人材確保

業務委託と雇用の違い:労働者性の判断基準とフリーランス法の義務

業務委託契約を結んでいても、仕事の進め方や時間・場所を細かく指示するなど、実態が「指揮監督下の労働」であれば、労働基準法上の労働者と判断され、労働関係法令が適用されます。業務委託で人に関わってもらうなら、実態を委託にふさわしい形に保つこと、そして相手が個人のフリーランスであればフリーランス・事業者間取引適正化等法(以下、フリーランス法)の義務を守ることが必要です。

新規事業の立ち上げ期は、人手を柔軟に確保するために業務委託を使う場面が多くあります。この記事では、雇用と業務委託の違いを判断基準から確認し、フリーランス法で発注側が負う義務を、取引の期間ごとに整理します。副業人材を受け入れるときの労働時間の通算や情報管理は副業人材を新規事業に迎えるときの契約・情報管理・評価で扱っています。

雇用と業務委託の基本的な違い

雇用(労働契約) 業務委託(請負・準委任など)
関係 使用者の指揮命令を受けて働く 独立した事業者として仕事を引き受ける
主に適用される法律 労働基準法、労働契約法、最低賃金法など 民法、フリーランス法など
労働時間の管理 使用者が管理し、時間外労働には割増賃金 原則として発注側は管理しない
社会保険・労働保険 要件を満たせば加入 本人が自分で加入(労災保険は特別加入の制度あり)
契約の終了 解雇には労働契約法などの制約 契約の定めに従う(フリーランス法の予告義務あり)

請負と準委任の違いなど、契約類型そのものの説明は開発会社との契約の注意点(請負と準委任)を参照してください。

労働者かどうかの判断基準

労働基準法第9条は、労働者を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています。厚生労働省は、労働者に当たるかどうかは契約の形式や名称にかかわらず、契約の内容、労務提供の形態、報酬その他の要素から、個別の事案ごとに総合的に判断されるとしています。

その判断の枠組みとして現在も参照されているのが、1985年(昭和60年)の労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」です。報告は、「指揮監督下の労働」と「報酬の労務対償性」をあわせて「使用従属性」と呼び、次の要素で判断するとしています。

指揮監督下の労働かどうか

  • 仕事の依頼や業務の指示を断る自由があるか:断る自由があれば、指揮監督関係を否定する重要な要素になる
  • 業務の内容や進め方について具体的な指揮命令を受けているか:ただし、通常の発注者が行う程度の指示にとどまる場合は、指揮監督を受けているとはいえない
  • 通常予定されている業務以外の業務を命じられることがあるか:あれば、指揮監督を受けている判断を補強する
  • 勤務場所と勤務時間が指定・管理されているか:ただし、業務の性質や安全確保の必要から必然的に指定される場合もあり、その理由を見極める
  • 本人に代わって他の人が仕事をすることが認められているか:認められていれば、指揮監督関係を否定する要素の一つになる

報酬が労務の対価かどうか

報酬が時間給を基礎に計算される、欠勤すると減額される、残業すると別の手当が出るなど、一定時間働いたことへの対価と判断される場合は、使用従属性を補強します。

判断を補強する要素

判断が難しい場合は、次の要素もあわせて考慮するとされています。

  • 事業者性:高価な機械や器具を自分で負担している、報酬が同じ業務の正社員に比べて著しく高いなどは、労働者性を弱める要素
  • 専属性:他社の仕事をすることが制度上・事実上難しい、報酬に生活保障的な性格が強いなどは、労働者性を補強する要素
  • その他:選考の過程が正社員の採用とほぼ同じ、給与所得として源泉徴収している、服務規律を適用しているなどを、労働者性を肯定する補強事由とした裁判例がある

なお、厚生労働省では2025年から「労働基準法における『労働者』に関する研究会」が開かれています。判断基準の見直しの動向も確認してください。

新規事業で起きやすい「実態は雇用」のパターン

立ち上げ期のチームでは、業務委託のメンバーも社員と同じように働いてもらいたくなります。次のような運用は、実態が雇用と判断される方向に働きます。

  • 業務委託のメンバーに、社員と同じ始業・終業時刻や出社日を指定している
  • タスクを日々細かく割り当て、進め方まで指示している
  • 契約にない業務(採用面接の同席、社内行事の運営など)を頼んでいる
  • 報酬を時間単位で払い、休んだ分を差し引いている
  • 他社の仕事を受けないよう求めている

業務委託で関わってもらうなら、契約で「何を、いつまでに、どの水準で」納めてもらうかを定め、進め方は相手に任せ、報告の方法を決めておく運用にします。社員と同じ働き方をしてほしいのであれば、最初から雇用を選ぶほうが適切です。

フリーランス法で発注側が負う義務

フリーランス法は2024年11月1日に施行されました。対象となるフリーランス(特定受託事業者)は、業務委託の相手方である事業者のうち、従業員を使用しない個人、または代表者1人以外に役員がおらず従業員を使用しない法人です。ここでいう「従業員を使用」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇うことを指します。会社員が副業として業務委託を受ける場合も、対象になります。

一方、形式的には業務委託でも、実質的に労働基準法上の労働者と判断される場合は、フリーランス法ではなく労働関係法令が適用されます。

発注側の義務は、発注者の規模と取引の期間によって段階的に重くなります。

発注者と取引の期間 主な義務
すべての発注事業者(従業員のいないフリーランスが発注する場合を含む) 取引条件の明示(第3条)
従業員を使用する、または役員が2人以上いる発注事業者(特定業務委託事業者) 上記に加え、期日における報酬支払(第4条)、募集情報の的確表示(第12条)、ハラスメント対策に係る体制整備(第14条)
特定業務委託事業者が1か月以上の業務を委託する場合 上記に加え、7つの禁止行為(第5条)
特定業務委託事業者が6か月以上の業務を委託する場合 上記に加え、育児介護等と業務の両立への配慮(第13条)、中途解除等の事前予告・理由開示(第16条)

取引条件の明示

業務委託をしたら、直ちに、書面または電子メール・チャットなどの電磁的方法で、発注者と受注者の名称、業務委託をした日、給付の内容、納期(役務の提供を受ける期日)、納品場所、検査をする場合はその完了日、報酬の額と支払期日などを明示します。電話など口頭での明示は認められません。知的財産権の譲渡・許諾を受ける場合は、その範囲を明確にし、その対価を報酬に含める必要があります。

報酬の支払期日

報酬の支払期日は、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で、具体的な日として定めます。「○日まで」「○日以内」という書き方は、支払期日を定めたとは認められません。月末締めの場合は、翌月末日までに支払期日を設定する必要があります。

7つの禁止行為

1か月以上の業務委託では、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用の強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しが禁止されます。新規事業では仕様が途中で変わりやすいため、「やり直し」を頼む場合の費用負担には特に注意します。

中途解除・不更新の30日前予告

6か月以上の業務委託を解除する場合、または契約期間の満了後に更新しない場合は、やむを得ない事由などを除き、少なくとも30日前までに書面や電子メールなどで予告しなければなりません。予告の後にフリーランスが理由の開示を求めた場合は、遅滞なく開示します。新規事業を撤退・縮小するときは、業務委託のメンバーとの契約の終了にもこの予告期間が必要になるため、撤退の計画に組み込んでおきます。

募集情報の的確表示とハラスメント対策

業務委託のメンバーを広告などで募集する場合は、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、情報を正確かつ最新の内容に保つ必要があります。また、フリーランスに対するハラスメントについて、相談に応じる体制の整備などの措置を講じる必要があります。

労災保険の特別加入

2024年11月1日から、労災保険の特別加入の対象に「特定フリーランス事業」が加わり、企業などから業務委託を受けるフリーランスが幅広く加入できるようになりました。加入は本人が特別加入団体を通じて行うものですが、長期で関わってもらうメンバーには、制度があることを伝えておくとよいでしょう。

どちらを選ぶかの考え方

状況 向いている形
成果物や業務の範囲を事前に決められる 業務委託
専門性を一定期間だけ借りたい 業務委託
チームの一員として日々の優先順位を一緒に決めてほしい 雇用
勤務時間や場所をそろえる必要がある 雇用
長期的に事業の中核を担ってほしい 雇用(スタートアップでは株式報酬と組み合わせることも)

最初は業務委託で関わってもらい、互いに合うとわかった段階で雇用に切り替える方法もあります。その場合は、業務委託の期間中から実態が雇用にならないよう運用し、切り替えのときに労働条件を改めて明示します。

まとめ

業務委託か雇用かは、契約書の名前ではなく、指揮監督の有無や報酬の性格などの実態で判断されます。業務委託で関わってもらうなら、成果と期限で依頼し、進め方は相手に任せます。相手が個人のフリーランスであれば、取引条件の明示と60日以内の支払を基本に、取引期間が1か月以上、6か月以上と長くなるにつれて加わる義務を確認し、撤退時の契約終了も予告期間を見込んで計画してください。

制度は改定されます。契約の前に公式情報を確認し、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談してください。

参考資料

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