予算確保・資金調達 起業家向け

VCからの資金調達の流れ:準備から払込・登記まで

VCからの資金調達は、「いくら、何のために、いつまでに必要か」を決める準備から始まり、面談、デューデリジェンス、タームシートの合意、契約の締結、株主総会などの会社法の手続き、払込と登記を経て完了します。資金が尽きる時期から逆算して、全体にかかる期間と、契約内容を検討する時間を確保しておくことが大切です。

シード期の資金調達手段の違いはシード期の資金調達手段の種類と違いで解説しています。この記事では、VCから株式で調達すると決めたあとの進め方を扱います。

先に知っておきたいVCの事情

VCはファンドの資金で投資しており、ファンドには存続期間があります。経済産業省の「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」(2022年4月)は、VCファンド等からの出資の場合は、ファンド期間の終了までにエグジット(株式の売却などによる回収)が必要になると説明しています。また、典型的な投資家であるVCは基本的に上場前から上場直後に株式を売却する投資戦略をとるため、一般に上場後の安定株主ではないとも述べています。

金融庁と経済産業省が共催した有識者会議がまとめた「ベンチャーキャピタルにおいて推奨・期待される事項」(2024年10月)では、VCに対して、投資契約が後の資金調達や事業展開の過度な制約にならないよう投資先と十分に意思疎通を図ること、投資後もフォローオン投資や他の投資家の紹介に協力すること、エグジットは上場だけでなくM&Aも含めて検討することなどが期待されています。

VCと話すときは、相手のファンドがいつ組成され、どのステージに投資しているか、追加投資(フォローオン)の方針があるかを確認しておくと、投資後の関係を見通しやすくなります。

調達の全体の流れ

1. 準備:調達額と資金の使い道を決める

最初に、次のことを決めます。

  • 調達額:次の資金調達や黒字化までに必要な資金。事業計画の中で、何を達成するための資金かを説明できるようにします
  • 資金の使い道:採用、開発、広告などへの配分
  • 資本政策:今回の調達で誰にどれだけの株式を渡し、創業者の持株比率がどうなるか。将来のストックオプションや次のラウンドも含めて試算します

ガイダンスは、投資家に向けて会社の特徴、成長戦略、企業価値の増え方を示す「エクイティストーリー」を作り、投資家との対話を通じて磨き続けることを勧めています。その要素として、潜在的な市場規模、自社の技術やサービスの優位性、事業計画の蓋然性が挙げられています。資料の組み立て方は投資家に読まれる事業計画書・ピッチ資料の組み立て方で解説しています。

2. VC探しと面談

投資領域とステージが自社に合うVCを探し、面談を重ねます。紹介を受ける、イベントやピッチの場に出る、既存の投資家や起業家の知人に相談するなどの方法があります。面談では事業の説明に加えて、VCの投資方針、意思決定の手順と期間、投資後の関わり方を確認します。

1社のVCがラウンドを主導する投資家(リードインベスター)となり、条件の交渉を担い、他の投資家が同じ条件で参加する形がよく見られます。複数のVCと並行して話を進める場合は、各社の検討の進み具合を把握しておきます。

3. デューデリジェンス(DD)

投資を検討するVCは、事業、財務、法務などの面から会社を調べます。求められやすい資料には、定款、株主名簿、登記事項証明書、過去の株主総会・取締役会の議事録、決算書や試算表、主要な契約書、知的財産の資料、従業員との雇用契約などがあります。

過去の株式の発行や譲渡の手続きに不備があると、DDで問題になり、契約の前に是正を求められることがあります。設立時から議事録や契約書を整理しておくと、この段階を早く進められます。

4. タームシートの合意

投資の主な条件をまとめたタームシートを作り、条件を詰めます。経済産業省の「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」は、タームシートは契約書ではなく、タームシートで調整した事項も投資契約に適切に反映されなければ契約としての効力は生じないと注意しています。主な条項の意味はタームシートの主な条項で解説しています。

5. 投資契約等の作成と締結

タームシートにもとづいて契約書を作ります。同じ留意事項は、ベンチャー投資の契約を次の3つに整理しています。

契約 当事者 主な内容
投資契約 発行会社、創業株主、投資家 発行する株式の内容、払込の条件、資金使途、表明保証など
株主間契約 発行会社、創業株主、主要な投資家 投資後の経営に関する事項、情報開示、投資家のエグジットに関する事項
財産分配契約 株主全員 M&Aの際のみなし清算、同時売却請求権(ドラッグ・アロング)

投資家が1社だけのときは1つの契約にまとめることもありますが、留意事項は、投資後に関する事項を投資家ごとの投資契約に書いていくと、投資家ごとに義務が異なり、ある投資家との契約を守ると別の投資家との契約に違反する状態になりうると指摘しています。新しい投資家の参加が見込まれる場合は、当初から株主間契約に分けておくことも一つの方法だとしています。

ガイダンスは、投資契約の知識がないまま不利な契約を結んだ失敗例を挙げ、事前に必要な知識を得るか、信頼できる専門家に依頼して、発行会社にとって不必要に不利な条項が少ない形で締結することが重要だとしています。契約書の確認は、スタートアップの資金調達に詳しい弁護士に依頼するのが一般的です。

6. 会社法上の手続き

すべての株式に譲渡制限がある会社(非公開会社)が第三者に新しく株式を発行する場合、会社法では、募集株式の数や払込金額などの募集事項を株主総会の決議で定めます(会社法199条2項)。この決議は特別決議で、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(同309条2項5号)。優先株式を初めて発行する場合は、種類株式の内容を定める定款の変更も必要になり、これも特別決議です。すでに種類株式を発行している会社では、種類株主総会の決議が必要になる場合もあります(同199条4項)。

投資家が募集株式の総数を引き受ける契約(総数引受契約)を結ぶ場合、募集株式が譲渡制限株式であれば、定款に別段の定めがない限り、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)でその契約を承認します(同205条)。どの機関で何を決議するかは会社の機関設計と定款によって変わるため、司法書士や弁護士と日程表を作って進めます。

7. 払込と登記

払込期日に投資家が出資金を払い込み、株式が発行されます。株式の発行によって登記事項が変わった場合は、原則として2週間以内に本店所在地で変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。

8. 調達後:報告と関係づくり

株主間契約などで定めた情報開示(月次の試算表、予算、取締役会への参加など)を始めます。事前承認が必要な事項が契約に定められている場合は、その範囲を社内で共有し、承認を取り忘れないように管理します。

つまずきやすい点

  • 資金が尽きる直前に始める:交渉の余地がなくなり、不利な条件を受け入れざるを得なくなります。手元資金に余裕があるうちに準備を始めます。
  • 株価(バリュエーション)を上げすぎる:ガイダンスは、適正な価格より高い株価で調達すると次のラウンドの調達が難しくなる可能性があると指摘し、高すぎても安すぎても会社のためにならないとしています。
  • 契約内容を十分に確認しない:一度結んだ契約は、次のラウンドの投資家との関係にも影響します。株式買取請求権や事前承認事項など、後から変えにくい条項は特に注意します。
  • 既存の株主への説明が遅れる:株主総会の特別決議が必要になるため、既存の株主やエンジェル投資家には早めに調達の方針を伝えておきます。

法令やガイドラインは改定されます。申請・契約の前に公式情報と専門家(弁護士・司法書士・税理士など)に確認してください。

参考資料

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