新規事業の展示会活用:出展の判断から準備・当日・フォローまで
新規事業で展示会に出展するときは、「名刺を何枚集めるか」ではなく、「狙う顧客と何件の商談を作り、何を確かめるか」を目的に据えて準備します。展示会は、狙う顧客が自ら課題を持って集まる数少ない場ですが、費用と手間が大きいため、出展の判断、当日の運営、会期後のフォローまでを一続きの計画として設計しておかないと、成果が残りません。
新規事業にとっての展示会の役割
展示会には、次のような使い方があります。新規事業ではどれを主な目的にするかを先に決めます。
- 見込み客との商談を作る:課題を持った来場者と会い、会期後の商談につなげる
- 仮説を確かめる:短期間に多くの対象顧客と話せるため、課題の強さや、製品への反応、価格の受け止め方を確かめられる
- 販売代理店や提携先を探す:来場者や他の出展者の中から、販路を持つ企業と接点を作る
- 業界での認知を得る:業界の中で事業の存在を知ってもらう
新規事業の初期は、「仮説を確かめる」目的の比重が大きくなります。来場者との会話は、そのまま顧客ヒアリングの場になります。話を聞くときの要領は顧客ヒアリングの質問項目と聞き方が参考になります。
出展するかどうかの判断
展示会は、出展料に加えて、ブースの装飾、展示物の制作、配布物、人員の人件費と交通費、会期後のフォローの手間がかかります。出展の前に次の点を確認します。
- 来場者の顔ぶれ:狙う顧客の業種や職種の人が来場するか。主催者が公表している来場者の属性や、過去の出展者の顔ぶれを確認する
- 展示会の性格:特定の業界の専門展か、幅広い分野の総合展か。新規事業では、狙う顧客に絞られた専門展のほうが効率がよいことが多い
- 会期と自社の準備:会期までに、展示できる製品や試作品、説明資料、会期後に商談を受ける体制が整うか
- 費用と得られる成果の比較:他の方法(直接の営業、オンラインでの発信など)で同じ数の商談を作る場合と比べて見合うか
大きな展示会に単独で出展する前に、自治体や業界団体が設ける共同出展の枠、小規模な商談会、業界団体の会合などで試すのも一つの方法です。
目標の置き方
展示会の目標は、会期後の成果まで含めて置きます。
- 狙う顧客に該当する来場者と、課題について話せた件数
- そのうち、会期後の面談や商談の約束ができた件数
- 会期後の一定期間内に、提案や試用に進んだ件数
- 確かめたい仮説(課題の強さ、反応が良かった訴求、価格の受け止め方)について得られた答え
名刺の枚数やブースへの来訪者数は、増やすこと自体は難しくありませんが、事業の成果とは関係が薄い数字です。新規事業のKPIの置き方と撤退基準でも触れているように、見栄えのよい数字にならないよう注意します。
準備
伝える内容を一つに絞る
展示会の来場者は、多くのブースを短時間で見て回ります。ブースの前を通りかかった数秒で「誰の、どんな課題を解決するものか」が伝わるように、訴求を一つに絞ります。機能を並べるのではなく、対象となる顧客と課題を大きく示します。
展示物と説明の準備
- 実物を見せる:製品の画面、試作品、動作する様子など、触って確かめられるものを用意する。まだ完成していない場合は、そのことを正直に伝えたうえで、検証中のものとして見せる
- 短い説明と詳しい説明:数十秒で話す短い説明と、関心を持った人向けの詳しい説明を用意する
- 来場者に聞く質問を決めておく:課題の有無、現在の対処の方法、検討の時期など、会話の中で確認することを決めておく
- 配布物:持ち帰って社内で共有できる資料を用意する。会期後に詳しい資料を送る前提にすると、連絡の口実にもなる
来場者情報の記録の方法を決める
会話の内容をその場で記録する方法を決めておきます。名刺やバーコードの読み取りに加え、「課題の強さ」「検討の時期」「次にやること」などを簡単な区分で記録すると、会期後のフォローの優先順位をつけやすくなります。
事前の告知
既存の見込み客や取引先に、出展することと、ブースの場所を事前に知らせます。事前に面談の予約を受け付けると、会期中に確実に話したい相手と会えます。
体制
会期中のブースの担当者、休憩の交代、商談を受ける担当者を決めます。新規事業では、事業の中身を理解しているメンバーがブースに立つことが大切です。来場者の質問に答えられないと、せっかくの接点が生かせません。
当日の運営
- 呼び込みは対象を絞る:誰にでも声をかけるのではなく、狙う顧客に該当しそうな来場者に声をかける
- 話を聞くことを優先する:製品の説明を始める前に、来場者の業務や課題を聞く。課題がない相手に長く説明しても、会期後の商談にはつながりにくい
- その場で次の約束をする:関心の強い来場者とは、その場で次の面談の日程を決めるか、少なくとも連絡の約束をする
- 毎日振り返る:会期中、その日の反応や、よく聞かれた質問を共有し、翌日の説明の仕方を調整する
会期後のフォロー
展示会の成果の多くは、会期後のフォローで決まります。
- 早めに連絡する:記憶が新しいうちに、会話の内容に触れたお礼と、約束した資料を送る
- 優先順位をつける:記録した区分に基づき、検討の時期が近く課題の強い相手から個別に連絡する
- 営業の流れにのせる:商談に進んだ相手は、通常の営業の案件と同じように管理する
- 振り返りを残す:出展にかかった費用、作れた商談の数、得られた学びをまとめ、次回出展するかどうかの判断材料にする
名刺の情報を使うときの注意
個人情報保護委員会のQ&Aでは、名刺交換の際に自分の所属を明らかにしていれば、その連絡先に広告宣伝の冊子やメールを送ることは、取得の状況からみて利用目的が明らかと認められる場合にあたるとしています。ただし、特定電子メール法などほかの法令も守る必要があるとされています。
特定電子メール法について、総務省・消費者庁のパンフレットでは、広告宣伝メールは原則として事前に同意した相手にだけ送信でき、例外の一つとして名刺などの書面で自分のメールアドレスを通知した相手が挙げられています。この場合でも、送信者の氏名または名称、受信を拒否できる旨とその連絡先、送信者の住所、苦情や問い合わせの連絡先などの表示が必要です。受信を拒否された相手には送らないようにします。
主催者のシステムでバーコードを読み取って得た来場者の情報を使う場合は、主催者が示している利用の条件も確認します。
景品やノベルティを配るとき
来場者にノベルティを配る場合、一般消費者を対象とする展示会では、景品表示法の景品規制に注意が必要です。消費者庁の案内では、商品やサービスの利用者や来店者にもれなく提供する景品(総付景品)の限度額は、取引価額が1,000円未満の場合は200円、1,000円以上の場合は取引価額の10分の2とされています。景品規制は一般消費者への景品の提供に適用されるため、事業者向けの展示会では扱いが異なる場合があります。判断に迷う場合は確認してください。
費用に補助金を使う場合
小規模事業者持続化補助金では、2026年9月時点で公開されている一般型 通常枠 第20回の公募要領において、「展示会等出展費」が対象経費に含まれており、オンラインの展示会や商談会も対象とされています。一方で、国が出展料の一部を助成する展示会、交付決定日より前に請求や支払いがあったもの、補助事業期間の外に開催される展示会などは対象外とされています。申請の前に最新の公募要領を確認してください。制度の概要は小規模事業者持続化補助金の要点で扱っています。
大企業の新規事業での注意点
- 会社の大型ブースの一角を使う場合:既存事業の大きなブースの一角に新規事業を展示すると、来場者の多くは既存事業の顧客で、新規事業の狙う顧客と重ならないことがあります。新規事業の狙う顧客が集まる別の展示会への出展も検討します。
- 既存事業の営業担当との役割分担:既存顧客がブースに来たときに、誰が対応し、会期後に誰が連絡するかを決めておきます。
- 社内の手続きの期間を見込む:出展の申込み、装飾の発注、配布物の確認などに社内手続きが必要な場合、申込みの締め切りから逆算して準備を始めます。
起業家・スタートアップでの注意点
- 費用を抑えて試す:自治体や支援機関が設けるスタートアップ向けの共同出展の枠や、小規模なピッチイベントなど、費用を抑えて試せる場から始める方法があります。
- 少人数でも回せる計画に:ブースの担当と商談の担当を少人数で兼ねるため、事前に面談の予約を入れ、当日は予約のない時間に新しい来場者と話す、といった配分を考えます。
- 投資家や提携先との接点にも:展示会には投資家や大企業の新規事業担当者も来場することがあります。事業の説明資料を用意しておくと、思わぬ接点を生かせます。
まとめ
- 出展の目的を「狙う顧客との商談づくり」と「仮説の確認」に据える
- 来場者の顔ぶれ、準備の状況、費用と成果の比較で出展を判断する
- 名刺の数ではなく、会期後の商談の数まで含めて目標を置く
- 訴求を一つに絞り、来場者の課題を聞くことを優先する
- 会期後は早めに連絡し、特定電子メール法の表示と同意のルールを守る
- 補助金を使う場合は、公募要領で対象経費と対象外の条件を確認する
制度は改定されます。補助金の申請やメール配信の運用を決める前に、公式情報と専門家(弁護士・中小企業診断士など)に確認してください。
参考資料
進め方に迷ったら、相談してください
起業家ポータル のメンバーが話を伺います。初回の相談は無料です。
同じ工程の記事
新規事業のGo-to-Market戦略:誰に・どの経路で・どう売るかの決め方
Go-to-Market戦略は「最初に攻める顧客層」「届ける経路」「売り方」「支える体制」の4つを一枚にまとめ、順番に検証していく計画です。PMFの前後で変わる考え方、経路の選び方、大企業と起業家それぞれの注意点を解説します。
BtoB新規事業の営業プロセス:商談の段階設計と案件管理
BtoB新規事業の営業は、商談を段階に分け、各段階の「次に進む条件」を決めて案件を管理すると再現性が生まれます。段階の定義、買い手の社内承認の支援、役割分担、失注分析、営業メールの法令上の注意点を解説します。
カスタマーサクセスの始め方:新規事業で最初に作る仕組み
カスタマーサクセスは、顧客ごとに「成功」の定義を決め、そこに届くまでの導入手順を型にすることから始めます。サポートとの違い、始める時期、導入支援の設計、顧客の状態の見方、体制の作り方を新規事業向けに解説します。
新規事業のコンテンツマーケティング:テーマの選び方とステマ規制の注意点
新規事業のコンテンツマーケティングは、狙う顧客が検討の各段階で抱く疑問に答える記事や資料を、少数に絞って作り続けることが基本です。テーマの選び方、形式、体制、効果の測り方と、ステマ告示やNo.1表示の注意点を解説します。