新規事業の予算額の決め方:検証計画から積み上げ、段階ごとに出す
新規事業の予算額は、「将来これだけ儲かるから、これだけ使ってよい」という逆算ではなく、「次の段階で何を確かめるか」から必要な活動と費用を積み上げて決めるのが基本です。そのうえで、会社として失ってもよい上限の範囲に収まるかを確認し、段階ごとに区切って出します。
段階ごとの判断の仕組みは新規事業のステージゲートの設計、稟議資料の書き方は新規事業の稟議で経営陣が見る点と資料の構成で扱っています。この記事では、その手前にある「金額をどう出すか」に絞って説明します。
逆算型の予算が失敗しやすい理由
既存事業の投資判断では、将来の売上や利益の見込みから投資額の妥当性を説明します。新規事業で同じことをすると、次の問題が起こりがちです。
- 根拠の弱い売上予測が金額を決めてしまう:初期の売上予測は仮説の積み重ねで、少し前提を変えるだけで大きく動きます。予測が大きいほど予算も大きくなり、検証すべきことが後回しになります
- 最初に大きな額を確保すると止めにくい:一度確保した予算は「使い切る前提」の計画になりやすく、途中で撤退する判断が遅れます
- 「何にいくら」が説明できない:総額から配分するため、個々の活動の必要性が検討されないまま予算が組まれます
新規事業の初期に必要なのは、事業全体の投資額ではなく、次の判断に必要な情報を得るための費用です。
積み上げの手順
1. 次の段階で確かめることを決める
まず、この段階の終わりに何がわかっていればよいかを書きます。たとえば「対象顧客がこの課題にお金を払うか」「試作品で必要な精度が出るか」「既存の販路で売れるか」などです。確かめることが決まらないと、必要な活動も費用も決まりません。検証の設計は新規事業のKPIの置き方と撤退基準も参考にしてください。
2. 確かめるための活動を並べる
確かめることごとに、必要な活動を具体的に書き出します。顧客インタビュー、試作、PoC、小規模な販売テスト、市場調査、法規制の確認などです。活動ごとに「誰が」「どのくらいの期間」行うかも決めます。
3. 活動ごとに費用を見積もる
活動を費目に分けて見積もります。外注する活動は見積書を取り、社内で行う活動は工数から人件費を計算します。
4. 期間を決め、月ごとの支出に直す
段階の期間を決め、月ごとにいくら使うかを並べます。月ごとの支出がわかると、途中で止めた場合にいくら使っているか、延長した場合に月あたりいくら増えるかを説明できます。
5. 予備費を明示する
新規事業の見積もりは外れるものと考え、予備費を別枠で持ちます。予備費を各費目に紛れ込ませると、何にいくら使ったかの検証ができなくなります。予備費を使う条件(誰の判断で使えるか)も決めておきます。
見落としやすい費目
積み上げでは、直接の外注費や調査費は出しやすい一方、次の費目が抜けやすくなります。
- 社内の人件費:専任・兼務のメンバーの人件費を予算に含めるかどうかは会社によって扱いが違います。予算に含めない場合でも、判断材料として実質的なコストを把握しておきます
- 既存部門への依頼コスト:法務、知財、情報システム、品質保証などへの相談や審査にかかる時間と費用
- 契約・権利関係の費用:契約書の作成・確認、商標や特許の調査・出願
- セキュリティと個人情報の対応:顧客のデータを扱う検証では、その保護に必要な対応
- ツールと環境:クラウド、SaaS、検証用の端末や機材の利用料
- 顧客接点の費用:検証に参加してもらう顧客への謝礼、試験導入の支援、展示会やイベント
- 撤退時の費用:契約の解約、データの削除、提供中の顧客への対応
撤退時の費用は計画段階では意識されにくいものの、あらかじめ見込んでおくと撤退の判断がしやすくなります。
上限の確認:失ってもよい額から考える
積み上げた額が妥当かは、将来の利益ではなく「この段階でうまくいかなかった場合に、会社として失ってもよい額か」で確認します。
- 新規事業全体に割ける年間の枠の中で、複数のテーマにどう配分するか
- この段階の予算が全額戻らなくても、既存事業や他のテーマに支障が出ないか
- この段階で得られる情報に、その金額を払う価値があるか
積み上げ額がこの上限を超える場合は、確かめる範囲を絞る、期間を短くする、外注を減らして検証の方法を簡単にする、などで調整します。金額を増やす前に、同じことをより安く確かめる方法がないかを考えるのが先です。
段階ごとの出し方
段階と予算の単位をそろえる
予算は、次の判断の時点までの分だけを出します。次の段階に進むときに、その段階の積み上げを改めて行います。前の段階の結果によって、次に確かめることも必要な費用も変わるためです。
年度予算とのずれに備える
会社の予算が年度単位で決まる場合、検証の区切りと予算の区切りが合わないことがあります。次の点を事前に決めておくと、予算の都合で検証が止まることを防げます。
- 年度をまたぐ段階の予算の扱い(翌年度分を確保するか、年度で区切るか)
- 検証の結果が良かった場合に、年度途中で次の段階の予算を出せる枠があるか
- 使わなかった予算を返すか、次の段階に回せるか
費目間の流用ルールを決める
新規事業では、検証の途中で調査より試作に費用をかけるべきだとわかる、といった変更が起こります。費目ごとに厳密に管理すると、そのたびに承認が必要になり、検証が遅れます。段階の総額と目的は固定したうえで、費目間の流用はチームの責任者の判断で行える範囲を決めておくと、動きやすくなります。
段階が進むと費用の中身が変わる
段階ごとに積み上げ直すのは、段階によって費用の中身が大きく変わるためでもあります。
- 課題の検証段階:費用の中心は人の時間です。顧客インタビュー、調査、簡単な試作が主で、外部への支払いは比較的小さくなります
- 解決策の検証段階(PoC・MVP):試作や開発の外注費、ツールの利用料、試験導入の支援など、外部への支払いが増えます
- 事業化の準備段階:本格的な開発、販売・サポートの体制、法務や品質の対応など、固定的な費用が増えます
前の段階の予算の感覚のまま次の段階を組むと、費目の抜けや過小な見積もりが起こります。段階が変わるたびに、どの費目が増えるかを確認します。
経営陣に示すときのまとめ方
予算を説明するときは、総額だけでなく次の順で示すと理解されやすくなります。
- この段階で確かめること
- そのための活動と期間
- 活動ごとの費用と予備費
- 月ごとの支出
- 段階の終わりに判断すること(次に進む条件と撤退する条件)
- 次の段階に進む場合に見込まれる予算の幅
最後の「次の段階の予算の幅」は、確定額ではなく目安として示します。経営陣にとっては、今回の承認がどの程度の将来の投資につながりうるかを知る材料になります。
よくある失敗
- 初年度に数年分の開発費を計上する:検証が済んでいない段階で本格開発の費用まで確保すると、作ることが目的になりやすくなります
- 人件費を見ずに外注費だけで判断する:外注費が小さく見えても、社内のメンバーの時間を大きく使っていることがあります
- 予算の消化を成果として報告する:予定どおり使ったことではなく、確かめたかったことがわかったかを報告します
- 追加予算の条件を決めていない:うまくいきそうなときに追加の予算を出す条件がないと、機会を逃すか、なし崩しに予算が増えるかのどちらかになります
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