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ピボットの判断と進め方:何を変え、何を残すか

ピボットとは、これまでの検証で得た事実をもとに、事業の一部(対象顧客、課題、解決策、売り方など)を変え、残りを生かして再出発することです。判断のポイントは「何がうまくいかなかったか」と「何が確かめられたか」を分けて整理し、確かめられたものを土台に、変える要素を1つか2つに絞ることです。

撤退基準の決め方や、継続・ピボット・撤退の選択肢そのものは新規事業のKPIの置き方と撤退基準で扱っています。この記事では、ピボットを選ぶと決めた後、または選ぶかどうか迷っているときの考え方と進め方に絞って説明します。

ピボットと「やり直し」の違い

ピボットは、ゼロからのやり直しではありません。検証を通じて手に入れたもの(顧客の声、確認できた課題、作った技術、築いた関係)のうち、生かせるものを残して方向を変えることです。

反対に、次のような変更はピボットとは言いにくいものです。

  • 検証の結果を整理しないまま、思いついた別のアイデアに移る
  • 数字が悪いことを理由に、対象や解決策を毎月のように変える
  • 機能の追加や画面の改善など、方向性は変えずに細部だけを変える

前の2つは検証の積み上げがなく、学びが残りません。最後のものは改善であり、それで解決するなら方向を変える必要はありません。

ピボットを考える合図

次のような状況が続いている場合は、改善を続けるより、方向を変えるかどうかを検討する時期です。

  • 顧客ヒアリングでは課題への共感が得られるのに、お金を払う段階で止まる
  • 試しに使ってもらえても、継続して使われない
  • 想定と違う顧客層や使い方で、予想外に強い反応がある
  • 顧客を1社獲得するための手間やコストが、得られる収入に見合わない
  • 改善を重ねても主要な指標がほとんど動かない

特に3つ目の「想定外の強い反応」は、ピボットの手がかりになることが多い合図です。想定していない顧客が、想定していない使い方で熱心に使っている場合は、その理由を詳しく聞き取ります。

逆に、指標が悪い理由が「まだ十分な数の顧客に届いていない」「プロダクトの品質に明らかな問題がある」といったことなら、方向を変える前にそこを直すのが先です。PMFに達しているかどうかの判断の仕方はPMF(プロダクトマーケットフィット)の判断の仕方で扱っています。

変える要素の種類

ピボットで変える要素は、大きく次のように分けられます。

変える要素
対象顧客 中小企業向けから大企業向けへ、個人向けから法人向けへ
課題 同じ顧客の、より切実な別の課題に移る
解決策 課題はそのままで、提供方法を変える(ソフトウェアから代行サービスへ、など)
機能の範囲 多機能の製品の中で、よく使われている1つの機能に絞る
売り方・経路 直販から代理店経由へ、営業主導から自社サイトでの申込みへ
収益モデル 買い切りから月額課金へ、利用者課金から広告・手数料型へ
技術の用途 同じ技術を、別の業界や用途に使う

変える要素が多いほど、これまでの学びが生かせなくなり、新規事業を最初から始めるのと変わらなくなります。1回のピボットで変えるのは1つか2つに絞り、それ以外は維持するのが基本です。

判断の手順

1. 事実を整理する

まず、これまでの検証で分かったことを、次の3つに分けて書き出します。

  • 確かめられたこと:顧客がこの課題を持っている、この価格なら払うと言った顧客がいる、など
  • 否定されたこと:この顧客層は課題を感じていない、この売り方では商談につながらない、など
  • まだ分からないこと:検証が足りず、判断できないこと

「うまくいかなかった」という印象だけで判断すると、確かめられていたことまで捨ててしまいます。書き出してみると、実は1つの要素だけが問題だったと分かることもあります。

2. ピボットの候補を複数出す

確かめられたことを土台に、変える要素を1つか2つに絞った案を複数作ります。それぞれの案について、次の点を比べます。

  • これまでの学び・資産(顧客、技術、チームの経験)がどれだけ生かせるか
  • 新しく立てる仮説は何か、それを確かめるのにどれくらいの期間と費用がかかるか
  • 市場の大きさや、将来の広がりが十分か
  • チームがその方向に本気で取り組めるか

3. 新しい仮説と検証計画を決める

選んだ案について、最初に確かめる仮説と、その判断基準、期限を決めます。ピボットは新しい検証の始まりなので、以前と同じように「いつまでに、何がどうなれば進む、どうなれば見直す」を決めておきます。

期限を決めずにピボットすると、同じように手応えのない状態がずるずると続きかねません。

4. 小さく試してから切り替える

可能であれば、全面的に切り替える前に、新しい方向を小さく試します。

  • 新しい対象顧客に、数社分のヒアリングを行う(聞き方は顧客ヒアリングの質問項目と聞き方を参照)
  • 既存の製品の一部を使って、新しい使い方を試してもらう
  • 新しい価格や売り方で、少数の顧客に提案してみる

小さな試行で反応が得られてから本格的に切り替えると、ピボットそのものの失敗のリスクを減らせます。

関係者への説明

ピボットでは、社内外の関係者への説明が欠かせません。

既存の顧客

これまでの顧客に対して、サービスをどうするのか(続けるのか、終了するのか、移行してもらうのか)を早めに決めて伝えます。サービスを終了する場合は、契約や利用規約の定め、データの扱いを確認し、十分な期間を置いて案内します。

チーム

ピボットは、チームにとって「これまでの努力が否定された」と受け取られることがあります。何が確かめられ、それをどう生かすのかを具体的に説明すると、前向きに受け止めてもらいやすくなります。役割が変わる人には、個別に話す時間を取ります。

意思決定者・出資者

大企業では経営陣や審査の担当部署、スタートアップでは投資家への説明が必要です。いずれの場合も、次の点を1つの資料にまとめると伝わりやすくなります。

  • 何を検証し、何が分かったか(事実)
  • なぜ方向を変えるのか
  • 何を変え、何を残すのか
  • 新しい仮説、検証計画、期限、必要な資金

大企業の新規事業の場合

  • ステージゲートでの扱いを決めておく:ピボットした事業を、同じ段階のやり直しとして扱うのか、前の段階に戻すのかを社内のルールで決めておくと、判断が速くなります。設計の考え方は新規事業のステージゲートの設計で扱っています。
  • 予算と目標の再設定:ピボット後に必要な予算と、新しい期限を改めて承認してもらいます。以前の計画の数字をそのまま追い続けないよう、評価の基準も合わせて変えます。
  • 担当者の評価と切り離す:ピボットを「失敗」として担当者の評価に直結させると、事実を隠して計画に固執する動機が生まれます。検証から学んだことを評価する仕組みにしておきます。
  • 協力企業との関係:PoCなどで協力してくれた企業がある場合、契約上の扱いと、今後の関係を整理しておきます。

起業家・スタートアップの場合

  • 資金の残り期間を確認する:ピボット後の検証にかかる期間と、手元の資金で活動できる期間を照らし合わせます。資金が尽きる直前のピボットは選択肢が限られるため、判断は早めに行います。
  • 投資家との対話:投資家は、ピボットそのものより、判断の根拠と新しい計画の妥当性を見ます。事実にもとづいて説明し、必要なら助言を求めます。
  • 共同創業者との合意:どの方向に進むかについて、共同創業者の間で意見が分かれることがあります。事実の整理から一緒に行い、判断の基準をそろえてから結論を出します。
  • 会社の定款や契約の確認:事業内容が大きく変わる場合、定款の事業目的の変更や、許認可の要否の確認が必要になることがあります。

チェック項目

  • 確かめられたこと、否定されたこと、まだ分からないことを書き出したか
  • 指標が悪い理由が「数が足りない」「品質の問題」ではないことを確認したか
  • 変える要素を1つか2つに絞ったか
  • 残すもの(顧客、技術、学び)を明確にしたか
  • 新しい仮説、判断基準、期限を決めたか
  • 小さく試す方法を考えたか
  • 既存の顧客、チーム、意思決定者・出資者への説明の準備ができているか

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