アドバイザー・顧問の迎え方と報酬の決め方
アドバイザーや顧問は、依頼する内容と関わる時間、期間を先に決めてから迎えるのが基本です。名前を借りるだけの関係や、何を頼んでいるのかがあいまいな関係は、報酬の払いすぎや、株式が意図せず外部に散らばる原因になります。報酬は現金、ストックオプション、またはその組み合わせで設計しますが、社外の人へのストックオプションは、税制上の優遇を受けられる範囲が社内の役員・従業員とは異なる点に注意が必要です。
この記事では、スタートアップがアドバイザー・顧問を迎えるときの進め方と、報酬・契約の考え方を整理します。共同創業者や初期メンバーの報酬は初期メンバーの報酬とストックオプションの基本で扱っています。
まず、何を頼むのかを決める
典型的な依頼内容
アドバイザー・顧問に頼むことは、おおむね次のように分けられます。
- 専門知識の提供:特定の業界の商習慣、規制、技術についての助言
- 人の紹介:顧客候補、提携先、投資家、採用候補者の紹介
- 経営の相談相手:資金調達や組織づくりなど、創業者が初めて経験する判断への助言
- 信用の補完:業界で知られた人が関わっていることによる、顧客や投資家からの信頼
最後の「信用の補完」だけを目的にすると、実際には関わってもらえず、報酬だけが発生する関係になりがちです。どの依頼内容が中心なのかを決め、期待する成果を言葉にしておきます。
関わり方の形
同じ「顧問」でも、関わり方は大きく異なります。
| 形 | 特徴 |
|---|---|
| スポットの相談 | 必要なときに都度相談し、その分だけ報酬を払う |
| 定期的な助言 | 月1回の面談など、頻度を決めて継続的に関わる |
| 業務の一部を担う | 営業同行や採用面接など、実務の一部を担う |
| 取締役として関わる | 取締役会の一員として経営の意思決定に加わる |
取締役として迎える場合は、会社法上の役員となり、株主総会での選任などの手続きや、会社に対する責任が生じます。助言だけを求めるのか、経営の意思決定にも加わってもらうのかを、最初に区別します。
候補の探し方と見極め方
候補者は、投資家や既存の顧客からの紹介、業界の勉強会、過去に一緒に働いた人などから探します。見極めでは、経歴の華やかさよりも次の点を確認します。
- 自社が今直面している課題について、具体的な経験を持っているか
- 自社のために実際に時間を割ける状況か(他に多くの顧問先を抱えていないか)
- 競合となり得る会社の顧問や役員を務めていないか
- 助言が合わなかったときに、率直に話し合える相手か
いきなり長期の契約を結ぶのではなく、数回のスポット相談から始め、相性を確かめてから継続的な契約に移ると失敗が少なくなります。
契約で決めること
口約束で始めると、後から「何を頼んでいたのか」「報酬は何に対するものか」が争いになります。次の項目を書面で決めておきます。
- 業務の内容:助言の範囲、紹介の対象、実務を担う場合はその内容
- 関わる頻度と時間:月あたりの面談回数や時間の目安
- 期間と更新:契約期間、更新の有無、途中で終了する場合の手続き
- 報酬:金額、支払日、ストックオプションを付与する場合の方針
- 秘密保持:開示する情報の範囲と、契約終了後の扱い
- 利益相反・競業:競合企業との関わりの制限と、利益相反が生じたときの報告
- 知的財産:助言の過程で生まれた資料やアイデアの扱い
フリーランス法の確認
アドバイザーが従業員を使用しない個人(または代表者1人だけの法人)として業務委託を受ける場合、フリーランス・事業者間取引適正化等法の対象になります。厚生労働省の資料によれば、発注側は業務委託をしたら直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日などの取引条件を書面または電子メールなどで明示する義務があります。発注側に従業員がいるか役員が2人以上いる場合は、報酬を給付の受領から60日以内のできる限り短い期間内に支払う義務もあります。さらに、6か月以上の業務委託を途中で解除したり、期間満了後に更新しなかったりする場合は、やむを得ない事由などを除き、少なくとも30日前までに予告しなければなりません。顧問契約は長期になることが多いため、終了の手続きを契約に書き、この予告期間を守れるようにしておきます。雇用との違いは業務委託と雇用の違い(フリーランス法を含む)で整理しています。
報酬の決め方
現金報酬
月額の顧問料、またはスポット相談ごとの報酬として払います。資金が限られる創業期は、月額の固定報酬を長く約束するよりも、期間を区切って見直す形にしておくと、事業の段階に合わせて調整しやすくなります。
個人に払う報酬の中には、源泉徴収が必要なものがあります。国税庁は、原稿料や講演料、弁護士・公認会計士・司法書士などの業務に関する報酬などを、源泉徴収が必要な報酬・料金として挙げています。依頼する内容と相手の資格によって扱いが変わるため、支払の前に税理士に確認してください。
ストックオプション
現金を抑えて、会社の成長に報いる形としてストックオプションを付与する方法もあります。ただし、税制上の優遇がある税制適格ストックオプションの付与対象は、原則として会社の取締役、執行役、使用人です。社外のアドバイザーに付与する場合は、次の認定制度を使わない限り、税制適格の対象になりません。
社外高度人材の認定制度
経済産業省によれば、中小企業等経営強化法に基づいて会社が「社外高度人材活用新事業分野開拓計画」を作り、主務大臣の認定を受けると、その計画に沿った新事業に従事する社外高度人材に付与するストックオプションにも、税制優遇措置が適用されます(租税特別措置法などの要件も別途満たす必要があります)。
経済産業省の制度概要資料では、主な要件として次の3点が示されています。
- 認定対象企業:設立10年未満、資本金10億円以下または従業員数2,000人以下、非上場、ハンズオン支援を行うベンチャーキャピタルなどから出資を受けている、大規模法人グループに属さない、など
- 社外高度人材:国家資格の保有、博士の学位、大学の教授・准教授、上場企業などで役員・重要な使用人の経験が1年以上、過去10年間に製品・役務の開発や販売、資金調達活動に2年以上従事し一定の要件を満たす、など、いずれかに該当すること
- 専門性と貢献内容の関連性:製品・サービスの開発、事業拡大や販路拡大、組織拡大に伴うガバナンス体制構築などへの貢献が、その人の専門性と関連していること
令和6年度税制改正で、認定対象企業と社外高度人材の要件が拡充されています。申請の相談先は、本社所在地を管轄する地方経済産業局です。詳細な要件は、経済産業省の申請の手引きで確認してください。
付与の考え方
付与の量は、期待する貢献の内容と関わる時間に見合っているかで判断します。付与する場合は、関わる期間に応じて行使できる数が増える設計(ベスティング)にしておくと、途中で関わりがなくなった場合に株式が過度に外部に残ることを防げます。資本政策全体の中でどれだけを外部の協力者に割り当てるかは、資本政策の基本も参照してください。
関係を続けるための運用
- 面談の前に相談したいことを送り、面談後に決めたことを記録する
- 紹介を受けたら、その後の結果を報告する
- 半年や1年ごとに、依頼内容と報酬が今の事業の段階に合っているかを見直す
- 役割が終わったと感じたら、感謝を伝えたうえで契約を終える
アドバイザーとの関係は、事業の段階が変わると必要な専門性も変わります。最初に期間を区切っておくことが、互いにとって気持ちよく関係を終えるための準備にもなります。
まとめ
アドバイザー・顧問を迎えるときは、依頼内容、関わる時間、期間を先に決め、書面で契約します。相手が個人であればフリーランス法の義務を確認し、長期の契約では終了時の予告期間も見込んでおきます。報酬をストックオプションで払う場合、社外の人を税制適格の対象にするには社外高度人材の認定を受ける必要があるため、付与の前に要件を確認してください。
制度は改定されます。契約・付与の前に公式情報を確認し、税理士や弁護士などの専門家に相談してください。
参考資料
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