事業計画 大企業向け

新規事業のリスクの洗い出し方:分類・評価・対応策とリスク一覧の作り方

新規事業のリスクは、分類の枠組みに沿って洗い出し、影響の大きさと起こりやすさで優先順位をつけ、上位のものから「検証で確かめるもの」と「備えで抑えるもの」に分けて対応策を決めると、管理できる形になります。大企業の新規事業では、既存事業のリスク管理の基準をそのまま当てはめると、何も始められなくなるため、「どこまでのリスクなら取るか」を事前に決めておくことが重要です。

稟議資料でリスクをどう示すかは新規事業の稟議で経営陣が見る点と資料の構成で扱っています。この記事では、その前段となる洗い出しと評価の方法を説明します。

新規事業のリスクの特徴

既存事業のリスク管理は、事業が計画どおり動くことを前提に、事故や不正などの損失を防ぐことが中心です。一方、新規事業では「そもそも顧客がいるのか」「その価格で売れるのか」といった、事業の前提そのものが外れるリスクが最も大きくなります。

このため、新規事業のリスクは次の2種類に分けて考えると整理しやすくなります。

  • 前提が外れるリスク:顧客の課題、支払意思、市場の大きさ、技術の実現性など、まだ確かめていない仮説が外れること。対応は、早く安く確かめること
  • 事業を進める中で起きるリスク:法令違反、情報漏えい、事故、パートナーの離脱、既存事業との衝突など。対応は、予防策と発生時の備え

前者を後者と同じように「対策で抑える」と考えると、確かめるべき仮説を確かめないまま計画が進んでしまいます。

洗い出しの枠組み

漏れを防ぐため、分類ごとに問いを立てて洗い出します。

分類 問いの例
顧客・市場 想定した顧客は本当に困っているか。市場は十分な大きさか。競合や代替手段に勝てるか
製品・技術 求める性能・品質を実現できるか。開発が遅れる要因は何か
収益性 想定した価格で売れるか。顧客獲得の費用は回収できるか
実行体制 必要な人材を確保できるか。担当者が抜けたら止まる業務はないか
パートナー 特定の取引先や技術提供元に依存していないか。相手の方針変更で事業が止まらないか
法令・規制 許認可が必要か。規制の解釈がはっきりしない部分はないか
知的財産 他社の権利を侵害していないか。自社の技術やノウハウを守れるか
情報・セキュリティ 個人情報や顧客の機密情報を扱うか。漏えいした場合の影響は
評判 事業の内容や失敗が、会社全体のブランドに影響しないか
既存事業との関係 既存の顧客や販売網、取引先と利害がぶつからないか
財務 追加の投資が必要になる条件は何か。撤退時にどんな費用が残るか

法令・規制については新規事業で確認すべき規制と、グレーゾーン解消制度・規制のサンドボックス制度で、確認の手順と公的な制度を紹介しています。

洗い出しの方法

計画の前提を書き出す

事業計画の数字や記述の裏にある前提を、一つずつ書き出します。「月に◯件の問い合わせがある」「この機能があれば乗り換える」などです。前提の一つひとつが、外れたときのリスクになります。

「失敗した」と仮定して理由を挙げる

「1年後、この事業が失敗に終わった」と仮定し、チームの各自がその理由を思いつく限り書き出す方法があります。「うまくいくか」を議論するより、失敗の理由を挙げるほうが心理的な抵抗が小さく、言いにくい懸念が出てきやすくなります。

社内の専門部署に早めに聞く

法務、知的財産、情報セキュリティ、経理、人事などの部署は、それぞれの観点で、事業担当者が気づきにくいリスクを知っています。審査の直前ではなく、計画の早い段階で相談すると、対応策を計画に組み込めます。

外部の意見を聞く

想定顧客や、業界に詳しい社外の人に、懸念点を聞きます。社内の視点だけでは、市場や顧客の側のリスクを見落としがちです。

評価の仕方

洗い出したリスクは、すべてに同じだけ手をかけることはできません。次の2つの軸で評価し、優先順位をつけます。

  • 影響の大きさ:起きたとき、事業や会社にどれだけの損害が出るか
  • 起こりやすさ:どのくらいの確率で起きそうか

それぞれを「大・中・小」などの段階で評価し、両方が大きいものから対応します。評価の段階の定義(例えば「影響が大」とは何を指すか)は、あらかじめチームで決めておきます。

新規事業では、これに加えて「まだ確かめていない度合い」も見ておくと役立ちます。影響が大きく、根拠がまだ乏しい前提は、最優先で検証すべき対象です。

対応策の選び方

リスクへの対応は、一般に次の4つに分けられます。

  • 回避:リスクのある事業内容や方法そのものをやめる、変える
  • 低減:起こりやすさや影響を小さくする(検証する、予防策をとる、段階的に進める)
  • 移転:保険や契約で、損失の一部を他者に負担してもらう
  • 受容:影響が小さい、または対応の費用が見合わない場合に、そのまま受け入れる

前提が外れるリスクに対しては、「低減」のうち、小さく早く確かめることが基本です。例えば「顧客が払うか分からない」リスクには、本格的な開発の前に試験販売で確かめる、といった対応です。

リスク一覧(リスク登録簿)の作り方

洗い出しと評価の結果は、一覧表にまとめて管理します。項目の例は次のとおりです。

  • 番号と分類
  • リスクの内容(何が起きると、何が困るか)
  • 影響の大きさ、起こりやすさの評価
  • 対応策と、その期限
  • 担当者
  • 兆候(リスクが現実になりつつあることを示すサイン)
  • 現在の状況(未対応、対応中、確認済み、発生など)

「兆候」の欄は見落とされがちですが、重要です。例えば「試験販売の成約率が◯%を下回る」「主要パートナーの担当者が交代した」など、早めに気づくための目印を決めておきます。

段階ごとに見直す

新規事業のリスクは、段階が進むと中身が変わります。アイデア検証の段階では顧客・市場のリスクが中心ですが、MVPやPoCの段階では製品・技術や情報管理、事業化の段階では実行体制や既存事業との関係のリスクが大きくなります。

ステージゲートを設けている場合は、各ゲートでリスク一覧を見直し、「前の段階で確かめたこと」「新たに出てきたリスク」「次の段階で確かめること」を整理して判断材料にします。ゲートの設計については新規事業のステージゲートの設計を参照してください。

大企業ならではの注意点

ゼロリスクを求めない

既存事業の基準で「リスクがゼロになるまで始めない」とすると、新規事業は進みません。経営陣や関係部署と、「この段階では、この範囲のリスクは取る」「この条件になったら止める」という合意を事前に作っておくことが重要です。

会社全体への波及を分けて考える

新規事業単体の損失は小さくても、情報漏えいや法令違反、評判の悪化は会社全体に影響します。事業単体のリスクと、会社全体に波及しうるリスクを分けて評価し、後者は小さな段階でも必ず対策をとります。

既存事業との利害を早めに調整する

既存事業の顧客や販売網を使う場合、既存事業部門の協力が得られない、あるいは反発を受けるリスクがあります。影響を受ける部門を早めに特定し、話し合いの場を設けます。

まとめ

新規事業のリスクは、「前提が外れるリスク」と「事業を進める中で起きるリスク」に分けて、分類の枠組みに沿って洗い出します。影響と起こりやすさで優先順位をつけ、前提のリスクは小さく早く確かめ、運営上のリスクは予防と備えで抑えます。リスク一覧に兆候と担当者を記録し、段階ごとに見直していきましょう。

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