予算確保・資金調達 大企業向け

CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の基本:形態の選び方と運営の論点

CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を始めるときは、「なぜ出資が必要なのか」を先に決め、その目的に合う形態(本体投資、CVCファンド、VCへのLP出資)を選ぶことが出発点です。組織を作ること自体を目的にすると、投資判断の基準も成果の測り方も決まらず、数年後に社内で成果を説明できなくなります。

CVCとは何か

CVCは、事業会社がスタートアップに出資するための組織や仕組みを指します。独立系のベンチャーキャピタル(VC)が主に財務的なリターンを目的とするのに対し、CVCは協業や新規事業の創出といった自社の事業上の効果(戦略リターン)も目的にする点が特徴です。

経済産業省の「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(第三版)」(2019年4月)は、CVCを事業会社がスタートアップと連携する手法の一つと位置づけ、CVC活動は始めることがゴールではなく、目的を考えたときにCVCによる投資が必要かを確認すべきだとしています。協業だけが目的であれば、出資をせずに業務提携や共同開発で足りる場合もあります。出資を伴わない協業の進め方はスタートアップとの協業・事業提携の進め方で解説しています。

投資の形態と使い分け

同じ手引きは、事業会社によるベンチャー投資を次の3つに分類し、目的に応じて使い分けることが必要としています。

形態 概要 主な利点 主な注意点
本体投資 事業会社が自己勘定で直接出資する ファンドのような期限がなく、自社のペースで投資・売却ができる。ファンド組成のコストを抑えられる 投資の人材やノウハウが社内に必要。意思決定が遅くなりやすい。既存事業に近い領域に偏りやすい
CVCファンド 自社の子会社がGP(運営者)を務めるファンドにLPとして出資する 自社の価値観を投資判断に反映させやすい 投資の人材やノウハウが社内に必要。既存事業に近い領域に偏りやすい
VCへのLP出資 外部のVCが運営するファンドにLPとして出資する 出資額が比較的少なく済む。ファンドの投資領域が自社の戦略と合えば情報収集の手段になる 委託のコストがかかる。関心のない領域にも投資される場合がある。投資判断やM&Aの主導権は持てない

手引きでは、使い分けの軸として「自社事業領域との関係」「投資金額」「事業立ち上げまでの時間」が挙げられています。投資金額が大きい場合はガバナンス上の理由から直接投資になるのが一般的であること、事業領域が自社に近く既存事業との連携が求められる場合は事業部を含む関係者の同意を得るために直接投資が有効であること、事業創出までの期間が短い場合は本体投資、長い場合はCVCファンドやLP出資とする例があることが、先行企業の事例とともに紹介されています。

外部のVCと組むか、自社単独で運営するか

CVCファンドを作る場合、VCと共同でファンドを運営する「二人組合」という方法もあります。手引きは、二人組合と自社単独の運営を次のように比べています。

  • VCとの二人組合:提携先VCのノウハウを使って早く立ち上げられ、投資実務の負担も軽くなります。投資判断に提携VCの承認が必要なため、財務的な規律が働きます。一方で、提携VCのファンドとの利益相反(どちらのファンドが投資するか、M&Aの際に高く売りたいVCと安く買いたい事業会社の対立)が起こりうること、自社にノウハウがたまりにくいこと、他のVCから案件を紹介されにくくなるおそれがあることが挙げられています。
  • 自社単独:他のVCから見て競合ではなくパートナーになりやすく、時間とともに自社にノウハウとネットワークがたまります。一方で、社内に投資経験者がいないと立ち上げに時間がかかること、「戦略リターン」の名目で投資判断の規律が緩み、高値で投資してしまうおそれがあることが挙げられています。

運営で問われる7つの課題

同じ手引きは、CVC活動を行う企業に見られる課題を、次の7つに整理しています。

  1. 経営との握り:CVCの目的、期間、評価の仕方を経営陣と合意しておく
  2. 目的に応じた投資方針の設定:戦略リターンと財務リターンのどちらを重視するか、投資領域とステージを決める
  3. 迅速な意思決定構造の設計:スタートアップの資金調達の日程に合わせて判断できる決裁の仕組みにする
  4. 事業部門の巻き込み:戦略リターンを実現するには、出資後に協業を担う事業部門の協力が欠かせない
  5. 人材・スキルの強化:投資の目利き、価値評価、契約交渉などのスキルを持つ人材を確保・育成する。VCの活用もその手段になる
  6. ソーシングの強化:よい投資案件に出会うための情報網を作る
  7. 協業の推進:出資後に、スタートアップとの協業を実際の成果につなげる

大企業の新規事業担当者から見ると、特に1、3、4が社内調整の中心になります。出資の決裁が既存の投資審査の仕組みに乗ると、判断に時間がかかり、スタートアップの調達の締め切りに間に合わないことがあります。決裁の権限と上限額をCVCの組織に委ねる範囲を、立ち上げ時に経営陣と決めておきます。

戦略リターンの測り方を先に決める

CVCの成果は、財務リターンだけでは測れません。一方で、戦略リターンは投資後しばらくは評価が難しく、「いつか協業につながる」という説明が続くと、社内での位置づけが弱くなります。

投資の前に、次のような点を投資先ごとに書面にしておくと、後で振り返りやすくなります。

  • この出資で自社が得たいもの(技術の検証、新しい顧客層への接点、将来のM&Aの選択肢など)
  • 協業を担当する事業部門と、その責任者
  • 協業の進み具合を確認する時期と、確認する内容
  • 最低限の財務的な規律(例:元本割れを前提にしない、他のVCが主導する案件に参加するなど)

手引きでも、自社単独のCVCの留意点への対応として、最低限の財務リターンを約束すること、リードインベスターをVCに任せることが挙げられています。

使える税制:オープンイノベーション促進税制

国内の事業会社またはその国内CVCが、スタートアップの新規発行株式を一定額以上取得する場合、その株式の取得価額の25%を所得控除できる「オープンイノベーション促進税制(新規出資型)」があります。経済産業省の公式ページによると、令和8年度税制改正で適用期限が令和9年度末まで延長されました(2026年9月時点の公式ページの記載)。

経済産業省の「新規出資型の概要」資料では、主な要件が次のように示されています。

  • 出資先:設立10年未満の国内外の非上場企業(売上高研究開発費比率10%以上かつ赤字の企業は設立15年未満も対象。令和4年4月1日以降の出資が対象)
  • 1件当たりの出資金額の下限:大企業は2億円(令和8年3月31日までの出資は1億円)、中小企業は1千万円、海外企業への出資は一律5億円
  • 資本金の増加を伴う現金出資であること(発行済株式の取得は対象外)。純投資は対象外
  • 取得した株式を3年以上保有する予定であること
  • 所得控除の上限:1件当たり12.5億円以下、1社・1年度当たり125億円以下(M&A型と合算)

このほか、スタートアップの発行済株式を取得して議決権の過半数を得るM&A型(取得価額の25%を所得控除)や、令和8年度改正で加わった、3年以内に過半数の取得を見込む50%以下の株式取得(取得価額の20%を所得控除)もあります。申請は「gBiz FORM」で行い、出資者とスタートアップの双方が「gBizIDプライム」のアカウントを取得する必要があります。要件の詳細は、出資日に応じた申請ガイドラインで確認してください。

出資する側が守るべきこと

公正取引委員会と経済産業省の「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(令和4年3月策定、令和8年2月19日改正)は、出資者とスタートアップの間で問題になりうる行為として、次のようなものを挙げています。

  • 適切な秘密保持契約を結ばずに営業秘密の開示を求めること
  • 秘密保持契約に違反して営業秘密を使い、競合する事業を行うこと
  • 報酬なしに作業を求めること、出資者が第三者に委託した業務の費用を負担させること
  • 不要な商品・役務の購入を求めること
  • 株式の買取請求権を背景に不利益な要請をすること、著しく高額な価額での買取請求が可能な条項を設けること、行使条件を満たさないのに行使すること、経営者個人への買取請求を可能にすること
  • 研究開発活動や取引先を不当に制限すること、最恵待遇条件を求めること

事業会社は取引先としての立場と株主としての立場を併せ持つため、意図せずに優越的な立場を使ってしまうことがあります。出資の担当者と、協業や取引を担当する事業部門の間で、この指針をもとにしたルールを共有しておくことが大切です。

立ち上げ前に確認すること

  • 出資でなければ得られないものは何か(業務提携で足りないか)
  • 本体投資、CVCファンド、LP出資のどれが目的に合うか
  • 1件当たりの投資額の目安と、年間・累計の投資枠
  • 決裁の権限を誰に委ねるか、判断にかける日数の目安
  • 出資後の協業を担う事業部門と、その評価の仕方
  • 投資の人材を社内で育てるか、外部から採るか、VCと組むか
  • 中期経営計画の中でCVCをどう位置づけるか(中期経営計画の中での新規事業の位置づけ方を参照)

税制や指針は改定されます。出資や契約の前に公式情報と専門家(弁護士・税理士など)に確認してください。

参考資料

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