副業人材を新規事業に迎えるときの契約・情報管理・評価
新規事業に副業人材を迎えるときは、最初に「雇用で迎えるのか、業務委託で迎えるのか」を決めることが出発点です。雇用なら本業先との労働時間の通算と健康への配慮が、業務委託なら取引条件の明示と実態が雇用にならない運用が中心的な論点になり、どちらの場合も、秘密情報の範囲と本業先に対する競業の確認、成果の評価基準を事前に決めておく必要があります。
この記事では、大企業の新規事業部門が社外の副業人材を受け入れる立場から、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」などをもとに、契約、情報管理、評価の押さえ方を整理します。
副業人材を迎える意味
新規事業では、社内にない専門性(特定業界の知識、開発、デザイン、マーケティングなど)が短期間だけ必要になることがよくあります。副業人材は、そうした専門性を必要な期間・必要な分量だけ取り入れる手段になります。
厚生労働省のガイドラインも、企業にとっての副業・兼業のメリットとして、優秀な人材の獲得、社外からの新たな知識・情報や人脈による事業機会の拡大などを挙げています。また、社会全体としてみれば、副業・兼業はオープンイノベーションや起業の手段としても有効だとしています。
最初のチームの中で副業人材をどう位置づけるかは、新規事業の最初のチームの作り方も参考にしてください。
契約形態を決める:雇用か業務委託か
雇用の場合
副業人材と労働契約を結ぶ場合、自社はその人の「使用者」になります。この場合、次の点に注意が必要です。
労働時間の通算
労働基準法第38条第1項は、事業場を異にする場合も労働時間を通算すると定めており、ガイドラインでは、この「事業場を異にする場合」には事業主を異にする場合も含まれるとされています。本業先でも雇用されている人を自社で雇う場合、本業先と自社の労働時間を通算して管理する必要があります。
ガイドラインによれば、副業・兼業の開始前に両社の所定労働時間を通算して法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後から労働契約を結んだ使用者において、その超える部分が時間外労働になります。副業人材を受け入れる側は、多くの場合この「後から契約した使用者」に当たるため、時間外労働の扱い(36協定の範囲、割増賃金)を事前に確認しておく必要があります。
ガイドラインは、労働者本人から確認する事項として、本業先の事業内容と業務内容、労働時間通算の対象となるか否かを挙げ、通算の対象となる場合は本業先での所定労働日・所定労働時間・始業終業時刻、所定外労働の見込みなどを確認し合意しておくことが望ましいとしています。
また、労働時間の通算を簡便に行う方法として「管理モデル」が示されています。先に契約した使用者の法定外労働時間と、後から契約した使用者の労働時間を合計して、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲で、それぞれの使用者が労働時間の上限を設定し、その範囲内で働いてもらうという方法です。
安全配慮義務と健康への配慮
ガイドラインは、副業・兼業の場合には、その労働者を使用する全ての使用者が安全配慮義務を負うとしています。全体の業務量・時間が過重であると把握しながら何も配慮しないまま健康を損なった場合などが問題になり得るとされており、受け入れ側としても、本人からの報告などで就業の状況を把握することが求められます。
業務委託の場合
個人事業主として業務委託契約(準委任や請負)で関わってもらう場合は、次の点に注意します。
労働時間の通算はされない
ガイドラインでは、フリーランス、アドバイザー、コンサルタント、顧問など、労働基準法が適用されない形で副業・兼業を行う場合は、労働時間は通算されないとされています。ただし、その場合でも、過労などで業務に支障が出ないよう、本人からの申告などで就業時間を把握し、長時間にならないよう配慮することが望ましいとされています。
実態が雇用にならないようにする
ガイドラインは、請負であるかのような契約にしていても実態は雇用契約だと認められる場合などは、就労の実態に応じて労働基準法などの使用者責任が問われるとしています。業務委託で迎えるなら、作業の進め方や時間を細かく指示して社員と同じように扱うのではなく、依頼する業務と成果、報告の方法を契約で定める運用にします。雇用か業務委託かは契約書の名前ではなく実態で判断されるため、迷う場合は社会保険労務士や弁護士に確認してください。
フリーランス・事業者間取引適正化等法
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)は、2024年11月1日に施行されました。従業員を使用しない個人などを「特定受託事業者」と定め、業務委託をする事業者に次のような義務を課しています。
- 業務委託をした場合は、直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日などを書面または電磁的方法で明示する(第3条)
- 従業員を使用する事業者などが発注者の場合、報酬の支払期日は、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から起算して60日の期間内で、できる限り短い期間内に定める(第4条)
副業人材が個人として業務委託を受ける場合、この法律の対象になることが多いため、発注の手続きを購買・法務部門と確認しておきます。契約の種類ごとの考え方は開発会社との契約の注意点(請負と準委任)でも扱っています。
情報管理:秘密保持と競業の確認
二つの方向の情報漏えいに注意する
ガイドラインは、秘密保持義務について問題になり得る場合として、自社の労働者が自社の秘密を他社で漏らす場合に加えて、他社の労働者が他社の秘密を自社で漏らす場合も挙げています。副業人材を受け入れる側には、次の二つの方向の注意が必要です。
- 自社の新規事業の情報が、副業人材を通じて外部(本業先を含む)に出ていかないようにする
- 副業人材が本業先の秘密情報を自社に持ち込まないようにする
後者は見落とされがちですが、本業先の秘密を使って新規事業を進めると、自社が紛争に巻き込まれるおそれがあります。受け入れ時に、本業先の秘密情報を持ち込まないことを確認し、書面にしておきます。
共有する情報の範囲を決める
不正競争防止法では、「営業秘密」は、秘密として管理されている、事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものと定義されています(第2条第6項)。秘密として管理していない情報は、この法律による保護を受けにくくなります。
副業人材に共有する情報は、業務に必要な範囲に限定し、次の点を決めておきます。
- 秘密保持契約の締結と、秘密情報の範囲の定義
- 社内システムやファイルへのアクセス権限の範囲と、終了時の削除
- 使ってよい端末や保存場所
- 契約終了後の秘密保持の期間
本業先に対する競業の確認
ガイドラインは、他社の労働者を自社でも使用する場合には、その労働者が他社に対して負う競業避止義務に違反しないよう確認や注意喚起を行うことを、企業の対応として挙げています。新規事業の領域が副業人材の本業先の事業と近い場合は特に、本業先の副業に関するルールと競業の範囲を本人に確認してもらいます。
ガイドラインは、副業・兼業を希望する労働者に対し、まず勤め先のルール(労働契約、就業規則など)を確認するよう求めています。受け入れ側としても、本業先で副業が認められているか、届出が必要か、本人が手続きを済ませているかを確認しておくと安心です。
成果の評価
期待する成果を契約前に言葉にする
副業人材は関わる時間が限られるため、何を期待するかを具体的にしておかないと、成果の評価ができません。例えば「顧客への聞き取りを一定数実施し、課題の整理を報告する」「画面の試作を作り、顧客の反応をまとめる」のように、成果物や行動で定義します。
業務委託の場合、期待する成果は契約上の業務内容と一致させます。雇用の場合は、社内の評価制度とは別に、プロジェクトとしての期待役割を合意しておきます。
定期的に振り返る
新規事業では、検証の結果によって必要な役割が変わります。一定の期間ごとに、成果と役割を振り返り、継続、役割の変更、終了を判断します。振り返りの時期を最初に決めておくと、終了の判断も感情的になりにくくなります。
社内メンバーとの関係
副業人材が社内メンバーと同じ会議に出て意見を言うと、社内メンバーが「外部の人の意見が優先される」と感じることがあります。副業人材の役割と権限(助言なのか、実行なのか、判断に関わるのか)をチーム全体に共有しておきます。
受け入れの手順
最後に、受け入れの手順を整理します。
- 必要な専門性、期待する成果、期間、関わる時間を決める
- 雇用か業務委託かを決め、人事・法務・購買部門と手続きを確認する
- 本人に、本業先のルール(副業の可否、届出、競業の範囲)を確認してもらう
- 雇用の場合は、本業先の労働時間などを確認し、通算の方法を決める
- 業務委託の場合は、取引条件を書面または電磁的方法で明示し、支払期日を法令の範囲で定める
- 秘密保持契約を結び、共有する情報とアクセス権限の範囲を決める
- 振り返りの時期と評価の基準を合意する
副業人材は、新規事業に足りない専門性を早く取り入れる有効な手段です。契約と情報管理の手当てを最初に済ませておけば、社内外の人材が協力しやすい環境を作れます。
制度は改定されます。契約の前に公式情報を確認し、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談してください。
参考資料
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