価値提案(バリュープロポジション)の作り方
価値提案(バリュープロポジション)とは、「特定の顧客が片付けたい用事と、その途中で感じている不満や期待に対して、自社の製品がどう応えるか」という約束です。作るときは、顧客側を先に調べて書き、そのうえで自社の製品が何を和らげ、何を生み出すかを対応づけ、最後に顧客に伝わる一文に落とし込みます。
価値提案とは何か
新規事業の文脈で価値提案という言葉は、次の2つの意味で使われます。
- 設計としての価値提案:どの顧客の、どの課題に、どんな製品やサービスで応えるかの組み合わせ
- メッセージとしての価値提案:それを顧客に一目で伝える短い言葉(ウェブサイトの見出し、営業資料の1行目など)
前者が固まっていないのに後者だけを磨いても、響く言葉にはなりません。この記事では、前者を作り、後者に落とし込む順で説明します。
バリュープロポジションキャンバス
価値提案を整理する道具としてよく使われるのが、Strategyzer社が提供するバリュープロポジションキャンバスです。同社の書籍『Value Proposition Design』(アレックス・オスターワルダー氏ほか著)で解説されています。キャンバスは2つの部分からなります。
顧客プロフィール(右側)
同社のサイトでは、顧客プロフィールを次の3つの要素で説明しています。
- 顧客の仕事(ジョブ):顧客が成し遂げようとしている機能的、社会的、感情的な仕事
- ペイン:顧客が直面する、好ましくない経験、リスク、障害
- ゲイン:顧客が期待したり望んだりする、好ましい結果や便益
ジョブの考え方はペルソナとジョブ(JTBD)の使い分けでも説明しています。
バリューマップ(左側)
- 製品とサービス:自社が提供するもの
- ペインリリーバー:製品やサービスが、顧客のペインをどう和らげるか
- ゲインクリエーター:製品やサービスが、顧客の望む結果をどう生み出すか
フィット
左右を見比べ、バリューマップの項目が顧客プロフィールの重要なペインやゲインに対応しているかを確かめます。Strategyzer社は、フィットは顧客が確認するまでは主張にすぎず、描いた対応関係を証拠に照らして検証し、調整するよう述べています。
作り方の手順
1. 顧客セグメントを一つ選ぶ
Strategyzer社は、キャンバスを使うときのよくある間違いとして、複数の顧客セグメントを1枚に混ぜることを挙げています。顧客セグメントごとにジョブ、ペイン、ゲインが違うためです。法人向けでは、利用者と決裁者(お金を払う人)でも中身が異なるため、別のキャンバスに分けます。
2. 顧客プロフィールを事実から書く
ジョブ、ペイン、ゲインを、顧客ヒアリングや観察で得た事実をもとに書き出します。Strategyzer社は、提供しようとしている製品の視点から顧客プロフィールを書いてしまうことも、よくある間違いとして挙げています。自社の製品が解決できることだけを顧客のペインとして書くと、顧客が本当に困っていることを見落とします。いったん製品のことを忘れて書くのがこつです。
機能面の仕事だけに注目するのも避けます。同社は、社会的・感情的な仕事に伴うペインのほうが、しばしば深く感じられていると指摘しています。法人向けであっても、「上司に説明しやすいか」「失敗したときに責任を問われないか」といった要素は、導入の判断に強く影響します。
3. ペインとゲインに優先順位をつける
書き出したペインとゲインを、顧客にとっての重要度で並べます。重要度は、ヒアリングで聞いた頻度、深刻さ、すでにお金や時間を使っているかで判断します。自分たちが解決しやすい順ではなく、顧客にとって重い順に並べることが大切です。
4. バリューマップを書く
上位のペインとゲインに対して、自社の製品やサービスが何を和らげ、何を生み出すかを書きます。Strategyzer社は、あらゆるペインとゲインに応えようとすることもよくある間違いとし、優先度の高いものに絞るよう勧めています。全部に応えようとすると、どれにも十分に応えられない製品になります。
5. 既存の代替手段と比べる
価値提案は、単独で良いかどうかではなく、顧客が今使っている手段より良いかどうかで評価されます。今の手段(競合製品、表計算ソフト、外注、人手など)が、同じペインをどこまで和らげているかを並べ、自社が明らかに勝る点を特定します。競合の洗い出し方は新規事業の競合調査のやり方で解説しています。
一文に落とし込む
設計が固まったら、顧客に伝える一文にします。次の型が使いやすいでしょう。
〔顧客〕が〔状況〕で〔ジョブ〕するときの〔主なペイン〕を、〔既存の手段〕と違って〔自社ならではの方法〕で解消する。
これを社内の設計文書として持ったうえで、顧客向けの言葉に言い換えます。言い換えるときは次の点に気をつけます。
- 顧客が使う言葉で書く:ヒアリングで顧客が口にした言葉を使うと伝わりやすくなります。社内用語や技術用語は避けます。
- 機能ではなく結果を書く:「AIによる自動分類」ではなく、その結果として顧客に何が起きるか(作業時間が減る、ミスがなくなる)を書きます。
- 誰向けかが分かるようにする:対象を絞った言葉のほうが、該当する顧客には強く響きます。
- 根拠のない表現を使わない:「業界初」「No.1」「必ず〇〇できる」といった表現は、客観的な根拠がなければ使いません。一般消費者向けの広告では、品質や取引条件を実際より著しく優良・有利だと誤認させる表示が景品表示法で禁止されています。
価値提案を検証する
価値提案は、作った時点ではまだ仮説です。次のような方法で確かめます。
- ヒアリングで反応を見る:一文を見せ、顧客が自分の言葉で「つまり〇〇ということですね」と言い換えられるか、自分の状況に当てはめて具体的な質問をしてくるかを見ます。好意的な感想より、具体的な質問や次の行動のほうが強い反応です。
- 複数の言葉を比べる:ランディングページや広告で異なる価値提案を出し、登録や問い合わせの反応を比べます(ランディングページで需要を確かめるスモークテストの進め方)。
- 商談で確かめる:法人向けでは、提案書の最初に価値提案を置き、商談が進むかどうか、止まった場合の理由を記録します。
反応が弱い場合、言葉の問題なのか、設計(顧客、ペインの選び方、解決の方法)の問題なのかを切り分けます。言葉を変えても反応が変わらないなら、設計に戻ります。
よくある失敗
- 製品の説明を価値提案と呼ぶ:「〇〇ができるクラウドサービス」は製品の説明です。顧客にとって何が良くなるのかが書かれていなければ、価値提案ではありません。
- 誰にでも当てはまる言葉にする:「効率化」「コスト削減」だけでは、他社の製品と区別がつきません。
- 顧客を調べる前にバリューマップを書く:製品のアイデアから逆算した顧客像になり、現実とずれます。
- 一度決めて見直さない:検証の結果や顧客層の変化に合わせて更新します。
大企業と起業家で異なる点
- 大企業の場合:既存事業のブランドや信頼は、顧客にとって「失敗しにくい」という感情面の価値になりうる一方、新規事業の価値提案が既存製品の宣伝文句に引きずられることもあります。新規事業の顧客セグメントについて、改めて顧客プロフィールを書き直します。
- 起業家の場合:知名度がないぶん、顧客は「このスタートアップを選んで大丈夫か」という不安を抱えています。導入の手軽さ、試しやすさ、やめやすさなど、選ぶ不安を和らげる要素も価値提案の一部として考えます。
まとめ
価値提案は、特定の顧客の用事と、その途中のペインやゲインに対して、自社の製品がどう応えるかという約束です。顧客セグメントを一つに絞り、顧客プロフィールを事実から書き、重要なペインとゲインに絞ってバリューマップを書き、既存の手段と比べて勝る点を一文にします。完成した一文も仮説として扱い、顧客の反応と行動で検証してください。
参考資料
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