社内で新規事業のアイデアを集める方法
社内で新規事業のアイデアを集めるときは、「何でも自由に出してください」と呼びかけるより、会社として探したい領域と提出の型を示し、顧客や現場の課題から集める経路を用意するほうが、検証に進める案が集まります。集めた案には必ず結果を返し、次の段階に進む道筋を見せることが、継続して案が出てくる条件です。
社内公募・社内起業制度の審査や予算、事業化後の受け皿、提案者の処遇といった制度全体の設計は社内公募・社内起業制度の作り方で扱っています。この記事では、その入口にあたる「アイデアをどう集め、どうふるい分けるか」に絞って説明します。
「自由募集」だけではうまくいかない理由
テーマを限らない自由募集は、多様な案が集まる一方で、次のような問題が起きがちです。
- 思いつきの解決策ばかりが集まる:「〇〇のアプリ」「△△のマッチングサービス」のように、誰の何の課題かが書かれていない案が多くなる
- 会社がやる理由が説明できない:自社の資産や方針と関係のない案は、審査の段階で止まりやすい
- 審査の基準がぶれる:比べる軸がないため、審査員の好みで結果が決まりやすい
- 応募が一部の人に偏る:もともと事業開発に関心がある人しか応募しない
これらを避けるには、募集の目的に合わせて、集め方を組み合わせることが有効です。
アイデアの集め方の種類
テーマ提示型の募集
会社として取り組みたい領域(「高齢化に伴う〇〇の課題」「自社の△△技術の新しい用途」など)を示し、その範囲で案を募ります。範囲を示すことで、会社がやる理由のある案が集まりやすくなります。領域の選び方は既存事業の資産から新規事業のテーマを選ぶときの判断軸を参照してください。
課題の収集
解決策ではなく、「顧客や現場で見聞きした困りごと」だけを集める方法です。営業、カスタマーサポート、保守、店舗など、顧客と接する部門の社員は、事業のアイデアを出すのは苦手でも、顧客の困りごとは多く知っています。課題だけを出してもらい、解決策は新規事業の担当者や別の社員が考えることで、参加の敷居が下がります。
常設の窓口
期間を決めた募集とは別に、いつでも投稿できる窓口を置く方法です。思いついた時点で書き留められる一方、放置されると誰も投稿しなくなるため、定期的に目を通して返信する担当者が必要です。
ワークショップ・アイデアソン
部門を越えたメンバーが集まり、短い時間で課題の整理から案の作成までを行う場です。普段関わらない部門の知識が組み合わさる利点があります。ただし、短時間で作った案は検証が浅いため、「その場で優劣を決める」より「検証に進める候補を選ぶ」場として位置づけます。
技術・資産の用途探索
研究開発部門の技術や、社内のデータ、設備などを一覧にし、「これを使えば誰のどんな課題が解けるか」を募る方法です。技術起点の案は顧客の課題が後回しになりやすいため、提出フォーマットで顧客と課題を必ず書いてもらいます。
募集文と提出フォーマット
募集文に書くこと
- 募集の目的:事業の創出か、人材の育成か、課題の収集か
- 対象の領域:テーマを限る場合はその範囲と、限る理由
- 提出後の流れ:誰が、いつまでに、どんな基準で見て、結果をどう返すか
- 次の段階:選ばれた場合に何が用意されるか(検証の時間、少額の予算、相談相手など)
- 権利と情報の扱い:提出した案の扱い(後述)
提出後の流れを書かない募集は、応募者から「出しても何も起きない」と受け取られます。
提出フォーマットの例
最初の提出は、1枚で書ける程度に軽くします。書くのに何日もかかる様式は、応募を減らします。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 顧客 | 誰が困っているか(できるだけ具体的に) |
| 課題 | 何に困っているか。どこで見聞きしたか |
| 今の対処 | その人は今どうしているか |
| アイデア | どう解決するか(簡単でよい) |
| 自社がやる理由 | 使える自社の資産、関係する方針 |
| 確かめたいこと | 最初に何を確かめれば、案の筋がよいと分かるか |
「課題をどこで見聞きしたか」を書いてもらうと、実際の顧客の声に基づく案と、机上の思いつきを区別しやすくなります。課題の書き方は課題仮説の立て方と検証の順番で詳しく説明しています。
選別のしかた
最初の選別は軽く、速く
集まった案を最初から事業計画の水準で審査すると、ほとんどが落ちます。最初の選別では、次の点だけを見ます。
- 顧客と課題が具体的に書かれているか
- 課題の根拠が、実際の見聞きに基づいているか
- 募集の領域や自社の方針と関係があるか
この段階で詳しい市場規模や収益計画を求める必要はありません。見込みのある案は、次の段階で検証の時間と予算をつけ、応募者自身に確かめてもらいます。
似た案をまとめる
同じ課題に対する案が複数の部署から出てくることがあります。これは課題が実在する兆しでもあります。似た案は一つにまとめ、提出者同士をつなぐと、チームが生まれるきっかけになります。
選ばれなかった案を記録する
選ばれなかった案も、課題の記録として残します。時期が変われば有望になる案や、他の案と組み合わせると筋がよくなる案もあります。
フィードバックを返す
すべての提出者に、結果と理由を返します。「見送り」の場合も、どこが足りなかったか(顧客が広すぎる、課題の根拠がない、など)を短く伝えると、次の提出の質が上がります。結果を返さない運用が続くと、次回以降の応募は減っていきます。
提出された案の件数、通過した件数、その後どうなったかを社内に公開すると、制度が動いていることが伝わります。
権利と情報管理の注意点
職務発明との関係
アイデアの中に技術的な発明が含まれる場合、特許法の職務発明制度との関係を確認します。特許庁の説明では、職務発明について、契約や勤務規則などであらかじめ使用者に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その権利は発生した時から使用者に帰属するとされています。また、平成27年の改正で、従業者が受ける対価は「相当の金銭その他の経済上の利益」に改められ、金銭以外の経済上の利益も含まれることになったと説明されています。募集要項で、提出された案に含まれる発明の扱いが既存の職務発明規程に従うことを示し、知財部門と事前に調整しておきます。
社外への発表に注意する
選ばれた案を社外のイベントやプレスリリースで発表する場合、特許出願前の公表になると出願に影響することがあります。技術的な内容を含む案は、発表の前に知財部門に確認します。
社外の人から案を募る場合
取引先や顧客、一般の人から案を募る場合は、社内の募集とは別の取り決めが必要です。応募規約で、提出された案の権利の扱い、秘密保持の有無、自社がすでに検討していた内容と重なった場合の扱いなどを定めておきます。規約の内容は法務部門や弁護士に確認してください。
顧客情報の扱い
課題の収集で、特定の顧客の名前や個人情報、取引内容が書き込まれることがあります。提出フォーマットに「顧客名や個人を特定できる情報は書かない」と明記し、閲覧できる範囲を限ります。
運用で気をつけること
- 上司が応募を妨げない仕組みにする:業務時間中に検討してよいこと、上司の承認が不要であることを明示します。
- 経営陣が関心を示す:経営陣が選ばれた案の発表の場に参加し、自分の言葉でコメントすると、社内の受け止め方が変わります。
- 集めることを目的にしない:件数の目標を置くと、質の低い案が増え、選別と返信の負担だけが増えます。
まとめ
社内で新規事業のアイデアを集めるときは、テーマ提示型の募集、現場からの課題の収集、常設の窓口、ワークショップ、技術の用途探索を目的に合わせて組み合わせます。募集文には提出後の流れを書き、提出フォーマットで顧客と課題を具体的に書いてもらい、最初の選別は軽く速く行い、すべての提出者に結果と理由を返します。職務発明や社外発表、社外からの応募、顧客情報の扱いは、知財部門や法務部門と事前に調整してください。
制度は改定されます。募集要項や応募規約を定める前に、公式情報と専門家(弁理士・弁護士など)に確認してください。
参考資料
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