事業計画

新規事業の収支計画(損益計画)の作り方:売上の分解から資金の確認まで

新規事業の収支計画は、売上を「顧客数×単価」などの要素に分解し、費用を固定費と変動費に分けて月次で積み上げると、前提の検証と見直しがしやすくなります。完成した損益の数字だけでなく、どの前提が変わると結果がどう動くか、損益と手元資金のずれがどこで生じるかを確認するまでが収支計画の作業です。

事業計画書の中で収支計画をどう位置づけるかは新規事業の事業計画書に書くことで説明しています。この記事では、表計算ソフトで収支計画を組み立てる具体的な手順に絞ります。

損益計画の基本の形

損益計画は、次の順に上から引き算していく形で作るのが一般的です。

項目 内容
売上高 顧客から受け取る対価
売上原価 売上に直接ひもづく費用(仕入れ、製造費、サービス提供の直接費など)
売上総利益(粗利) 売上高 − 売上原価
販売費及び一般管理費 人件費、広告宣伝費、家賃、システム利用料など
営業利益 売上総利益 − 販売費及び一般管理費

新規事業の計画では、まず営業利益までを作り、必要に応じて営業外の収支や税金を加えます。どの費用を売上原価に入れるかは事業によって異なるため、社内の経理ルールや顧問税理士の考え方に合わせます。

手順1:前提条件を1か所にまとめる

計算式の中に数字を直接書き込まず、前提条件(単価、獲得数、解約率、人件費の単価など)をシートの1か所にまとめ、計算はそこを参照するようにします。こうしておくと、前提を1つ変えたときに全体がどう変わるかをすぐ確かめられ、読み手も前提を検証しやすくなります。

前提ごとに「根拠」の欄を設け、ヒアリング結果、試験販売の実績、公的統計、見積もりなど、何に基づく数字かを書いておきます。根拠がない前提は「仮置き」と明記し、検証の対象として扱います。

手順2:売上を要素に分解する

売上は、事業の収益モデルに合わせて分解します。

  • 継続課金型:月初の契約数 + 新規契約数 − 解約数 = 月末の契約数、売上 = 契約数 × 月額単価
  • 物販型:販売数 = 来訪者数 × 購入率、売上 = 販売数 × 平均単価
  • BtoBの受注型:商談数 × 受注率 = 受注件数、売上 = 受注件数 × 平均単価
  • 手数料型:取扱高 × 手数料率

新規顧客の獲得数は、営業担当者の人数や広告予算から逆算できる形にしておくと、費用計画とつながります。例えば「営業担当1人が月に対応できる商談数」を前提にすれば、担当者を増やす計画と売上の伸びが連動します。

手順3:費用を分類する

費用は、売上や顧客数に比例して増える「変動費」と、売上にかかわらず発生する「固定費」に分けて見積もります。

  • 変動費の例:仕入れ、決済手数料、販売手数料、利用量に応じたサーバー費用
  • 固定費の例:正社員の人件費、家賃、システムの月額利用料、開発の外注費

実際には、完全な変動費・固定費に分けられない費用もあります。例えば、カスタマーサポートの人件費は顧客数がある程度増えるまで一定で、一定数を超えると人を増やす必要があります。こうした費用は「顧客◯社ごとに1人」のように、段階的に増える形で置きます。

固定費と変動費に分けておくと、損益分岐点の計算と使い方で説明する損益分岐点の分析にもそのまま使えます。

手順4:人員計画を作る

新規事業の費用の多くは人件費です。職種ごとに、いつ何人を採用・配置するかを月単位で並べ、人件費を計算します。人件費には、給与のほか、会社が負担する社会保険料などの法定福利費や、採用にかかる費用も含まれます。どの項目をどの割合で見込むかは、社内の人事・経理部門や社会保険労務士に確認します。

採用は予定どおりに進まないことが多いため、採用が遅れた場合の影響(費用は減るが、売上の伸びも遅れる)も確認しておきます。

手順5:月次で組み立ててから年次にまとめる

新規事業の初期は、月ごとの変化が大きいため、少なくとも最初の1〜2年は月次で計画を作ります。月次で作ると、次のことが見えるようになります。

  • 何か月目に単月で黒字になるか
  • 累積の赤字(投資額)が最も大きくなるのはいつか、いくらか
  • 採用や広告の開始時期が損益にどう影響するか

年次の数字は、月次を合計して作ります。

計算例

以下は、手順を示すための架空の数字による計算例です。実在の事業の統計や相場ではありません。

前提(架空)

  • 月額単価:5万円
  • 新規契約:毎月5社、月次解約率:2%
  • 売上原価:売上の20%
  • 固定費:人件費を含め月300万円

ある月の計算(月初契約数が50社の場合)

  • 解約:50社 × 2% = 1社
  • 月末契約数:50 + 5 − 1 = 54社
  • 売上(月末契約数で計算する場合):54社 × 5万円 = 270万円
  • 売上原価:270万円 × 20% = 54万円
  • 粗利:216万円
  • 営業利益:216万円 − 300万円 = −84万円

この前提では、単月の営業利益がゼロになるのは、粗利が固定費の300万円に届く月です。1社あたりの月間粗利は4万円なので、300万円 ÷ 4万円 = 75社が必要になります。月次で表を作ると、この計算例では契約数が75社に達するのが何か月目かが分かり、それまでの累積赤字も計算できます。

なお、売上を月初・月末・月中平均のどの契約数で計算するかは、計算のルールとして決めて明記しておきます。

手順6:複数のシナリオを作る

1つの計画だけを示すと、前提が外れたときの影響が分かりません。少なくとも次の3つを作ります。

  • 標準:最も確からしい前提
  • 悲観:主要な前提(獲得数、単価、解約率など)が悪化した場合
  • 楽観:前提が上振れした場合

どの前提が結果に最も大きく効くかを確かめるには、前提を1つずつ変えてみます。結果を大きく動かす前提こそ、優先して検証すべき仮説です。

手順7:損益と手元資金のずれを確認する

損益計画が黒字でも、資金が足りなくなることがあります。主な原因は次のとおりです。

  • 入金のずれ:売上を計上してから代金が入金されるまでに時間がかかる(月末締め翌月末払いなど)
  • 支払いのずれ:仕入れや外注費を先に支払う
  • 設備などの投資:購入時にまとめて支払うが、損益には減価償却費として数年に分けて計上される
  • 在庫:仕入れた時点で資金は出ていくが、売れるまで費用にならない

損益計画とは別に、月ごとの入金と出金を並べた資金繰りの表を作り、手元資金が最も少なくなる時期と金額を確認します。必要な資金額は、ここから決まります。

大企業と起業家で異なる点

大企業の新規事業

本社の共通費(管理部門の費用など)の配賦をどう扱うかで、損益の見え方が大きく変わります。配賦前と配賦後の両方の損益を示す、事業部門で直接コントロールできる費用だけの損益を別に示すなど、社内のルールを確認したうえで見せ方を決めます。社内審査で使う場合は新規事業の稟議で経営陣が見る点と資料の構成も参考にしてください。

起業家・スタートアップ

融資や出資の申し込みでは、計画の数字そのものより、前提の根拠と資金繰りの見通しが確認されます。特に「資金がいつまで持つか」は、次の資金調達の時期を決める重要な数字です。税務や会計処理の扱いは、税理士に確認してください。

まとめ

収支計画は、前提条件を1か所にまとめ、売上を要素に分解し、費用を固定費と変動費に分け、人員計画とあわせて月次で組み立てます。複数のシナリオで前提の影響を確かめ、資金繰りの表で損益と資金のずれを確認して、必要な資金額と検証すべき仮説を明らかにしましょう。

会計や税務の扱いは事業や制度によって異なります。計画を外部に提出する前に、経理部門や税理士などの専門家に確認してください。

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