新規事業の海外展開の進め方:市場の選び方とJETROの支援の使い方
新規事業の海外展開は、国内で確かめた顧客の課題と価値が、対象の国でも同じように成り立つかを小さく検証してから、輸出や現地法人といった進出の形を選ぶのが基本です。情報収集の段階では、日本貿易振興機構(JETRO)の無料の貿易投資相談や、有料の海外ミニ調査サービスなどの公的な支援を使うと、費用を抑えて判断材料を集められます。
海外展開を考える前に確認すること
海外展開は、国内での事業がある程度確立してから検討するのが一般的です。まだ国内でPMF(顧客に必要とされている状態)に達していない場合、海外で新たな不確実性を増やすことになります。判断の考え方はPMF(プロダクトマーケットフィット)の判断の仕方を参照してください。
一方で、最初から海外の顧客を対象とする事業(日本市場が小さい領域、海外にしかない課題を扱う事業など)もあります。その場合は、海外の顧客への検証そのものが事業の出発点になります。
いずれの場合も、次の点を言葉にしておきます。
- なぜ海外に出るのか(市場の大きさ、競合の少なさ、既存顧客の海外進出への追随など)
- 国内で確かめられたことのうち、海外でも通用すると考える根拠は何か
- 海外展開に使える予算、人、期間はどれくらいか
対象国の選び方
対象国は、市場の魅力と、参入のしやすさの両面から比べます。
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 市場 | 対象顧客の数、課題の切実さ、支払能力 |
| 競合 | 現地企業や他国企業の類似サービスの有無 |
| 規制 | 事業に必要な許認可、製品の基準・認証、外資規制、データの扱いに関する規制 |
| 商習慣 | 意思決定の進み方、契約や支払の慣行、言語 |
| 実行面 | 現地の協力者やパートナー候補の有無、日本からの距離や時差 |
候補を広げすぎると調査の手間が増えるため、2〜3か国に絞って比べるのが現実的です。JETROの貿易投資相談も、対象国を最大3か国・地域に絞って申し込むよう案内しています。
進め方の基本手順
1. 机上の情報収集
まず、公開されている情報で対象国の基本を調べます。JETROのウェブサイトには、国・地域別のビジネス情報、輸出入や海外進出に関する基本的な制度、世界各国の関税率、貿易・投資相談Q&Aなどが掲載されています。
国内の市場調査と同じく、公的な統計や公開資料で調べる方法は新規事業の市場調査:公的統計と公開情報で調べる方法も参考になります。
2. 専門家への相談と現地の情報の入手
公開情報で分からないことは、専門の窓口に相談します。JETROの主なサービス(2026年9月時点の公式ページの記載)は次のとおりです。
- 貿易投資相談(無料):輸出や海外進出の実務の相談に、アドバイザーが回答します。オンラインで申し込み、回答の作成には5営業日程度かかるとされています。取引先候補の紹介・推薦、契約書の内容判断、翻訳・通訳、経営判断に関わることなどは対象外です。
- 海外ミニ調査サービス(有料):JETROの海外事務所が、現地のパートナー候補企業のリストアップ(10社)、法令の原文検索、統計資料の検索、店頭小売価格の調査を行います。料金は作業量(ユニット)で計算され、1ユニットあたり11,000円(税込)、中小企業・個人事業主はユニット数が2分の1に割り引かれます。調査期間はおおむね2か月程度とされています。
- 海外事務所による現地事情ブリーフィング(無料):海外事務所の駐在員などが、一般経済事情・ビジネス慣習、現地法人設立の手続、駐在員の生活事情のうち1つのテーマについて、1時間程度で説明します。現地を訪問しての面談はどなたでも利用でき、オンラインでの面談は対象者が限定されています。
料金や対象は変わることがあるため、申し込む前に公式ページで確認してください。
3. 小さく試す
情報がそろったら、大きな投資をする前に小さく試します。
- 現地の見込み顧客への聞き取り(オンラインで可能なものも多い)
- 現地の展示会への出展や視察(準備の考え方は展示会の活用と準備を参照)
- 越境ECや、現地のパートナー経由での少量の販売
- 現地企業との小規模なPoC
国内での検証と同じく、「何が確かめられたら次に進むか」を事前に決めておきます。
4. 進出の形を選ぶ
小さな試行で手応えが得られたら、本格的な進出の形を選びます。
| 進出の形 | 概要 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 直接輸出・越境EC | 日本から製品を販売する | まず需要を確かめたいとき |
| 販売代理店・パートナー | 現地企業に販売や導入支援を任せる | 現地の商習慣や顧客網が重要なとき |
| ライセンス | 技術やブランドの利用を許諾する | 自社で現地運営をする体制がないとき |
| 駐在員事務所 | 市場調査や連絡業務の拠点を置く | 本格進出の前に現地で情報を集めたいとき |
| 現地法人 | 現地に会社を設立する | 現地での販売・サポート・採用を本格化するとき |
駐在員事務所で認められる活動の範囲や、現地法人の設立手続、外資規制は国によって異なります。JETROのウェブサイトには、国ごとの海外進出に関する基本的な制度がまとめられています。
確認が必要な規制とリスク
製品の規制と認証
対象国によって、製品の安全基準、表示のルール、必要な認証が異なります。ソフトウェアやデータを扱うサービスでも、個人データの越境移転や保存場所に関する規制がある国があります。
知的財産
工業所有権情報・研修館(INPIT)のFAQでは、日本で取得した権利は日本国内においてのみ有効であり、特許だけでなく実用新案、意匠、商標も同様だと説明されています。海外で製品を売る前に、対象国での商標や特許の出願を検討します。
複数の国で特許を取りたい場合は、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願という仕組みがあります。世界知的所有権機関(WIPO)の説明によると、PCTは1つの国際出願で多数の国での特許保護を同時に求めることを可能にする条約で、締約国は155を超えます。ただし「国際特許」が与えられるわけではなく、特許を与えるかどうかは各国・地域の特許庁が判断します。優先日から通常30か月以内に各国での手続(国内段階への移行)を行います。
JETROは、海外での模倣品・海賊版の被害の相談窓口(無料)を設けているほか、中小企業等を対象に、海外での知的財産権の侵害調査などの費用の3分の2を助成する事業も行っています(2026年9月時点の公式ページの記載)。
輸出管理(安全保障貿易管理)
製品や技術によっては、輸出に国の許可が必要です。JETROの貿易・投資相談Q&Aでは、日本では外国為替及び外国貿易法(外為法)を根拠に、貨物の輸出は輸出貿易管理令、技術の提供は外国為替令で規制の対象を定めていること、規制の対象に当たるものはどの国向けであっても事前に経済産業大臣の許可が必要であることが説明されています。規制の対象かどうかを判定することを「該非判定」といい、規制品目は原則として毎年改正されるため、最新の法令で確認する必要があります。
電子部品、機械、ソフトウェア、暗号技術などを扱う事業では、海外の顧客への販売だけでなく、海外の技術者への技術情報の提供も対象になりうるため、早い段階で確認します。
契約と税務
海外の取引先との契約では、どの国の法律を適用するか(準拠法)、紛争をどこで解決するか(裁判所や仲裁)を決めておきます。現地法人を置く場合は、現地の税制や、日本の本社との取引価格の扱いなども確認が必要です。これらは弁護士、税理士などの専門家に相談します。
使える公的な支援
- 新輸出大国コンソーシアム:日本企業の海外展開を支援する支援機関が結集し、中堅・中小企業にワンストップの支援を提供する枠組みです。「新輸出大国コンシェルジュ」が相談に応じ、海外展開の戦略策定から実行まで専門家が継続的に支援する「ハンズオン支援」(審査あり)や、法務・税務・基準認証などの個別課題に専門家が対応する支援があります(2026年9月時点の公式ページの記載)。
- J-StarX(起業家等の海外派遣プログラム):JETROが実施する、起業家やスタートアップなどを海外に派遣するプログラムです。コースごとに派遣先、対象者、募集時期が異なるため、募集要項で確認します。
- JETROのその他のサービス:展示会・商談会への出展支援、海外企業との協業・連携支援など、販路開拓や連携のためのサービスもあります。
大企業の新規事業の場合
- 既存の海外拠点を使えるか確認する:自社の海外子会社や駐在員が、現地での聞き取りや試験販売を手伝える場合があります。ただし、既存事業の業務が優先されがちなので、協力の範囲と期間を取り決めておきます。
- 本社の規程との関係:海外での契約、投資、現地法人の設立には、本社の決裁や子会社管理の規程が関わります。検証の段階では、既存の拠点や代理店経由で進めると、社内手続を軽くできることがあります。
- 輸出管理の社内体制:多くの大企業には輸出管理の担当部署があります。新規事業の製品や技術についても、早めに該非判定を依頼します。
起業家・スタートアップの場合
- 資金と人の配分:海外展開は時間とお金がかかります。国内事業の成長と並行して進める場合、どちらにどれだけ資源を割くかを決めておきます。
- 公的支援の活用:無料の相談や、中小企業向けの割引がある調査サービスを使うと、少ない費用で判断材料を集められます。
- 投資家の期待との整合:海外展開の計画は、投資家への説明でも問われます。国内での実績と、海外での検証の計画をあわせて示します。
- 知的財産の出願時期:海外での権利取得は費用がかかる一方、出願が遅れると取れなくなる場合があります。専門家と相談して、出願する国と時期を決めます。
チェック項目
- 海外に出る理由と、国内で確かめられたことを言葉にしたか
- 対象国を2〜3か国に絞り、市場・競合・規制・商習慣を比べたか
- JETROなどの公的な相談・調査を活用したか
- 小さく試す方法と、次に進む基準を決めたか
- 進出の形(輸出、代理店、ライセンス、現地法人など)を選んだか
- 対象国での製品規制・認証、データの規制を確認したか
- 対象国での商標・特許の出願を検討したか
- 輸出管理(該非判定)の対象にならないか確認したか
- 契約の準拠法と紛争解決の方法を決めたか
制度は改定されます。輸出、現地法人の設立、知的財産の出願などを進める前に、公式情報と弁護士・弁理士・税理士など該当する専門家に確認してください。
参考資料
- 貿易投資相談(日本貿易振興機構)
- 海外ミニ調査サービス(日本貿易振興機構)
- 海外事務所による現地事情ブリーフィング(日本貿易振興機構)
- 支援サービス一覧(日本貿易振興機構)
- 新輸出大国コンソーシアム(日本貿易振興機構)
- 海外における起業家等の育成プログラム J-StarX(日本貿易振興機構)
- 模倣品・海賊版被害相談窓口(日本貿易振興機構)
- 輸出における安全保障貿易管理の規制品目・内容に対する該非の確認方法:日本(日本貿易振興機構)
- 日本で特許登録されると、海外でも効力がありますか。(工業所有権情報・研修館)
- PCT FAQs(World Intellectual Property Organization)
進め方に迷ったら、相談してください
起業家ポータル のメンバーが話を伺います。初回の相談は無料です。
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