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タームシートの主な条項:優先株式・事前承認・買取請求権の読み方

タームシートは、投資契約の前に主な条件を並べた合意メモで、契約書そのものではありません。ただし、ここで合意した条件がそのまま契約に反映されるため、起業家は「株価(バリュエーション)」だけでなく、優先分配、事前承認、株式買取請求権といった、後のラウンドやエグジットに効く条項を理解したうえで交渉することが大切です。

この記事では、経済産業省の「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」(令和4年3月改訂、以下「留意事項」)と、その増補版(2025年9月)をもとに、主な条項を解説します。調達全体の進め方はVCからの資金調達の流れを参照してください。

タームシートの位置づけ

留意事項は、投資契約等の内容は複雑で長くなりやすく、既存の投資家も含めた利害調整が行われることが多いため、契約書の作成前にタームシートで基本条件を明らかにして調整すると、契約の内容を円滑に整理できるとしています。同時に、タームシートは契約書ではなく、タームシートで調整した事項も投資契約等に適切に反映されなければ契約としての効力は生じないと注意しています。

留意事項の別紙には、優先株式を使い、複数の投資家が参加する場合を想定したタームシートの例が載っており、「投資契約」「株主間契約」「財産分配契約」の3つに分けて条項が並んでいます。以下もこの区分に沿って説明します。

投資契約に関する条項

発行条件

発行する株式の種類(普通株式か、A種優先株式などか)、発行株式数、1株当たりの発行価額、払込金額の総額、払込期日などです。発行価額は、投資前の企業価値評価額(プレマネー・バリュエーション)から決まります。留意事項は、プレマネー・バリュエーションの算出では新株予約権などの潜在株式を考慮するのが一般的だとしています。ストックオプションやJ-KISS型新株予約権を発行済みの場合、それを含めて1株当たりの価格が計算されるかどうかを確認します。

払込条件

投資家が払込の前提として求める条件です。例として、最低調達額(ラウンド全体で一定額が集まること)、重要な知的財産権の会社への移管、重要人物の取締役就任などが挙げられています。最低調達額を条件にする理由として、留意事項は、必要な規模の資金が集まらなければ、投資しても資金が新規事業に有効に使われないまま運転資金として消費されてしまうためと説明しています。

優先配当と残余財産の優先分配

優先株式に付ける経済的な権利の中心です。会社が清算されるとき、優先株主が普通株主より先に一定額(払込金額の何倍か)を受け取れるようにします。M&Aの際にも、後で述べるみなし清算条項により、この優先分配が売却代金の分け方の基準になります。

ここで重要なのが「参加型」と「非参加型」の違いです。

  • 参加型:優先分配を受け取ったあと、残りの分配にも普通株主と一緒に参加できる
  • 非参加型:優先分配か、普通株式に転換して持分に応じた分配を受けるかのどちらかになり、両方は受け取れない

留意事項(令和4年)は、日本では参加型の事例が多いとしたうえで、投資家にとってもデメリットがあると指摘しています。増補版は日米の違いを比較し、日本では多くのスタートアップが「1倍・参加型」とされる一方、米国ではほとんどが「1倍・非参加型」であると整理しました。そのうえで、参加型を当然の前提としてバリュエーションを評価しタームシートの交渉に入る実務は、参加型と非参加型ではバリュエーションも異なるはずであるため望ましくないとし、たとえば優先株式を初めて発行するアーリーステージでは1倍・非参加型とし、その後ダウンラウンドなどの状況に応じて参加型や上限(キャップ)付き参加型を使う対応も合理的だと述べています。

先に発行した優先株式が参加型だと、後の投資家も同じ条件を求めやすくなると増補版は指摘しています。最初の優先株式の条件は、その後のラウンドにも影響すると考えて交渉します。

取得請求権(普通株式への転換)と希釈化防止

投資家が優先株式を普通株式に転換するよう会社に請求できる権利です。転換の比率は通常1対1から始まり、後のラウンドで前回より低い株価で株式が発行された場合(ダウンラウンド)に、転換の比率を調整して投資家の持分の価値が薄まるのを防ぐ条項(希釈化防止条項)が付けられます。調整の計算式によって創業者への影響の大きさが変わるため、どの方式かを確認します。留意事項は、一定範囲の役職員に対するストックオプションに限り、希釈化防止条項の対象外とされることがあると説明しています。

取得条項

上場の際などに、会社が優先株式を強制的に普通株式に転換できるようにする条項です。上場時に種類株式を残さないために設けられます。

表明保証と契約違反時の取り決め

会社や創業者が、一定の時点で一定の事項(法令違反がない、財務情報が正確であるなど)が真実であると表明し保証するものです。違反した場合の扱いとして、株式買取請求権が定められることがあります(後述)。

投資家の優先引受権

後のラウンドで、既存の投資家が持株比率を維持するために新株を優先的に引き受けられる権利です。ストックオプションの発行を一定の割合まで対象外とする定め方の例が留意事項に示されています。

株主間契約に関する条項

事前承認・事前通知

会社が一定の行為(留意事項のタームシート例では、定款の変更、株式等の発行、合併や事業譲渡、資金使途の変更、役員の選任・解任など)をする前に、投資家の承認や通知を必要とする条項です。増補版は、事前承認事項が多岐にわたると発行会社の機動的な経営が妨げられるため、各項目の必要性を十分吟味すべきとし、個々の投資家ではなく「多数優先株主」のような主体を承認権者とすること、社外取締役を含む取締役会が整ってきた段階では持株比率の維持や会社の存続にかかわる特に重要な事項に絞ることなどを挙げています。内容が不明確ないわゆるバスケット条項にも注意を促しています。

情報開示

月次・年次の財務情報、予算、事業計画などを投資家に提供する義務です。対応できる頻度と範囲かを確認します。

取締役指名権・オブザーバー

投資家が取締役を指名する権利や、取締役会にオブザーバーを出席させる権利です。取締役会の構成と、創業者側が過半数を保てるかに関係します。

創業株主の専念義務

創業者が会社の経営に専念する義務です。留意事項のタームシート例では、投資家の承認なく取締役を辞任・再選拒否しないこと、投資家の事前承認のない兼職の禁止、在任中と退任後一定期間の競業避止義務が挙げられています。退任後の競業避止の期間は、創業者のその後の活動に直接影響するため確認が必要です。

エグジット協力義務

一定の期限までに上場などのエグジットに協力する義務です。増補版は、VCのファンド期限を踏まえて互いに協力し合うことを定める趣旨だとしつつ、上場のみに言及した「上場努力義務」は、M&Aやセカンダリー(株式の譲渡)といった合理的な選択肢を狭め、海外投資家にエグジット手段が上場に限られるかのように誤解されるおそれがあると指摘しています。

先買権・共同売却権

創業者が株式を売る場合に、投資家が先に買える権利(先買権)や、同じ条件で一緒に売れる権利(共同売却権)です。

財産分配契約に関する条項

みなし清算条項

M&Aで会社の支配権が移る場合に、会社を清算したものとみなして、優先分配の定めに従って売却代金を分ける条項です。留意事項は、優先分配を有効に機能させるには、エンジェル投資家や従業員株主も含めた株主全員が原則として契約に参加する必要があるとしています。

同時売却請求権(ドラッグ・アロング)

一定割合の株主が賛成した場合に、他の株主にも買収に応じるよう請求できる権利です。発動の条件(どの株主のどれだけの賛成が必要か)が交渉の対象になります。

株式買取請求権は特に注意する

表明保証違反や契約違反があった場合に、投資家が会社や創業者に株式の買い取りを請求できる権利です。公正取引委員会と経済産業省の「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」を受けて、留意事項は令和4年の改訂で、行使条件は重大な表明保証違反や重大な契約違反に明確に限定すべきこと、契約違反時の買取請求の対象は発行会社のみに限定し、経営株主など個人を除いていくことが望ましいことを示しました。

増補版はさらに、株式買取請求権は発行会社に多額の負担を強い、他の投資家への影響も大きいとし、経営株主を対象とする場合でも発行会社と連帯責任を負わせるべきではなく、トリガーは限定的に設定すべきだとしています。創業者個人が買取義務を負う条項があれば、その範囲と条件を必ず確認します。

交渉の進め方

  • 株価だけでなく、優先分配の倍率と参加型・非参加型、事前承認事項、買取請求権の範囲を一緒に比べる
  • 今回の条件が次のラウンドの投資家にどう見えるかを考える(後から緩めるのは難しい)
  • 留意事項のタームシート例と増補版の条項例を参照し、提示された条件がどの程度標準から外れているかを確かめる
  • スタートアップの資金調達に詳しい弁護士に契約全体を確認してもらう

資本政策上の持株比率への影響は資本政策の基本で解説しています。

ガイドラインや法令は改定されます。契約の前に公式情報と専門家(弁護士など)に確認してください。

参考資料

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