。付与の時期と目的に応じて使い分けます。

クリフとベスティング

付与した人がすぐに株式に換えて辞めてしまうことを防ぐため、一定期間は行使できない期間(クリフ)を設けたり、何年かに分けて権利を確定させたり(ベスティング)する設計が一般的です。起算点(入社日、割当日、上場日など)、全体の期間、確定させる割合とタイミングを決めます。

採用時の伝え方

ストックオプションを提示するときは、付与数だけでなく、発行済株式数に対する割合、権利行使価額、行使できる期間と条件、退職時の扱い、税制適格かどうかをあわせて説明します。本人が理解しないまま入社すると、後で期待との差が不信感につながります。

制度は改定されます。付与・契約の前に公式情報と専門家(税理士・弁護士・司法書士など)に確認してください。

参考資料

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